76.悪魔軍団対光神聖教会守護騎士
「では始めよう。行け!」
ダンタリオンはリュミエール達の疑問を綺麗にスルーすると、早速開戦の号令をかけた。
これにダンタリオンの眷属達が従い、悪魔達が一斉に動きだした。
ただし、アイスデーモンビショップとアイスデーモンジェネラルの二体だけは、ダンタリオンの傍で護衛として侍っていた。
悪魔達が動き出すと、対峙していた守護騎士団も呼応するように戦闘を開始しだした。
隊長であるルーチェが後方でアーク達勇者パーティーの前に陣取り、騎士達の半数が悪魔達目掛けて突撃していく。残った半数の騎士達は、ルーチェと共にアーク達を囲み護衛している。
こうして両者の熾烈な戦いが始まる。
……とはいかなかった。
なぜなら両者の戦いは、最初の激突の時点から悪魔側が一方的に守護騎士達を倒していったからだ。
光神聖教会の守護騎士達は、間違いなく人間達の精鋭であった。が、相手の悪魔達は管理神達側の存在であり、ダンタリオンの眷属である精鋭達である。
ステータス的なスペックと、通常スキルの数が普通に明暗を分けていた。
守護騎士達は剣に光魔法をメインに使い、通常スキルを補助の攻撃手段として戦っている。
それを相手取る悪魔達は、生気に瘴気、障気を撒き散らしながら、通常スキルを駆使して戦っている。
いちいち動作を挟まないといけない守護騎士達と、三つの気を垂れ流しているだけで有利になる悪魔達。こういうどうにもならない種族性質の時点で、すでに優劣が発生していた。
そして両者の戦闘経過は、現在まではこうなっている。
まずは最初の激突。守護騎士達は光魔法で牽制をかけつつ、悪魔達を剣で切りに駆けた。
対する悪魔達は、アイスイービルアイが冷凍光線で守護騎士達を牽制し、アイスデーモンとアイスイービル達が守護騎士達に向かって突っ込んでいった。
結果は、悪魔側の圧勝。牽制攻撃の時点で、向こうはそれなりの数が脱落していた。冷凍光線を受けて単純なダメージで行動不能になった者達も多かったが、冷凍光線が掠ってカチンコチンに凍りついた結果、行動不能になった者達もかなりの数に昇った。
あとは数の減った突撃組と、アイスデーモンとアイスイービル達が接触。鎧袖一触といった感じで、悪魔達が守護騎士達を吹き飛ばしていった。
そこからは混戦に移行した。が、混戦でも守護騎士達の不利な戦いは続いた。
アイスデーモンやアイスイービルの筋力は、人間のものを軽く凌駕しており、一対多でなければ戦闘が成立しなかった。
さらに一対多の戦いの場合、複数の方が単体の方を囲むように戦うのが普通だ。しかし、この戦場ではそれは大きな隙を生むことになる。
なぜなら、守護騎士達が相手をしなければならない相手には、アイスイービルアイ達もいるからだ。
一対多というのは、あくまでもアイスデーモンやアイスイービルと守護騎士達の力関係でしかない。実際の戦いの構図は、あくまでも多対多なのである。
守護騎士達がアイスデーモンやアイスイービルにかかりっきりになれば、アイスイービルアイ達が守護騎士達を背後から狙い撃ちにしていった。
そうなると当然、守護騎士達はアイスイービルアイ達にも人手を割かなくてはならなくなる。
こうなると、地力がものをいうようになるのが現実だ。
さらに言えば、悪魔達は全員空を飛べる。つまり、守護騎士達は制空権を悪魔達に握られているというわけだ。
こうした諸々の結果、悪魔達対守護騎士達の戦いは、悪魔達が圧倒的に優勢となっている。が、当然それでは隊長であるルーチェや、護衛されているアーク達勇者パーティーは困ることになる。
これまた当然の行動として、後方に控えていた守護騎士達やアーク、リュミエール、魔法使いは後方から前衛の支援を開始した。
