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下級迷宮都市



 カタカタコトコトと馬車に揺られている。この振動とリズムは割と好きだ。長時間乗っていると尻が痛くなるが、乗り合い馬車の座席は一応敷物が敷いてあるし、腰に巻く綿らしき魔物素材の入った座布団も備えられていて、我慢できない程ではない。馬も休憩するので、その間にストレッチもできる。


 元の世界で若い頃、車に凝った時期もあったので、板バネといわず足周りの構造もある程度再現できるとは思う。


まぁ、世界の尻が危機なら考えなくもない程度かな。


 意識を魔力操作に戻し、再びキジフェイ行きの馬車の揺れに身をまかせる。ずいぶん魔力がやわらくなってきた。パン生地くらいにはなってきたのではないだろうか?動かせる範囲も腹部から胸部へと徐々に広がっている。



「冒険者さんはキジフェイで迷宮ですかな?」


 隣に座る男性が話かけてきた。服装は普通で職業は推測できないが、同年代と思われる。


「ええ、まぁ。周辺で依頼もこなす予定ですが」


 ほんとは違うのだが、正直に話すことでもない。


「お一人で?危ないですよ?」


「深入りはしませんよ、ちょっとのぞくだけです」


 これは本当だ。男性はそれ以上話して来なかった。

せっかくだからダンジョンの雰囲気を覗いてみようと思っている。なぜならダンジョンだから。


 街道沿いの村で一泊し、馬車は順調にキジフェイへ到着した。



 キジフェイは城壁こそスイメルの高さには及ばないが、広い街だった。外からでもちょっと端が見渡せない。


「でっけぇ街だなぁ」


馬車の幌から身を乗り出して眺めていると


「ラズシッタの交通の要衝かつ迷宮都市、それに加えて穀倉地帯でもあります」


御者が説明してくれた。なるほど、それは栄えるはずだ。



 入門を終えて冒険者ギルドの場所を教えてもらい、ギルドへ向かう。夜までに宿を探す時間がないので、ギルドの案内が欲しい。


 たどり着いたギルドは、まずデカイそして広い。装飾は少ないが、大きさだけなら貴族の屋敷にもまさるだろう建物だ。入口には多くの冒険者が出入りし、中は活気に溢れていた。


 4列もある受付に並び、順番を待つ。徐々に列が進んでいき、


「次の方どうぞ」


順番がきたので、冒険者プレートを出して到着報告と街の案内をもらった。

掲示板をのぞくと、夕方にもかかわらずたくさんの依頼が貼ってある。


 キジフェイ、これほどとは。依頼を見ると、迷宮関連は素材がほとんどだ。常設依頼にアンデッドが見当たらない。Fランクは村の依頼が多いな。迷宮低階層の素材依頼は無いようだ。


 まずは宿を確保して作戦を練ろう。



 ギルドをでて、なるべくギルドから遠い宿へ向かった。

宿で旅支度を解き、食事を取って身体をふき、道具の手入れをすませ考える。


明日はどうするべきか。


街を見て回りたい、特に迷宮産の魔道具とか、武具とか。なにしろ産地直送だ。


迷宮の情報も欲しい。ギルドにあるはずだ。


Eランク間近なので、依頼も受けなければ。


そんなところか。



迷宮を見にいくのは情報を仕入れ、Eランクになってからの方がいい気がする。



 翌日は不覚にも早起きしてしまった。まるで楽しみにしてる子供のようだ、と一人苦笑う。

ゆっくりと朝の支度をして、街へ向かった。まずは魔道具店だ。

場所はギルドの街案内に魔道具店エリアが書いてあった。街が広いので、そこまで行くのにかなり歩く。


 途中には屋台も出ていて、朝食を食べたばかりだというのに胃を刺激してくる。

誘惑を振り切り、魔道具店が集まる通りに到着すると、すでにほとんどの店が開いていた。

外からは中の様子はうかがえないので、適当に入ってみる。


 1件目は所せましと雑多な物が置いてある店だった。色々あるのは見て楽しいが、これ全部魔道具なのだろうか?


