69.アビス達の戦い3
俺達が状況を見守っていると、シュピーゲルにさらなる動きがあった。
パアァァァ カッ!
突如シュピーゲルの体表面が斑に輝きだし、次の瞬間、無数の光収束砲が周囲にばらまかれた。
俺は反射的に[反射]を発動させ、アビスクイーン達の盾となる位置どりに移動した。しかし、光収束は俺達の方には飛んではこなかった。その代わり、アビスアタッカー達の方は前後左右、360度、全方位からめった打ちにされていた。
そう、全方位から…。
シュピーゲルから放たれた光収束砲は、その直後に周回していたそれぞれの【星】に命中。その進路方向を次々に屈折させていき、また別の【星】に命中。それからまた軌道を屈折することを繰り返し、最終的にはシュピーゲルから放たれた全弾が、アビスアタッカー達に命中するように軌道が変わっていったのだ。
全弾命中することは効率的っぽいが、屈折させまくっている部分が無駄っぽいな。
『そうですね』
だがまあ、ああいう攻撃は嫌いじゃないな。今度試してみようかな?
『それはアステリアの宝玉を取り返してからにしてください。その方が効率的ですし、最低でもアレは再現出来ますから』
そうだな。
パアァァァ!カッ!カッ!
俺達はそんな風に暢気に話しているが、その間もシュピーゲルとアビスアタッカー達は、交戦を続けていた。
闇の中を飛び交う無数の光条。アビスブロッカーに弾かれて生まれる一瞬の光。
そんな光景が、今も絶え間無く起き続けている。
何と言うか、ぶっちゃけシュピーゲルが一方的にアビスアタッカー達を攻撃して、アビスブロッカー達がバラバラになりながらも、なんとかそれらをしのいでいるというだけの話しだ。
これはもう、結末が見えたな。
『そうですね。ここまで一方的な展開なら、そろそろ終わるでしょうね』
だが、それは早計な判断だったと俺達は思うことになった。なんとアビスブロッカー達は、先程まで自分達をめった打ちにしていた光収束砲を全て弾きだしたのだ。しかも、それだけでは終わっていない。アビスブロッカー達がシュピーゲルの攻撃を弾いている間に、アビスブロッカー達が合体を始めたのだ。…実際のところは融合かもしれないが、俺には区別が出来ないので合体ということにしておく。
アビスアタッカー達とアビスブロッカー達の身体の一部が結び付き、そこを基点にさらに身体を寄せ、そのままどんどんアビス達は身体を一つにしていった。
最終的に出来上がったのは、アビスブロッカーを外側に展開して、鎧のように纏った銀色の異形の巨大生物。その大きさは、トワラルの街に鎮座しているシュピーゲルやルストにもひけをとらないものとなっていた。
……怪獣大決戦が始まるな。
『そうですね。ここまで条件が揃いますと、まず間違いなく』
なら、俺達はいったんここから退避するか?ここにいると、その戦いに巻き込まれそうだし。
『そうですね。少なくとも、近場でこれから始まる戦いを見るのは、どう考えてもむぼうでしょうしね』
なら決まりだ。
俺は早速、近くにいるアビスクイーン達を亜空間エリアに取り込み、自分の身体は[潜影]でニュクスが展開している闇の中に潜ませた。
闇の中に潜り込んだ後は、闇の中を移動して、ここから起きるだろう怪獣大決戦を観戦する為の最善席を探した。
そうして見つけたのは、この【夜】の頂点となる部分。現在俺は、そこから眼下で推移していく状況を見守っている。
『本当にここで良いんですか?戦いを見守るだけなら、先程手に入れた[仮面の悪魔]を利用すれば良いと思うのですが?』
たしかに能力的にはそれが一番安全なんだが、もしもの時は宝玉をすぐに回収しないといけないだろ。だから、俺はあまりここから離れるわけにはいかないんだ。
『ああ、まあ、そうですね。ですが、あまり無理はしないでくださいね』
わかっている。
そうして俺達が話していると、地上ではいよいよ三大怪獣大決戦の火蓋が切って落とされる状況となっていた。
まず最初に仕掛けたのは、今まであまり動いていなかったルストだ。まずは右腕を振り上げ、そのまま合体アビスに向かって、思いっきり振り下ろした。すると、ルストの右腕は拳が丸く硬質化し、鉄球のように変異した。また、腕の部分はゴムのように伸縮し、合体アビス目掛けて拳部分の射程を延ばした。
それにたいする合体アビスは、アビスブロッカーの盾を自分の前に展開し、ルストの攻撃を真っ向から防ぎにいった。
ギィィーン!!
大質量の物体同士が激突し、広範囲に衝撃波と金属同士がぶつかりあったような音が周囲に響き渡った。
ルストのその攻撃の結果、合体アビスが構えた盾は見事に陥没した。しかし、ルストの拳の方も凹んでしまっている。
被害的には合体アビスの方が大きそうに見えるが、ルストも無傷でとはいかなかったようだ。
ただまあ、今の攻撃の後に両者がいったん離れると、お互いの陥没した部分等が盛り上がって元の形状に戻ったので、実際にダメージが入っているのかどうかは、傍目からではわからなかったが…。
なので俺は、三つの頭でそれぞれのステータス情報を確認。随時ステータスの変化を確認していくことにした。
それで確認の結果だが、どちらも一応はダメージが入っているみたいで、微々たる値だがHPがそれぞれ減っていた。
次に動いたのは、合体アビスの方だ。鎧化しているアビスブロッカー達の隙間から、無数の触手がシュピーゲル達に向かって伸びていく。
これに対応したのはシュピーゲル。身体のあちこちから光収束砲を発射し、触手を迎撃していった。
合体アビスは、負けじとさらに触手を増やす。そうすると当然、シュピーゲルの方も光収束砲の数をどんどん増やしていく。
質量対光量。両者の間では、それらが大規模かつ大量に激突している。
その余波でトワラルの街がどんどん崩壊していくが、両者共にそんなことはお構いなしだ。
ただ両者は、拮抗した戦いを継続していく。
そんな両者の戦いに、ルストが加わった。
ルストは今度は、両腕を先程と同じような形状に変化させ、モーニングスターのごとく振り回した後、合体アビスに叩き込みだした。
質量、重量に加え、遠心力まで加わったその攻撃は、合体アビスの巨体を大きく吹き飛ばした。
合体アビスの巨体はその一撃で宙を舞い、トワラルの街の近くにある山に落下した。
そしてすかさずルストは、山に身を預けている合体アビスに追撃を実行した。
一撃、二撃、次々と攻撃を合体アビスに叩き込んでいく。
ドォォーン!ドォォーン!!
ルストの拳が合体アビスに叩き込まれる度に大地は大きく揺れ、森の中にいた動物や魔物達が一斉に逃げはじめた。
無理もない。この戦いは間違いなく天災の分類だ。急いで逃げなければ、余波だけでも死にかねない。
ルストの連打は、それから5分程の間続いた。
その結果、合体アビスが身を預けていた山は今や更地となり、平らだった他の場所は今、クレーターだらけとなっていた。
明らかに環境破壊である。というか、ルストは地形を変え過ぎだ。
『むっ!』
どうかしのか?
俺が眼下の光景に呆れていると、彼女からぴりぴりとした気配が漏れてきた。
『どうやら邪魔者が来たようです』
邪魔者?
うん?
俺が彼女の言葉を訝しんでいると、地上で新たなことが起きようとしていた。