無数の魔法と通常スキルが空を飛び交い、空にいたアイスイービルアイ達を削っていった。
しかし、それが前衛にいる守護騎士達を、さらなる窮地に追い込む結果となった。
勇者達に撃墜されたアイスイービルアイ達は、当然のこととして地面に真っ逆さまに墜落する。そして墜落した先で、次々と自爆していった。
墜落して自爆したアイスイービルアイ達のいた場所。その場所には、その自爆した瞬間に発生した大量の生気、瘴気、障気、冷気の四つが高濃度で残留した。これは守護騎士達には毒となり、悪魔達には活力となった。
結果、前衛の守護騎士達は落ちて来るアイスイービルアイ達に怯え、毒や冷気に苦しむことになった。逆に悪魔達は元気になり、どんどん守護騎士達を攻め立てていった。
そして守護騎士達の悪夢は、それだけではまだ終わらない。
今だにダンタリオンを中心に展開している影から、倒れたのと同数の悪魔達が常に補充されてくるのだ。守護騎士達がいくら悪魔達を倒しても、その端から新たな悪魔達が影から沸いて出て来る。
守護騎士達と悪魔達の戦力差は、開いていく一方だ。
「他愛もない。されど、我が眷属達の良い糧にはなった。残りも残さず平らげてしまおう」
ダンタリオンがそう言うと、悪魔達はさらに攻勢を強めていった。
「……お前達、勇者様達のことを頼む」
「「「……はっ!」」」
ルーチェは現在までの戦況から、自分達の敗北が避けられないことを理解した。ゆえに、アーク達勇者達パーティーをここから逃がすことに目的を切り替えた。ルーチェは部下達に勇者達を任せ、自分は切り札を切る為に前に出た。
「ルーチェ姉様!」
ルーチェが何をしようとしているのかを察したリュミエールは、ルーチェを止めようと前に出ようとした。
「行ってはなりません、聖女様!聖女様や勇者様達が無事にここから逃げられることが、隊長の最後の願いなのです!」
しかしそれを、ルーチェの意思を汲んだ守護騎士達が押し止め、リュミエールの説得にかかった。
守護騎士達がリュミエールを説得している間も、ルーチェはダンタリオンに向かって歩みを進めた。
これを見たダンタリオンは、眷属である悪魔達をルーチェの周囲から退かせた。
混戦した戦場の中、生まれた一本の道をルーチェはしっかりとしたあしどりで歩いて行く。その顔には、確かな決意と覚悟の表情があった。
「光神聖教会本部、守護騎士団第四大隊隊長、ルーチェ=エステネル」
「《ヒュドラ》、第三の頭。《幻書》のダンタリオン」
ルーチェはダンタリオンの目の前に立つと、そう自らの所属を名乗った。それに合わせるように、ダンタリオンも自らの所属を名乗り返した。
「勇者様達を守る為、私の生涯最期の相手となって頂く!」
「良かろう。その潔さに敬意を表し、我が汝の最後の相手を勤めよう」
ルーチェが剣を抜き、ダンタリオンは無数の本を展開させた。
「我が神エードラムよ!汝の御使いを我が下に!矮小なるこの身に最後の加護と慈悲を与え給え!《御使い降臨》」
ルーチェは剣を天に掲げ、自身の神に助力を請おた。自身の命と引き換えの助力を。
ルーチェのその強い願いに神エードラムは応え、御使いをルーチェの下に遣わした。
御使いはルーチェの頭上に降り立つと、そのまま自身をルーチェに重ね合わせていった。
ルーチェと御使いの姿が完全に重なると、そこには新たな存在の姿があった。
基本的な姿はルーチェのままで、髪が光り輝く金髪となり、瞳は淡い碧色となっている。白銀の鎧は碧銀となり、背からは四枚二対の光の翼が生えている。剣は光を集めた光剣となり、左手には同じような光の盾が装備されている。
そんなルーチェを中心に光が溢れ、周囲を光で満たしていった。




