83.進化と融合
疲れたな。
『そうですね。まさかあのタイミングで、勇者や御使い、転生プレイヤーと接触することになるとは。その前のアビス達のことで、もうイベントは足りていましたのにね』
だな。
現在俺達は、拠点であるダンジョンゴーレムの中に帰って来ていた。
いや、頭の一つは置きっぱなしにしていたのだから、少し違うのか?……まあ、そんなのは些細なことか。
『とりあえずニュクスとアステリアの宝玉は回収できましたが、これからどうします?』
そおだなぁ?…御使い達を圧殺したことでレベルアップしていることだし、進化でもするか?
『私はそれでめかまいませんが、進化の時にニュクスとアステリアの宝玉に加えて、デメテルの宝玉も一緒に取り込んだ方が良くありませんか?』
本来ならその方が良いんだろうが、待ちの姿勢だと二週間は先だからな。俺とは別の転生プレイヤーの存在も確認されたことだし、なるべく早めに自分を強化しておいた方が良いと判断した。
『そうですか。それならそれでかまいません。進化先を表示しますか?』
いや、今回は良い。
『…よろしいのですか、進化先を確認しなくて?』
ああ。もう頭の数ほどの進化先はないだろうし、出ていてもいつものパターンだろうから、さっきの戦闘で使った能力由来の進化先になるだろう。
『そうですね。それによくよく考えると、どうせ選んだ後に上の方々からの最終調整が入りますしね』
だよな。選択した進化先はいろいろ物騒なのに、特長が成長に反映されないしな。
『まあ、レベルアップで新しい能力が増えるとかは起きていませんね。進化の時点で進化先の代名詞みたいな特殊能力は得ていますけど』
だよな。だからまあ、今回は見ずに進化を実行してみよう。問題があれば、次からまた確認して選択すれば良いし。
『わかりました。それでは進化を実行します』
彼女のその言葉を聞いた後、俺は自発的に眠りについた。
【対象の進化準備完了】
【称号[■■■■■]及び、祝福[■■■■■]の効果を起動】
【…外部からの上位コマンド入力を確認】
【特殊進化要請を受諾】
【…特殊進化要項を確認。……全項目をクリアしていることを確認】
【神格・擬似神格・仮想神格の存在を確認】
【特殊進化にボーナスを付与】
【……外部からのさらなる介入を確認】
【ギフトを獲得。対象へ授与】
【……進化プランの変更を決定】
【進化先を再検討】
【……決定】
【肉体の分解・再構築・最適化を開始】
ふあぁぁ、よく寝た。
しばらくして俺は、あくびをしながら目を覚ました。…もっとも、蛇の口であくびを出来ているのかは知らないが。
『おはようございます』
おはよう。進化はどうなった?
『…………つつがなく終わりました』
その間はなんなんだ?
また何か起きたのか?
『おそらく、自分の目で見た方が早いです』
そうか。
彼女にそう言われた俺は、いつものように自分の進化後の姿を確認した。
…………………。
その結果は、何とも言い難いものだった。
まず第一に、身体のサイズがおかしくなっていた。
俺がいるここは、ダンジョンゴーレムの傍にある森の中なのだが、現在の俺の身体はその森の範囲からはみ出している。森の端から端まで、最低でも一kmはある。つまりは、俺の全長は最低でも一kmを越しているということだ。さすがに身体のサイズが一kmを越すとなると、もはや怪獣ではなく山と遜色ない大きさということになる。はっきり言って、大きくなり過ぎだ。
ここまでの巨体となると、本体での活動は確実にアウトになる。少し動くだけで人を押し潰してしまっては、いろいろと堪らない。それが敵なら問題は無いが、味方であるテレサ達にも等しく被害を与える可能性があるいじょう、本体での活動を自粛した方が安心で安全だ。
大きさはもう[霧化]や[潜影]、特殊能力によって姿を変えることで対処しよう。……ある意味、ここ最近のやり方とほとんど変わらないか。せいぜい姿を変えられるようになったくらい。
次は現在の姿について。ベースは相変わらずのヒュドラタイプで、頭の数が四十近くまで増殖している。内、半数くらいは自分の制御下で、残りは自分では動かせない。今までのパターンを参考に考えると、おそらく彼女やノルニル、ラケシスなどの管理神達が制御権を持っているのだろう。その辺りは、カラーリングからも見てとれた。
自分の制御下にある頭は、相変わらず透き通った感じの青系統の鱗をしている。あえていえば、輝度が前よりも上がっていることが変化点か?光を受けている鱗がみなキラキラ輝いている。
逆にその他の頭達は、カラーリングや外観もバラバラだ。虹色、金色、銀色、闇色、黄色がかった銀色、白、黒、メタリックピンク等など。一つきりしかない色があったり、複数同じ色をした頭もある。前回から考えると、同じ色をしているのは管理神達のサブシステムを担当している頭だろう。
外見については、額に宝玉がついているのや、頭部に仮面や円環の紋章がついている頭がある。
前者は管理神達で、後者は今日得た特殊能力が由来だろうと、その特徴からそう思った。
次は頭以外に目を向ける。
相変わらず背中には、彼女の端末であるエレメンタルがそびえ立っていた。ただし、現在の自分の体格に合わせてか、現在では低い山と変わらない大きさにまで成長しているが…。
その後ろに同じようなサイズになった時間樹と、今までにはなかったメタリックピンクの大樹の姿があった。色艶から見て、アビスユグドラシルだと思われる。
双葉から一気に大樹まで成長したようだ。…しかし、アビスユグドラシル達まで吸収していたか?
進化時には傍にいなかったはずなんだが…?
『途中で株分けしてから合流してましたよ』
株分け?
『はい。他にルストとシュピーゲル達も、コアを株分けして、株分けされた半分のコア達が貴方の最適化中に紛れ込んで融合しました』
なんでまた?
『さあ?私は彼らと意思疎通が出来ませんから、彼らの意図は不明です』
そうか。だが、ならなんで俺と融合することを阻止しなかったんだ?それとも、阻止しようとして失敗したのか?
『どちらも違いますね。私としましては、ルストとシュピーゲルの融合については放置するつもりでした。ですが、アビス達については阻止しようとしました。ですが、上の方々からそのまま融合させるように命じられたのです』
ああ、なるほど。たしかにそれなら、どちらとも違うな。
…しかし、なんで俺の上役達はアビス達を俺と融合させたんだ?
『さあ?上の方々の考えは、私にはちょっとわかりかねます。ですが、進化してまた貴方の記憶のプロテクトが一部解除されたと思います。私にはありませんが、貴方には何か思い当たる記憶はありませんか?』
そうだなぁ?………あるな。
『どんなことです?』
アビス達の全情報。
『アビス達の全情報?』
ああ。ルスト達みたいな情報が記憶の中にあった。つまり、俺はアビス達について、最初から知っていたということになる。
『まあ、記憶にあるのならそうなりますね』
…だがこの情報、記憶というよりも何かの設定のような?




