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77.《リライト ワールドウィッシュ》対《御使い降臨》

「ふむ。ではこちらも、それなりのものを見せるとしよう。我はこれより管理者権限を代行する。我が意思は神と共に、我が身体は世界と共に、我が願いは同朋達と共にあれり!《リライト ワールドウィッシュ》!」


ダンタリオンがそう詠唱すると、ダンタリオンの姿と周囲に変化が起きた。

まずはダンタリオンの纏っている群青色のローブに、金と銀のラインが入った。それは複雑な模様を描き、何らかの紋章のようなものを形成した。また、竜の意匠をしていた仮面の柄が、虹色の体色をしたヒュドラの姿に変わった。そして、ダンタリオンの背中から無数の翼状の何かが形成された。


ダンタリオンの周囲では、今まで展開していた本に加え、新たに無数の仮面、様々な種類の時計、色彩豊かな糸巻きと糸車が出現していた。


仮面の意匠は竜に蛇、ヒュドラに樹木の図柄が多く、極僅かではあるが、ダンタリオンのローブに表れたのと同じ紋章が刻まれた仮面もあった。

時計の種類は、振り子時計に砂時計、水時計に日時計、火時計に光時計等など。他には実体の無い、魔法陣の形をした時計や二次元、三次元、四次元で展開されている時計の姿もあった。

糸巻きや糸車の糸の色は、本当に様々だった。基本的な原色に加え、色の濃淡や重なり、明暗や印象も全てが異なっていて、まったく同じ色というものはその中に存在していなかった。

「「!?」」


そしてダンタリオンの変化が終わると、ダンタリオンの身体から強大な気配が発っせられ始めた。


《御使い降臨》を行ったルーチェからも神秘的な波動が発っせられているが、ダンタリオンから発っせられている気配の前では、それも霞んでしまう。


ルーチェから現在発っせられている波動を表現するなら、人が神秘性を感じるものというか、人が神に求める理想を具現化したような波動だ。

対するダンタリオンの気配は、雄大な自然や長い年月を経た存在に人が自然と感じるような気配だ。人の本能や感性を直接揺さぶり、それを感じた人が制御出来ない感情を抱いてしまうような気配だとも言える。


「…この圧倒的な気配。あなたは何者なのですか?」

御使いと一つになっている自分をして、畏敬を抱かせる気配を放つダンタリオンに、ルーチェは聞かずにはいられなかった。


「先程名乗り返しただろう?ああ、汝は後から来た援軍の一人であったな。ならば付け加えておこう。我は、この世界の始まりより存在する古き神々。その内の二柱、時の管理神ノルニルと運命の管理神ラケシスの権能を代行する者。この世界を守護する者だ」

