97.堕悪ドワーフの切り札
「[エナジードレイン]か?」
「うん!」
「どうします、これ?」
「どうしようか?」
堕悪ドワーフ達が突然崩れ落ちたのを見た俺とエレンは、堕悪ドワーフ達の傍に立ったままのアビスクイーンと合流した。そして、堕悪ドワーフ達が倒れた原因を確認し、これからこいつらをどうするか考えた。
アビスクイーンへの様子から考えれば、悪い連中ではない。しかし、エレン達の立ち位置から見れば、忌ま忌ましい裏切り者達の末裔である堕悪ドワーフ達だ。
俺の立ち位置から見ると、エレン達の敵であることに加え、これから仲間にしようとしているドラッヘと戦っていた相手の仲間ということになる。
多数決的な観点からすれば、敵として始末しておくべきだろう。
「このおじいちゃん達、殺しちゃうの?」
「俺達の立場からすると、そうなるだろうな」
「それなら、私にちょおだい!」
「欲しいのか?」
「うん♪」
アビスクイーンは元気よく頷いた。
ふむ。どうせ始末する方に傾いているし、身内に与えるなら問題は無いか?
「…ちなみにだが、何の為に欲しいんだ?」
「うーんとね、あの子達の身体になってもらおうと思ってるの」
「あの子達?身体になってもらうということは、ひょっとしてアビスコア達のことか?」
「うん!あの子達に、動ける身体をあげたいの。この間のことで、身体が無くなっちゃった子達がいるから」「ふむ。堕悪ドワーフ達を、アビスの寄生先として使うか。……悪くはないな」
少しの間考えて、俺はそう結論した。
別段そのまま放置するわけでもないし、アビスコア達の器にするのなら、戦力アップとなる。それなら、ただ殺すよりも有益な使い方だ。
「貴女的にはどうだ?」
「堕悪ドワーフ達が、異世界存在であるアビス達の傀儡となる。ただ殺すよりも、好ましいかもしれません。自分達のせいで来た来訪者達に、せいぜい奉仕してもらうとしましょう」
俺達の中で、一番堕悪ドワーフ達に思うところがあるはずのエレンからもOKが出た。
ならこれで、堕悪ドワーフ達の扱いは決まった。
「なら決まりだ。アビスクイーン。君の好きにすると良い」
「ありがとう、お兄ちゃん!お姉ちゃん!さあ、みんな!」
アビスクイーンが俺達に礼を言った直後、アビスクイーンのドレスから無数のアビスコアが堕悪ドワーフ達目掛けて飛び立った。
そしてアビスコアは、堕悪ドワーフ達の頭に付着した。すると、マップ上の堕悪ドワーフ達の表示が、アビスポーン(タイプ:堕悪ドワーフ)に切り替わった。
「これで堕悪ドワーフ達は片付いたか。次はドラッヘ達だな」
俺は視線を、アビスポーン達からドラッヘの方に移した。
移した先では、ドラッヘが火傷を負っている堕悪ドワーフ達に、トドメを刺そうとしていた。
あれが終わるまで、声をかけるのは待った方が良いだろうな。
「うん?」
俺達が堕悪ドワーフ達の最期を見届けようとしていると、堕悪ドワーフの一人が懐から何かを取り出した。
その取り出した何かは、先程こちらの堕悪ドワーフ達が手に持っていた物と同じ物のように、俺には見えた。
外見は何の変哲もない、ただの黒みがかったアメジストの結晶のように、俺には見えた。しかし、外見以外の部分で何かが引っ掛かった。
その何かを以前見かけたことがあるような?
…それはともかく、このタイミングで堕悪ドワーフが出したいじょう、あの結晶は堕悪ドワーフ達の切り札なのだろう。先程、こちらの堕悪ドワーフ達もそんなことを言っていたし。
いったい何をするつもりなんだ?
俺達が成り行きを見守っている中、その何かを持っている堕悪ドワーフは、なけなしの力でその何かをドラッヘに向かって投げ付けた。
その何かは弱々しく宙を舞、なんとかドラッヘに命中した。
本来なら避けられただろうに、ドラッヘは堕悪ドワーフ達に哀れみでも感じたらしく、その最期の悪あがきの攻撃を黙って受けたようだ。
しかし、それはドラッヘの油断でしかなかった。
「GUGAAAA!!!」
「むっ!」
突如ドラッヘが雄叫びを上げた。
どうしたのかとドラッヘを見ると、堕悪ドワーフの投げた何かが、ドラッヘの身体を浸蝕していた。
アメジストのような結晶からさらなる結晶が発生し、それがどんどんドラッヘの身体を覆っていく。
それに比例するように、ドラッヘの雄叫びがどんどん大きくなっていった。
どうやらかなりの苦痛をともなっているみたいだ。
「行け」
ドラッヘを乗っ取られるわけにはいかないので、俺は浮遊腕をドラッヘのもとに差し向けた。
浮遊腕はドラッヘの結晶化した体表に触れ、触れた部分を起点に時間の遡航を行う。
文字盤を象った黄金の魔法陣が出現し、その針が逆回転を始めた。その回転に連動するように、ドラッヘの結晶化した体表が徐々に元の鱗の状態に戻っていく。
浸蝕にようしたのと同じだけの時間が経った時、アメジストのような何かはドラッヘの身体から呆気なく剥がれ落ちた。
俺は浮遊腕でそれを回収し、自分の手元に引き寄せた。
こちら側にあった物と合わせ、先程何に引っ掛かりを覚えたのかの原因の特定を開始した。




