90.人化した八人
「荒れ果てているな」
「そうですね。やはり神々の加護が無いと、人には生きにくい環境になりますね」
現在俺達がいるのは、見渡すかぎりに広がっている荒野。
アムレートゥム国と、信仰神達を崇める他の国々との間に広がっている、【貧富の境界】とも呼称されている場所だ。
その異名の理由は、ここを境に国単位での貧富の差が出来ているからだ。その差が出来ている理由はもちろん、神々が加護を与えているか、与えられないでいるかの違いだ。
「それに加えまして、信仰神達が自然の流れを自分達の信者達に都合の良いようにいじくっているのも原因の一つです」
「そうなのか?」「はい。私がいくらアムレートゥムにエネルギーを流そうとしても、それを片っ端から横取りしていくのです。そのせいで、この地には取りこぼされた微量のエネルギーしかたどり着かないのです」
「とことん邪魔な奴らだな、信仰神っていうのは」
「まったくです」
彼女は俺の言葉に大きく頷いた。そう、頷いた。
現在の彼女は、人化して人の姿になっている。かくいう俺もそうだし、俺達に同行している他の面々もそれは同じだ。
この人化は、この間上役達からプレゼントされた[予言された悪神]の効果だ。本来はあらゆる動物になれる効果だが、人間も広義の意味では動物なので、拡大解釈で人化出来る仕様にしたのだ。
現在この場所に来ているのは、俺、彼女、アムレートゥムの民が崇めている管理神達四柱。それと俺が同行を求めたダンタリオンと、自発的について来たアビスクイーンの計八人だ。それぞれの人化した姿は、俺が鮮やかな青い髪に金色の瞳。外見年齢は十七、八で、身長は170cm程度。あちら(ホライズンヒュドラ)の方ではどうだかわからないが、人間体の体型は着痩せして見える細マッチョになっていた。太っているよりは嬉しいが、この筋肉はどこから発生したのだろうか?
……願望とかだろうか?それともランダム?この辺はいまひとつ謎だ。
ついでにいえば、面立ちもそれなりに整っていた。ただまあ、顔面偏差値は普通のような気がする。少なくとも、見知っているテレサ達は全員整った顔立ちをしているから、この世界ではそういうものなのだろう。
服装の方は、ドロップアイテムで調達した黒いシャツに、紺色のジャケット。黒いズボンに、白のスニーカーといったいで立ちにしている。ちなみに武器は装備していない。
スキルは豊富だし、ある意味当たり前だがステータスが人外なので、武器が必要無いからだ。
次に彼女。いや、ここは名前で呼んでおこう。次はエレンについてだ。
ちなみにエレンというのは、人の国に行くのに名前が無いと不便ということで、急遽エレメンタルの名前をいくつか削って作った偽名だ。さすがに彼女の本名?である世界名を名前にするわけにはいかなかったので、こういう名前を使うことにした。
それでエレンの人化した姿だが…。ああ、いや、ここはまとめていこう。なんせ、エレン、ノルニル、ラケシス、ニュクス、アステリアの容姿も格好も、五つ子のごとく色彩以外はそっくりなのだから。
始め見た時は俺も驚いたが、エレン達の人化した姿は、顔立ち、背格好、体型。それらが同一規格の人形のごとくまったく同じだったのだ。最初は同じ力で人化をしたせいなのかとも思ったのだが、ノルニル達の言によると、現在封印されている自分達の本体と同じ容姿とのことだ。エレンがこの容姿になった理由は不明だが、管理神達についてはそういうことらしい。
何か手抜き臭がするが、管理神達には容姿のバリエーションが求められていないということで、いろいろと納得しておくことにした。
それでエレン達の人化した姿だが、外見年齢は二十代前半の女性。背丈は女性にしては高めで、体型はボンッ!キュッ!ボンッ!出るところは出ていて、くびれるところはくびれている、ある意味女性の理想とする体型をしている。容姿は完全に人外の美貌で、これぞ神と言わんばかりの神々しい面差しをしている。
耐性の無い者が見たら、老若男女問わずに一瞬で見惚れて虜となり、そのままストーカーか信者に一直線といった感じの容姿だ。
もっとも、往来でそんなことになったらどちらも困るので、そうならないように対策はしてある。
その他の共通点としては、エレンやノルニル達は髪を腰を越した辺りまで延ばしていることがあげられる。枝毛の一つも無く、比喩ではなく流れるような艶やかな髪をしている。
女性が激しく嫉妬しそうだが、男の俺にはただ美しいとしか言いようがない。
最後に服装。それぞれ色は違うが、飾り気の無いシンプルなドレスを着ている。彼女達いわく、管理神達の基本的な装いらしい。
次は彼女達の違う部分について。エレンの髪は水鏡色で、瞳は虹色。ノルニルの髪は淡い金髪で、瞳の色は鮮やかな若草色。ラケシスの髪は銀色で、瞳の色は白みがかった銀色。ニュクスの髪は闇をとかしたような黒で、瞳の色は暗色の紫色。アステリアの髪は黄色がかった銀色で、瞳の色は淡い緋。
ドレスの色はそれぞれの髪色と同じで、全員武器は装備していない。装備していない理由は、俺と同じだ。彼女達にはそれぞれの権能があるので、武器が不用なのだ。
次にダンタリオンの姿について。黒髪黒目、長身痩躯の二十代後半の男性の姿をしている。顔立ちは悪役顔だが、美形である。服装は黒いローブを着ている。武器はとくに装備していないが、それなりの厚さの本を一冊、つねに片手に持っている。
内容は知らないが、何かこだわりがあるらしい。
最後にアビスクイーンについて。
アビスクイーンの姿は、ピンクブロンドの髪に銀色の瞳。かなり幼い顔立ちをした、十代前半の少女の姿をしている。………いや、ここは正確に言っておこう。アビスクイーンの外見は、少女ではなく童女だ。ミニマムなロリータだ。
ちなみに、アビスクイーンの存在年数から換算すると、人化した姿は年相応らしい。
アビスクイーンの服装は、花びらを模したフリルがふんだんに使われた、桃色のゴシックドレス姿である。その容姿ともあいまって、全体的に可愛いらしい感じになっている。
アビスクイーンも武器は装備していない。…してはいないが、アビスクイーンのゴシックドレスの裾の部分からは、無数の銀色の茨が見え隠れしている。
これらが現在の俺達の姿である。ただし、外見年齢その他は今すぐにでも変更が利くので、これが今後も人化時の基本的な姿となるかは、まだ未知数である。
もっとも、俺は今の姿をだいぶ気に入ったので、これからも愛用していくつもりだが。
「さて、いつまでも荒野を見ていてもしかたがない。そろそろアムレートゥム国の王都に入るとしよう」
「そうですね。彼らに恩恵を与えに行きましょう」
俺がエレンを促すと、他の仲間達も王都に向かって一緒に歩きだした。




