94.購入した土地は…
「寂れているわけじゃないが、老朽化は酷いみたいだな」
「そうですね」
俺達がたどり着いたのは、広々とした空き地。
教会や平民街の真ん中辺りに、向こうの基準でいえば、駐車場込みのスーパーくらいのサイズの空き地がある。
地図によると、ここが俺達の購入した土地ということになっている。しかし……。
…自分で頼んでおいてなんだが、王都の端の方とはいえ、なんで王都の中でこんな広いスペースの土地が空き地になっているんだ?
「いわくつきだからじゃないですか?」
俺が疑問を持っていると、エレンがそう言ってきた。
「いわくつき?」
「ええ。この場所には昔、強欲の邪神マモンを奉ずる人類種達の研究施設があったのです」
「信仰神の次は邪神か。しかし、あった?」
「はい。二千年前の人類種達の技術ならいざしらず、今の人類種達の技術では、管理神達の目を欺くのは不可能です。ですので、管理神達の神託を受けた神官や城の兵士達に邪神の信徒達は摘発され、研究施設自体も今ではご覧のとおりのとおりに潰され、現在ではさら地となっています」
「ああ、なるほど。だからこれだけのスペースが手付かずで残っていたのか。邪神の信徒達の研究施設跡地なんて、不吉というか呪われていそうだものな」
「そういうことです。実際には呪いなんて存在していませんが、縁起は悪いですからね」
「だろうな。しかし、そんなことは言われなかったんだがな?」
少なくとも、コルンからは何か言われた覚えはなかった。
「まあ、もう四百年も昔の話しですからね。わざわざよそ者の貴方に話すことではなかったのでしょう」
「四百年……。随分と放置されていたんだな」
随分と年季の入った話しだ。四百年も土地を放置しておくとは。
「なんせ、自分達の神を封じた邪神の信徒達が使っていた土地ですからね。忌ま忌ましくて、誰もがとても使う気にはならなかったのでしょうね」
「なるほど、そういうことか。それなら納得だ」
たしかに神敵がいた土地なんて、好んで使いたいわけはないな。土地不足ならともかく、周囲に土地は余っているわけだし。
「だがそうなると、ここに飲食店を開いても、彼らは客として来てくれるのか?」
だがそうなると、この土地を購入したのは失敗ということになる。誰も来てくれない飲食店では、建てる意味も、運営する意味もない。
土地を買い直した方が良いだろうか?
「その必要はありません」
「ないのか?」
「はい。私達には、いくらでも対処する手段がありますので」
「例えば?」
「そうですねぇ?一番確実なのは、管理神達に王都の人々へ神託を降してもらうとか、王都の人々に見えるように奇跡を起こしてもらい、この土地が大丈夫なことをアピールするとかでしょうか?」
「それならたしかに確実だろうが、目立ち過ぎるだろうな。この国の人々はともかく、まだ信仰神達や邪神悪神達。それとその信徒達に俺達の存在が感づかれるのは、出来ればまだ避けたい。入れ食い状態に出来なくはないが、それをする優先順位は、まだまだ低いからな」
「そうですね。信仰神達本体相手なら苦戦もするでしょうが、信仰神達は信徒達の減少で力が衰えますからね。信仰神達の信徒達を全滅させてしまえば、わざわざ信仰神達と戦う必要もなく、簡単に消滅させられます。ですので、こちらは聖女達に付けたアビス達が繁殖するのを待っていれば良いですものね」
「まあ、そういうことだ。さて、そういうことで今の案は今は却下ということで」
「わかりました。それでは次の案です」
「ああ」
「人々のこの土地に対する記憶や印象を、全て書き換えてしまいましょう」
「記憶や印象の書き換えか?それはリライトを使うってことか?」
「そうです。もう四百年も前の出来事ですので、そんな不吉な記憶は風化させてしまった方が良いでしょう。サクッと、忘却させてしまいましょう」
「いや、それはどうなんだ?言いたいことはわかるんだが、極端過ぎやしないか?」
「なら別の案にしますか?」
「まだあるのか?」
「はい。貴方の観点なら、一番馴染み深い方法です」
「それはどんな方法なんだ?」
俺の観点で馴染み深いってことは、異世界の何かか?
「その方法はずばり、お祓いと地鎮です」
「お祓いに地鎮?それってあれか?建物を建てる前に神主というか、神職の人にやってもらうやつ?」
「それです。教会に依頼して、大々的にここは安全だと人々に示すのです。そうすれば、安心してお客様が来るはずです」
「ふむ。悪くない案だ。ならとりあえずは、教会でお祓いと地鎮を依頼するとしよう。寄付もしてしまえば、最低でも一石二鳥の一鳥は狙えるしな」
「そうですね。それが良いと思います」
俺達はこれからすることをそう定め、今度は管理神達を崇めている教会に向かった。