「「「「!?」」」」

ダンタリオンの神の権能を代行するという言葉に、誰もが不敬やありえないとは思わなかった。

ダンタリオンから現在発っせられている気配が、真実神のものであるとその場にいる全員が本能で察していたからだ。

そして、御使いと神。ルーチェの波動がダンタリオンの気配に見劣りしている理由を、全員が瞬時に理解した。


「それでは始めるとしようか。我はこれより、二柱の管理神と世界に代わり、咎人達への神罰を執行する!」

ダンタリオンがそう宣言すると、守護騎士達と戦っていた悪魔軍団が、一斉にダンタリオンが展開したままの影の中に飛び込んでいった。

ダンタリオンの戦いの邪魔にならないよう。また、神罰の巻き添えを食わないように避難したのだ。


悪魔達のその行動に、ルーチェ達は身構えた。いつでもダンタリオンの行動に対処出来るようにそれぞれ武器を構え、ダンタリオンの一挙一動に注意を払った。

されど、そんなことは管理神の権能を代行しているダンタリオン相手には、まったくの無意味だった。


「時の秒針」

ダンタリオンがルーチェに狙いを定め、短くそう呟くと、無数の黒い針がダンタリオンの正面に出現した。


「撃ち貫け」

そしてダンタリオンの命に従って、一斉にルーチェ目掛けて飛翔した。

飛翔した瞬間に黒い針は音速を突破。その姿は掻き消え、衝撃波を周囲に撒き散らしながらルーチェに殺到した。


「くっ!」

ルーチェはその高速で飛翔する針になんとか反応し、アーク達を庇う位置で盾を構えた。

黒い針はルーチェの構えた光の盾を紙切れのように簡単に貫通し、ルーチェの身体に次々と突き刺さっていった。


「ぐぅっ!」

ルーチェはうめき声を上げながら、身体をよろめかせた。


「ほお、音速程度なら反応するか。ならば、次は光速の一撃をくれてやろう」

ダンタリオンはルーチェを見ながら感心したようにそう言うと、再度黒い針を出現させた。

そして今度は、周囲に浮かんでいる砂時計のいくつかを自分のもとに引き寄せた。


「それでは発射」

そして砂時計が独りでにひっくり返ると、再び黒い針の姿が一瞬のうちに掻き消えた。

今度は先程以上の衝撃波と鎌鼬現象を引き起こし、黒い針が通過したと思われる大地には、無数の斬撃の跡が刻まれた。

また、黒い針は掻き消えたのと同時にルーチェの盾と身体を貫き通し、ルーチェの背後にいた守護騎士達の何名かを射抜いていた。


「かはっ!」

「ルーチェ姉様!」


その場にいた多くの者がそれを認識した直後、ルーチェの身体は崩れ落ちた。


「来るな!」


リュミエールはルーチェに駆け寄ろうとするが、それをルーチェが制止した。


「ですがルーチェ姉様!そのお体では…」

「もと、より、死を、覚悟で、挑んで、いるの、です」

ルーチェは荒い呼吸を繰り返しながら、途切れ途切れながらリュミエールにそう言葉を返した。


カッ!パアァァァ!!

「この程度はたいしたことはありません」

ルーチェの傷口から光が溢れ出ると、黒い針を受けて出来た穴が、ゆっくりと塞がっていった。

また、光の盾も破損箇所が自動的に修復され、元の姿を取り戻した。

完全に傷が塞がると、ルーチェはゆっくりと立ち上がった。


「ふむ。治癒と復元か」

「そうだ。私は聖女様達を守る為なら、何度でも立ち上がる。この命尽き果てるまで、私は止まらぬ!」

「そうか。残念なことだ」

「何?」

「「「「?」」」」


ルーチェの決意に満ちた言葉を、ダンタリオンは残念だと評した。これにはルーチェ、アーク達、守護騎士達全員が疑問を覚えた。


「どういうことだ、残念とは?何が残念だというのだ!?」

「意味がわからぬか?汝の決意に敬意を表し、愚かという言葉は避けたのだがな」

「なぜ私が愚かで残念だと言うのです!」

「先程わざわざ告げたからだ。我が代行する神々の属性についてな」

「あなたが代行している神々の属性?………!時と運命!!」

「しかり」

ルーチェはダンタリオンの言葉に自身の記憶を辿り、ダンタリオンが何を言いたいのか理解した。そしてダンタリオンは、それが間違いではないとルーチェに頷いて見せた。


「そう、我が現在代行している権能は、時と運命。ゆえに、汝の治癒と復元は我にとって無意味」

ダンタリオンはそう言うと、砂時計を一つ取り寄せ、ルーチェの光の盾に翳してひっくり返した。


「……これは!?」

「「「「!?」」」」


最初はダンタリオン以外の者には何が起きるのかわからなかった。しかし、すぐに全員が起きたことを目撃した。


砂時計の砂が落ちるのに合わせ、ルーチェの復元していた光の盾に穴が空きだしたのだ。しかも、注意深く観察してみれば気がついただろう。穴が空きだした箇所は、先程盾が穴を復元した箇所だったことに。


砂時計の砂が完全に落ち切った頃には、ルーチェの光の盾はもっともボロボロだった時の状態を取り戻していた。



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