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89.アムレートゥム

人が戦争をするのは、どういった場合だと思う?

『私の経験則から言わせてもらいますと、自分達が満たされていない時ですね。管理神達との戦いの時は、私(この世界)を自分達のものにしたいという欲望。管理神達の加護が失われた後は、食料、資源、土地、環境。自分達の欲するものを奪う為に人類種達はそれぞれ戦争をしていました』

まあ、戦争の理由といったら、そんなものだよな。今の俺なら、そのどれをも理由に戦争を引き起こすことが出来る。

時を操り、植物の実りを無効にして飢饉を引き起こすことも出来るし、[魅力]や[楽園の蛇]を使って、為政者達に戦争を始めさせることも出来る。[ダンタリオン]を使って人類種達に幻を見せ、領土侵犯などで戦争の引き金を引くことも出来る。あとは、貨幣同様に細工した武器を特定の人類種達に供給し、侵略戦争を起こさせる手もある。

まあ、もっと根本的な手で、戦争をする運命を確定させるという手もある。その場合は、確実な戦争を演出することが出来る。どうしようもなく悲惨で、人類種達の手では決して終わることのない戦争を。

……少し考えただけでも、これだけのことが今の俺には可能だ。

『たしかに、戦争なんてダース単位で引き起こせますね』

そうだ。まあ、運命を確定させるつもりはないがな。

『なぜです?その方が確実でしょう?』

たしかに確実ではあるが、人類種達が自分達の罪で自滅していく方が好ましいからな。あまりにも規定路線な物語りなんて、読んでもつまらないし。

『そちらが本音ですか?』

どちらも本音だ。




さて、それではそろそろ具体的な場所とかを決めようか。何処かオススメの国とかはあるか?

『料理で支配するのにオススメの国ですか?そうですねぇ…………いくつか候補はあります。ただ、私としましては、それらとは別のある国に行ってもらいたいです。貴方の目的の主旨からはズレることにはなりますが…』

俺の目的とはズレる?それはどんな国なんだ?

『国の名前は【アムレートゥム】。この大陸の北西部に位置する小国です』

北西部にある小国ねぇ?なんでその小国に行ってほしいんだ?

『その小国は表向きは信仰神達を崇めている国なのですが、実態は違います』

実態が違うということは、ひょっとして…。

『はい。アムレートゥムで本当に崇められているのは、管理神達です』

国単位で管理神達を崇めている国。そんな国が本当に存在しているのか?

『はい。かつての天変地異を生き延びた私達側の民の末裔。それがアムレートゥムの民達です』

ああ!そういえば、前に天変地異ではこちら側の人類種達は誰も死ななかったとか言っていたな。

その時に生き残った連中の子孫達か?

『そうです。生き残った子らが集まって建国したのが、アムレートゥムです。もっとも、管理神達は全員封印されてしまっていますから、ろくな加護を与えられず、長らく貧しい暮らしをさせることになってしまいましたが』

だから小国なのか?

『そうです。邪神側の人類種達と違って、彼らは信仰神側に宗旨替えすることはありませんでした。ですが、それが彼らから繁栄する機会を奪ってしまったのです。御利益を出せない管理神達よりも、御利益を出せる信仰神達の方が信者達を富ませられる。ごくごく当たり前の話しです』

なるほど。たしかに加護の話しとなると、そうなってしまうよな。…それにしても、テレサ達といい、そのアムレートゥムの民といい、随分と義理堅くて信心深いな。二千年もの間管理神達を信じ続けているなんて。

俺の故郷の国では考えられない話しだ。

『ええ、まあ、そうですね。ですがそれは、管理神達とテレサやアムレートゥムの民達の距離が近しいからです。他所の世界では、神々が人の前にまったく現れないせいで、その世界の神々と人が信じている神々がまったくの別物であるパターンも、わりとよくあります』

ああ、まあ、想像だけで神を信仰すると、そういう相違は普通に発生するよな。

『そうなんですよね。そういう意味では、私の中にいる神々は管理神、信仰神、邪神、悪神、全員が名前と姿をそれぞれ人類種達に知られていますね』

神違いがないだけ良いのかもしれないが、それだけ近しいせいで人類種達は馬鹿なことを考えたんだろうな。

『……そうですね。当時の人類種達は、管理神達の立ち位置を奪って、私(この世界)を支配しようとしていましたから』



…それで、俺はそのアムレートゥムという国で表向きの行動をとれば良いのか?

『はい。料理革命などを起こして、長らく耐え忍んできた彼らに豊かさを与えてもらいたいのです』

管理神側の人類種達相手ならそれは構わないが、本当に富ませるのなら、敵にまで利益が発生するのは問題があるぞ。その辺はどうなんだ?

『その辺りはとくに問題はありません。アムレートゥムは辺境に位置していますので、他国に影響力の無い反面、他国からの影響もほとんどありませんから』

そうか。それなら、おもいっきり介入しても良いんだな?

『どうぞご自由に。思う存分、恵みを彼らに与えてあげてください』

わかった。いろいろとやってみよう。


俺は料理革命のプランを修正し、豊かな食卓計画の思案を開始した。



ふむ。最初はこんなものだろうか?あとは、現地で調整をかけて最適化していけば良いだろう。


しばらく計画を練った後、俺はとりあえずの枠組みを決定した。


『決まりましたか?』

ああ。とりあえずの構想は出来たから、後は直接現地を見て、それに合わせて普及させていくつもりだ。

『それが良いでしょう。なにごとも、過剰にやり過ぎるのはいけません。物事は、バランスを意識しながらゆっくりと浸透させていく方が、綺麗に落ち着きます』

そうだな。あまり急に変化させると、いびつになったり、不自然な箇所が目立つようになるだろうからな。

『はい』


それでは早速行くとしよう。……いや、その前に手分けをしておくか。


俺は人化しようとして、途中で思い留まった。

別段、今の俺が全てアムレートゥムに行く必要は無い。せっかく新しい特殊能力を得ていることだし、この機会にそれを利用しない手はない。


俺は早速、新しく獲得した[群体行動]の特殊能力を発動させた。

すると、俺の身体が複数の色の粒子に変わり、それがそれぞれ分かれて別々の身体を構築していった。


まずは一つ目。俺の制御下にある、九つの頭を持ったヒュドラの身体。

二つ目。エレメンタルの大樹と、彼女の意識が宿った頭を持つ身体。

三つ目から六つ目。それぞれの管理神達の意識が宿った頭を中心に、それぞれのサブシステムの頭が横に生えている身体。

七つ目以降。それぞれが時間樹、アビス、ルスト、シュピーゲル、擬似・仮想神格達を宿した頭を持つ個体達。これらの個体達は、それぞれの要素が強く反映されていて、それぞれが随分と特徴的な姿をしている。


総勢、二十ちょっとの身体に分かれた。

これが俺の[群体行動]の効果。自分の身体を頭やそれぞれの部位ごとに分割し、それらを一つの身体として行動させられるようになる。今まで多用していた[霧化]の上位能力といった感じだ。この能力なら、[霧化]以上の範囲内を分かれた身体がそれぞれ行動することが出来る。

だからこそ、今回のような機会はまさにうってつけだ。



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