87.悪意はゆっくり広がる
まず前提として、俺達は転生プレイヤー達の上役に手出しは出来ない。これは良いよな?
『そうですね。私達では基本的に、上の方々をどうこうすることは出来ません。ただし…』
ただし?
『こちらの上の方々を通じて、間接的に干渉することは可能なはずです。こちらの方々は貴方に対してかなり過保護ですから、おそらくは頼めば交渉の一つや二つはしてくれると思います。ただ、上の方々同士で戦ってもらうなどは無理でしょう。というか、絶対にしてほしくありません。世界が三桁くらい、軽く消し飛びます』
三桁も消し飛ぶのか!
『軽い小競り合いでそれです。本気で上の方々が激突しあったら、万単位で消し飛ぶことになるでしょう』
うわっ。なら、それは絶対に避けないとな。
『ですね』
ううむ。
『どうしました?』
いや、そこまで大事になるのなら、聖女達に付けたモンスターへの命令を変更しておいた方が良いと思ってな。
『なんと命令していたんです?』
まずは聖女達の影に潜伏すること。
『それはあの時の命令ですね。それで?』
潜伏した後は、聖女達の生命力を気づかれない範囲で吸収し、影の中で増殖しろ。そしてある程度増殖したら、他の人類種達の影に巣別れを行い、そこで生命力をまた吸収して増殖しろと命じた。
『なんでそんな命令にしたんです?』
向こうの上役が干渉してくる境界線を見極めようと思ったんだ。
『境界線をですか?』
ああ。今回は時間を稼ぐだけでよかったが、次回もそれで良いとは限らない。他の転生プレイヤー達が人類種達の側につくのなら、嫌でも戦うことになる。
『それは…、そうでしょうね』
その際、相手の上役がどの程度まで許容するのか。どの程度から干渉・テコ入れをしてくるのか。落としどころを把握する為にも、その辺りのことを調べておこうと考えたんだ。
『それはたしかに調べておく必要がありますね。転生プレイヤーは複数いますから、最低でも一人くらいとは確実に敵対するはず。ある程度の境界線がわかっていれば、こちらはそれを越えないように行動すれば良いですからね。少なくとも、ノーヒントよりは生存しやすいですね』
だろう。まあ、俺達じゃなくて相手が俺達の上役達の境界線を踏み越える可能性もあるけどな。
『ああ、たしかにそちらのパターンもありますね。そちらも調べますか?』
いや、そっちはまだ後回しで良いだろう。最優先は、こっちの方だ。
『わかりました。それで、貴方が命じた命令内容は先程のだけですか?』
いや、もう少しある。
『何をどう命じたんです?』
増殖した後、潜伏した対象がキャスト、キャストと親しい者ではなかった場合、キャスト達との関係性に応じて吸い取る生命力の量を変えていくように命じておいた。
『それにどんな意味があるんです?』
単純に人類種達の根絶と、キャスト達以外の人類種達にはどの程度まで干渉すれば向こうの上役がが反応するかの確認の為だ。
『なるほど。では、どう命令を変更するんですか?』
とりあえず、気づかれない範囲で生命力を吸収させ、増殖に力を入れるように命じるつもりだ。いつでも人類種達を根絶出来るようにな。
『それが良いでしょう。ですが、モンスターの数が増えれば発見されるリスクが高くなりませんか?』
それは問題無い。
『どうしてですか?』
例え鑑定系や探索系のスキルや魔法を使っても、発見することは不可能に近いからだ。
『不可能に近い?どうしてです?』
それは、件のモンスターが蚤型だからだ。
『蚤?あの微生物の?』
そうだ。蚤サイズの極小生物が相手では、肉眼での目視はほぼ不可能だ。
『なるほど。てっきりステルス能力でも持たせたのかと思っていましたが、単純なサイズの問題でしたか。たしかにそれなら、鑑定系の能力も役には立ちませんね。そもそも認識が出来ませんから』
だろう。
こうして俺は彼女に現状の説明を終え、遠隔地にいるモンスター達に命令の変更を伝えた。
『今、何をしたんです?』
うん?何がだ?
『今、何かしたでしょう?何をしたんです?』
ああ、ただたんに、モンスター達に命令の変更を伝達しただけだ。
『命令の変更を伝達しただけって…。今貴方はここに揃っていますよね?件のモンスター達に分体をつけているわけでもないのに、どうやって命令の変更を伝えられたんです?』
ああ、そこが気になるのか。その答えは、ゲームプレイヤーの指令コマンドだ。ゲームプレイヤーが最高レベルに達したことで新しく使えるようになった能力で、所有者の仲間や眷属達に、命令を伝達することが出来るんだ。ただ、これは一方通行なんだよな。
『一方的に命令する分には便利なんですから、その程度の不満は我慢してください』
まあ、そうだな。一対一なら、対話型のもあるし。
『そんなのも増えているんですか?』
ああ。ゲームプレイヤーの、チャットという機能がある。
『いろいろと増えているのですね。その他にもまだ増えていたりするんですか?』
ああ、まだ他にもいろいろと追加されている。
『ちなみにどんなものが?』
………。
『どうしたんです?』
いや、追加されている他の項目がちょっと、な。
『貴方が沈黙するような内容なのですか?いったいどういったものが追加されていたんです?』
そうだなぁ?こんなのか?
俺はゲームプレイヤーで新しく増えた項目を彼女に伝えた。
内容としては、以下のものとなる。
【ゲーム難易度変更】
任意対象を選択し、その対象のゲーム難易度を変更する。
変更可能難易度
・ベリーイージーモード
・イージーモード
・ノーマルモード
・ハードモード
・ベリーハードモード
・ヘルモード
・ラグナロクモード
・ルナティックモード
転生プレイヤー専用モード
・ヘブンモード
・デスゲームモード
・アウ゛ァロンモード
・スペシャルモード
・俺TUEEEモード
・無双モード
・残機無限モード
【ゲームジャンル変更】
任意対象を選択し、その対象がプレイするゲームジャンルを変更する。
【変更可能ジャンル】
・RPG
・恋愛シュミレーション
・シューティングゲーム
・群雄活劇
・ボードゲーム
・陣取りゲーム
・カードゲーム
・ダンジョンビルド
・VRMMO
・ホラー
・サスペンス
・ミステリー
・コメディー
・○○○ファーム
・総合
・………etc.
【ゲームシステム設定変更】
任意対象のゲームシステムの設定変更が可能。
【変更可能設定】
・HP制/残機制or兼用
・スキル有り/スキル無し
・スキル制/ポイント制/ステータス制
・魔法有り/魔法無し
・イベント有り/イベント無し
・システムアシスト有り/システムアシスト無し
・ペインアブソーバー有り/ペインアブソーバー無し
・フレンドリーファイア有り/フレンドリーファイア無し
・アイテムドロップ有り/アイテムドロップ無し
・………etc.
貴女に関係があるのだと、こんな感じのが増えている。
『……真っ向から私の世界法則に喧嘩を売っていますね』
やっぱりそうだよな。自分でもこのラインナップを見て、そう思った。
『ですが、ゲームプレイヤーの項目にはこのような内容は本来なかったはずですが?』
なかったのか?
『ええ。この内容はどちらかと言えば、ゲームプレイヤーではなくゲームマスターという特殊能力の方の内容です』
そんな特殊能力があるのか?
『あります。もっとも、ゲームマスターは上の方々専用の特殊能力ですが』
ああ、なるほど。制作者権限というか、創造主としての特権というやつか。
『ありていに言うと、そんな感じです』




