70.光の勇者との戦い
トワラルの街の外円部。その場所に、いつの間にか魔法陣が浮かび上がっていた。
これが彼女の言っている邪魔者に関するものか?
パアァァァ!カッ!
俺がそう思って様子を見ていると、魔法陣が輝きだし、次の瞬間、閃光とともに何かがこの地に現れた。
魔法陣から現れたのは、武装した五人の人間達だった。
あれが邪魔者か。しかし、数が少ないな。あの程度の人数なら、合体アビス達に踏み潰されてすぐに排除されるだろう。とても邪魔者の域に入っているようには見えないが?
俺には、あの人間達が蟻や蚊のように潰される光景が簡単に想像出来た。
『そこまで簡単にはいかないと思いますよ』
なんでだ?
てっきり彼女も俺と同意見だと思っていたのに、彼女の見解は違うらしい。
『あれは信仰神が一つ、光の偽神エードラムの使徒達です。彼ら(人類種達)の言葉(主張)で言うのなら、光の勇者と光の聖女達を含んだ光の勇者パーティーです』
あれがそうなのか!なら、管理神達の宝玉を奪われる前に早急に排除しないとな。
『えっ!?』
俺は彼女が驚いていることを気にせず闇の中を移動し、闇の外側にいる勇者パーティーに攻撃を仕掛けに向かった。
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「なんだこれわ!」「わかりません。ですが、このトワラルの街から逃げて来た人の話しでは、今まで見たことのない魔物達の襲撃を受けたそうです」
白銀の鎧を纏った十代後半の少年。光の神エードラムに選定された勇者アークは、自分の目の前の光景を見て驚きの声をあげた。
そのアークに答えたのは、白い法衣を着た十代前半の少女。光の神エードラムに選定された、光神聖教会の聖女リュミエールである。
この二人を含めた光の勇者一行は、アビスの襲撃から運良く逃げのびたトワラルの街の住人達に助けを請われ、この地に転移魔法でやってきた。
本来であれば、このトワラルの街から一番近い村までは、徒歩で三日は必要だ。だから、普通であれば数時間程度で余所がトワラルの状況を知るのは、事実上不可能なことだ。もっとも、領主の城が無事であったのなら、他の領地に連絡すること自体は可能ではあった。しかし、その領主の城はルストとシュピーゲルの襲撃によって、すでにトワラルの街には存在していない。なので、この連絡方法は今は関係がない。
さて、それではどうしてアーク達がトワラルの街の住人達と早々に接触が出来たのかというと、ずばりエードラムからの神托の結果だ。
アーク達一行は、元々は彼らの本拠地であるエドラス王国の王都にある教会本部にいた。そこである調査に向かう為の準備をしていたのだが、突然エードラムからの神托がリュミエールに降りたのだ。その内容は通常に比べるとかなり不鮮明なものだったのだが、とりあえずトワラルの街の名と未知の魔物のこと。そして、襲撃という言葉をリュミエールは受け取った。
ちなみに、アーク達が向かおうとしていたある調査というのは、最近各地で発生している変死事件のものだ。
事件の内容としては、エドラス王国のいたるところで村が謎の存在に襲撃され、襲撃された村の住人及び、その周辺に棲息している動物、魔物がことごとくミイラ化した状態で発見されたというものだ。
お察しのとおり、それをやったのはアビス達だ。彼らは生命体の生命力を求め、定期的に生命体を襲っていたのだ。
つまりアーク達は、アビス達の調査に向かおうとしていたのに、アビス達の襲撃を阻止することになったわけだ。
だが事前情報も無しにアビス達に挑むのは、自殺行為に他ならない。なぜそんな神托をエードラムが彼らに降したかと言えば、所詮はまがい物。エードラムには、信徒である人類種達の救援要請を自分の眷属。今回は勇者アークや聖女リュミエールに仲介することくらいしか出来ないからだ。エードラムは個人ではなく、大多数の人間の方を優先する。これは、信仰神に共通する特徴である。つまり、勇者や聖女というのは、信仰神達にとってはたんなる便利屋にすぎないということだ。
また、エードラムの神托の内容が不鮮明だったり、アーク達が転移魔法で直接トワラルの街に転移出来なかった理由は、世界の仕業である。
この世界がアストラルを守る為に、アストラルがあのトワラルの街に入った時点から世界は、周囲一帯にジャミングをかけていた。その結果、転移魔法等ではトワラルの街に入れなくなり、トワラルの街に関する情報を探られた場合も、その情報が獲得されるのを妨害する仕様となっていた。
だからアーク達は、最初の転移でトワラルの街から数キロ離れた場所に出現することとなった。そこで街から逃げて来た住人達から事情を聞き、二度目の転移を行った。その結果、アーク達一行はトワラルの街外円部に転移出現したというわけだ。
「さて、早速あの中に突入しよう」
「危険ではありませんか?」
アークが突入という意見を出すと、それにリュミエールが難色を示した。
「危険は承知の上だ。あの中には、まだ取り残されている住人達がいる可能性が高いんだ。急いで救出に向かわなければ、手遅れになってしまう!」
「…そうですね。この様子では、私達は何者かの襲撃自体は防ぐことが出来なかったようです。しかし、今ならまだ助けられる命があるかもしれません。わかりました。すぐに突入しましょう」
闇に覆われたトワラルの街を見たリュミエールは、自分達が間に合わなかったことに心を痛めた。しかしすぐに気を持ち直し、まだ救える命があることを信じて、アークの意見に賛同した。
「みんなも良いな?」
アークが他の仲間達にも確認すると、アークの仲間達は全員が頷きを返した。
「なら、今から突入するぞ!」
アークは鞘から剣を抜き、仲間達もそれぞれの武器を構えた。
「そうはいかない」
「誰だ!」
アーク達がトワラルの街に向かって一歩踏み出そうとした直前、アーク達を制止する声が何処からか聞こえてきた。
アーク達は慌てて声の主を。周囲に人影がないか捜した。
アーク達一行がそれぞれあちこちに視線を向けるが、自分達の周囲に人影らしきものは見当たらなかった。
「さっきの言葉は、お前のものか!」
だがアーク達一行全員が視線をトワラルの街の方に戻すと、そこには先程まで絶対に存在していなかったはずの人影があった。
「しかり。我だ」
アーク達の前に現れたのは、魔法使いが着るような群青色のローブを纏い、周囲に無数の本を浮かべ従えた、竜の意匠の仮面を付けた人物だった。
「お前はいったい誰だ!この街の今の状況は、お前の仕業なのか?」
「我が誰かなど、お前達が知る必要はない。そして、後者の質問の答えは、否だ。これを行っているのは我ではない。しかし、これを行っているのが誰かは知っている。が、それもお前達に教えてやる必要性は我にはない」
「なんだと?」
予想外の答えに、アーク達一行は少し混乱した。
このタイミングで出てきたので、アーク達一行はこの仮面の人物こそが、神托にあった襲撃者だと思っていたのだ。しかし、仮面の人物の発言を信じるのであれば、仮面の人物は襲撃者ではない。だが、仮面の人物はこの異変を起こしているものを知っているという。
アーク達一行は、どうするべきかと仲間内で目配せしあった。
「消えろ」
だが、そんな悠長に目配せしあっている場合ではすぐになくなった。仮面の人物が攻撃を仕掛けてきたのだ。




