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98.覚晶石

【覚晶石】

堕悪ドワーフ族が採掘した、ある異世界鉱物を加工して制作したアイテム。

生物に向かって投げ、命中すると発動する。発動後、命中した生物への浸蝕を開始し、その生物の体表をアイテムから発生した結晶が覆い尽くせば、浸蝕完了となる。浸蝕完了後、対象となった生物の体表を覆っている結晶が硬質化・変形し、鎧状になる。

それによって、浸蝕した生物のステータスをかなり向上させる。それに加え、浸蝕した生物が使用者の命令に従うようになる。

また、これはまだデータ不足ではあるが、特定の属性エネルギーを吸収する性質が付与される。

いまだ試作品の為、他にも仕様外の性能が隠されている可能性有り。



件の何かを鑑定してみたところ、こんな情報が出てきた。


「異世界鉱物?」

「まあ、場合によっては、異世界存在だけではなく、無機物とかも境界を越えてきますから」

「なるほど。…しかし、浸蝕、鎧化、特定の属性エネルギーを吸収、ね」

「どうかしましたか?」

「この三フレーズが揃っている相手に、心当たりがあってな」

「相手、ですか?ですがこれは、鉱物が原料らしいですよ?別物ではないですか?」

「それなら、その方がありがたいんだが、その相手の特性に休眠時は鉱物化するというものがあってな。休眠中は、鑑定しても鉱物としてしか表示されないんだ」

「そんな異世界存在がいるのですか!…ちなみに、その異世界存在はマズイ相手ですか?」

「アビスよりのマズイ相手だな。いや、貴女への危険性で言えば、アビスなんてめじゃないな」

「そんなに!…どういった相手なんですか?」

「そうだなぁ?まず種族名はルーラー。俺の故郷の世界にある言葉で、支配を意味する名前だ」

「支配?」

「ああ。ルーラーの能力には、支配に関する能力が二つあるんだ。一つは先程のアレ。生物に接触し、その生物の体表を鎧化して強化。その行動をある程度支配することが出来る」

「もう一つはどんなのですか?」

「もう一つは、自分と同じ属性の属性エネルギーを支配する能力だ」「自分と同じ属性エネルギー?ルーラーは何属性なんですか?」

「ルーラーの属性は、個体ごとに違う。こういう点は、俺のユニットエレメンタル達と似ているな」

「たしかに似ていますね。バリエーションの幅は、どれくらいあるんですか?」

「そうだなぁ?基本的な火、水、風、土、光、闇は押さえてあって、氷、雷、鋼、影属性なんてのもあったな。なかなかにバラエティーにとんでいたはずだ」

「基本属性に加えて、複合属性持ちもいるということですか。それで、属性エネルギーを支配するというのは、具体的にはどういうことなのですか?」

「まずはルーラーの周囲では、そのルーラーと同じ属性の攻撃や魔法が発動出来なくなる。理由は、その攻撃や魔法で発生する属性エネルギーが、全てルーラーの支配下に置かれてしまうからだ」

「特定の属性を完封出来るということですね」

「ああ。さらに言うと、属性エネルギーを支配している為、その支配している属性エネルギーをルーラーは全て自由に扱うことが出来る。まあ、通常はすぐに自分に集約させて、自身の強化に使ってしまうがな」

「特定の属性を完封した上に、自身のパワーアップまで…。恐ろしい性能ですね。そしてそれはつまり、異なる属性のルーラー達が大挙して押し寄せて来たら、全ての属性が完封されるということでもありますね」

「ああ。ルーラー達が徒党を組めば、属性攻撃だけでなく、属性付きの防御・補助スキルや魔法、回復関係も全て完封出来る。つまり、純粋な物理攻撃しか出来なくなるということだ」

「討伐難易度、かなり高そうですね」

「…高いというか、徒党を組んだルーラー達を討伐するのは、事実上不可能だ。なんせ、先程言った攻撃、防御、補助、回復の魔法やスキルに加えて、属性さえ付いていれば武器や防具、各種アイテムにまで支配がおよぶからな。逆にルーラー達は、属性エネルギーを吸収してパワーアップ。属性攻撃なんかも、こちらと違って好きなだけ使ってくるからな」

「たしかにそれは、事実上討伐は不可能ですね。……本当に、そんな討伐不可能な相手が私の中にいるんですか?」


エレンは心底嫌そうな顔をしながら、聞いてきた。


「残念ながらな。俺が感じた引っ掛かりと、鑑定結果を鑑みると、高確率でこの世界に来ていると思う」

「そう、ですか」


エレンは俺の言葉に、とても苦い顔をした。


「そこまで嫌な顔をしなくても。幸いというか、俺はルーラー達について把握している。休眠中のルーラー達なら、堕悪ドワーフ達みたいに簡単に対処出来るし、覚醒状態でも習性などは把握しているから、完全にどうにも出来ないわけじゃない」

「そう、なのですか?」

「ああ。ルーラー達の行動原理も把握出来ているから、一応は制御も出来る」

「…本当に?」

「嘘を言ってもしょうがないだろう」

「そう、ですよね」


「それで、これからどうするんですか?」

「ドラッヘ達と交渉。と、いきたかったが、優先順位としては、ルーラー達への対処となるだろうな。堕悪ドワーフ達がルーラー達をアイテムに加工なんてことをしているみたいだし、下手をするとルーラー達がすぐにでも覚醒し、この世界に異変が起こる可能性がある」

「異変、ですか?」

「ああ」

「何が起こるんです?」

「属性エネルギーの収束現象。それと、それにともなう一定領域内の、強制的な環境属性の変更」

「つまり?」

「ルーラー達が周囲にある自分と同じ属性のエネルギーを自分に収束させ、ルーラーを中心としたその付近一帯が、やがてそのルーラーと同じ属性に塗り替えられる。例を出すなら、そうだなぁ?…わかりやすい火属性で説明するかな。まずルーラー達は、[テリトリー]を展開する。この[テリトリー]というのは、そのルーラーが属性エネルギーを支配出来る有効範囲のことだ。まずは有効範囲の属性エネルギーを支配し、そのエネルギーを自身に取り込む。テリトリー内の属性エネルギーが無くなると、今度はテリトリーの接触面から有効範囲外の属性エネルギーの吸収を始める」

「その場合だと、何処までの範囲で属性エネルギーを吸収出来るのですか?」「隣接している場所にもよるが、最低でもテリトリーの1.5倍程度の範囲まではいくはずだ」

「1.5倍。有効範囲外でも、それなりの影響力があるのですね」

「そうだな。そこまでの範囲の属性エネルギーを吸収すると、ルーラー達は第二形態に移行する」

「第二形態?」

「ああ。ルーラーは、内包する属性エネルギーの量によって形態を変化させるんだ。今までの説明は、休眠状態を含めた第一形態。宝石のような鉱物状態での行動だ」

「第二形態というのは、どのような姿なのですか?」

「第二形態は、先程の姿とたいして変わらない。近場の生物に接触し、そのまま鎧化。その鎧の状態が、ルーラーの第二形態だ。ただし」

「ただし?」

「本来のルーラーの第二形態は、共生型だ。接触した相手のステータスを向上させる代わりに、ルーラーは移動能力を得る。それによって、ルーラーはより広範囲の属性エネルギーを吸収するというわけだ。最初の方に言ったある程度の支配というのは、共生相手を自分の欲する属性エネルギーの方へ向かわせる程度のものだ。その他に関しては、完全に共生相手任せだ」

「ああ、そう繋がるのですね」


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