「いらっしゃい」


店主が声をかけてくる。中年の女性だ。


「冒険者向けの魔道具はあるか?」


「右奥の棚がいいと思うよ」


 案内された棚には確かに冒険者向けなのだろう品々が並んでいた。ナイフだけでも鋭さ、丈夫さ、防錆。魔力を通すと自動で巻き取るロープ・乗馬微補正の鞍・大小様々なライトの魔道具・水を弾くマント・一定間隔で音の鳴るベル・濡れず燃えない座布団・大きな音のなる角笛・暗くなるランプ・中身を温めるコップ…


「だめだ、全部欲しい」


 何か選ぶなんてできない。しかもお値段が他の街より少し安い。ここにいてはいけない、頭の中で警報が鳴る。


「店主、すまないが一回りしてくる」


 なんとか店を出て、他の店へ入る。次の店は品物が整然と並べられ、それぞれに丁寧な説明書きが添えてある。ああ、なんて親切な。この店も財布の敵だ。



 戦略的撤退をして向かったのは、魔法武具店だ。通常の武具店と違い、職人がいない。武器の魔法効果は”鋭さ”とか”丈夫”といった効果が付与されている物が多い。


 特別な効果が付与された物は、値段も特別だ。例えば


「灯の鋼盾」魔力を通すと光る盾だ。お値段金貨32枚。

「巻風の槍」振るうと攻撃力の無い風が巻き起こる。お値段金貨27枚。

「ヒートブレイド」火属性の効果を追加する。お値段金貨42枚


 ちなみに、今使っている剣を見てもらったところ、おそらく”切れ味小上昇”の剣で金貨8枚ほどだそうだ。


 魔法武具は現状ではとても手が出ない。


 一通り回った頃にはくたくたになっていた。けれど、途中で気がついた。冒険者が魔道具にお金を払っていていいのか?


 魔道具職人もそうだが、冒険者も迷宮から魔道具を持ち帰り供給する側なのではないか、と。


 そこで買ったのがこれだ!


”開錠ツールセット”と”迷宮錠”


 開錠ツールセットは開錠成功率に微補正の付く一品で、迷宮錠は迷宮の宝箱と同じ構造のカギだ。合計で金貨4枚。日本円換算で40万円だ。


 大きな出費だが、練習もできるし、これで自分で取りに行けばいい。すぐに元が取れるだろう。



意気揚々と魔道具通りを出て、しばらくして気がついた。


そう言えば迷宮を攻略する予定ではなかったと。


これが冒険者を迷宮へと誘う魔力か…恐ろしい。




 気を取り直し、冒険者ギルドへ向かう。昼はさすがに昨日ほど人はいない。


「資料室ってありますか?」


受付でたずねてみた。


「情報は基本有料となります。金額と内容についてはこちらに一覧があります」


そう言って冊子を渡された。


ギルドの隣りの建物にある酒場で、昼食を取りながら冊子を眺める。


気になるのは


・周辺の地図

・階層別迷宮の地図

・周辺の魔物の情報

・階層別迷宮の魔物の情報


周辺の情報はそれぞれ銅貨50枚

迷宮の情報は1階層がそれぞれ銅貨50枚、2階層が銅貨75枚

全部仕入れると銀貨3枚と銅貨50枚だ。


 受付で欲しい情報を伝えると、該当する薄い本を持ってきてくれた。閲覧室で読むそうだ。


「迷宮へ入った事はありますか?」


「いや、初めてだが?」


「初心者の為の迷宮講習があります。銀貨5枚となっていますので、ご利用をお勧めします」


「日程は?」


「掲示板に貼りだしてあります」



 この街はいろいろお金のかかる街だ。閲覧室に向かいつつ、そう思った。



 情報を確認した後、掲示板から徒歩で1日圏内の村のゴブリン討伐の依頼を受けた。



 次回の迷宮講習が4日後だったからだ。



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