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68.アビス達の戦い2

『…どういうことですか?』

言ったとおりだ。シュピーゲルは、いくらでも内部に光を貯め込むことが出来る。貯め込んでいる量によっては、星の一つや二つくらい簡単に消し去ることが出来る。さっきのアビス達みたいにな。


今俺の頭の中では、隕石群や小惑星を光収束砲で消し飛ばしている、シュピーゲルの姿が再生されていた。そう、再生。どうやら前世の俺は、シュピーゲルが実際に星を消し去る瞬間を見たことがあるようなのだ。少なくとも、そんなアレな記憶が俺の頭の中にあることは間違いない。

…俺の故郷、どんなタイプの世界だったのだろう?

こんな記憶がある時点で、きっとかなりアレな世界なんだろうな。と、俺は思わずにはいられなかった。


『シュピーゲルって、そんなに危険なのですか?』

まあ、性能はな。だが、怒らせないかぎりは大丈夫だ。…ただ、下手に刺激するとアビスアタッカー達みたいになるけどな。というか、なんでシュピーゲルはアビスアタッカー達を攻撃したんだ?アビス達はまだシュピーゲルやルストと接触していないはずなのに?

『シュピーゲル達がトワラルの街に出現する以前に、アビスアタッカー達以外の同種と接触があったのではないでしょうか?』

その可能性はあるな。逆に、それ以外の可能性は皆目見当がつかないが。

『そうですね』

うん?

『アビス達が動きだしましたね』

ああ。


俺と彼女が話していると、シュピーゲルの攻撃で動きを止めていたアビスアタッカー達が、トワラルの街へ向かっての移動を再開した。だが…。


『またすぐに撃ち抜かれそうですね』

そうだな。


彼女の言う通り、アビスアタッカー達はシュピーゲルの光収束砲から逃れられないだろうな。


カッ!


俺がそう思いながらアビスアタッカー達を見ていると、シュピーゲルから三発目の光収束砲が放たれた。


ブンッ!


だが今回は、先程までのようにはいかなかった。

なんと、アビスブロッカーが盾になっている部分を器用に動かして、自分達に向かって来た光を反らすことに成功したのだ。

はっきり言って、自分の複数ある目を疑った。たしかに光収束砲の正体はただの光だ。金属のようなアビスの体表面なら、触れた時に拡散する可能性はあると思ってはいた。だが、出力が高い光はかなりの高熱をともなっている。触れた直後、先程のように一瞬で融解して消滅するのが普通だ。それなのに今回は、アビスブロッカー達は盾の部分を犠牲にしただけで光収束砲を防ぐことに成功してしまっている。


…いったい何が起きたんだ?アビスブロッカー達が持っていた伏せ字の部分のスキルか?それとも、普通に見れた通常スキルの効果か?

『おそらくは、伏せ字の登録されていないスキルの効果です』

登録されていない?

『はい。私(この世界)には本来存在していないスキルということです』

ああ、そういうことか。


アビスが元々はこの世界には存在していなかったんだから、そんなスキルがあってもおかしくはないな。

…しかし、これで少し面倒なことになったな。

『面倒なことですか?』

ああ。アビスブロッカー達はたしかに光収束砲を防げたが、おそらくシュピーゲルは連射出来るだけの光をストックしているはずだ。例えアビスブロッカー達が、一回や二回光収束砲を防げても、光の早さで連射されれば守りきれるものじゃない。

『たしかにそうですね。ですが、それのどこが面倒なのです?シュピーゲルが圧勝しそうですが?』

たしかにそうなるだろうな。問題は、アビスブロッカー達が光収束砲を拡散させた結果だ。

『拡散させた結果?』

あれを見てみろ。


俺は彼女にそう言うと、アビスブロッカー達が光収束砲を反らした跡を見た。

先程空いていた竪穴よりは小さいが、それでもバスケットボールくらいのサイズの穴が、反らされた方向にあるものに無数に空いていた。

トワラルの街にある建物、森の木々、あちこちに転がっている岩や石、そして地面。

あらゆる場所、あらゆるものに無差別に穴が空いていた。


こんな環境破壊を何度もされたら迷惑だろう。

『これは…。たしかに、面倒で迷惑ですね。では、こちらで何か対処をしますか?』

そうだなぁ?

…うん?


俺がどう対処しようか考えだして少しすると、今度はルストが動きだした。

ルストの白い身体から闇が溢れ出し、それが空に上っていく。そしてそれは、遥か空の彼方にまで到達すると、一気にトワラルの街周辺の上空を覆い隠していった。

その結果、あらゆる天からの光が遮断され、地上は深い闇に閉ざされた。


なんだこれ!?ルストにはこんな能力は存在していないはずだぞ!…いや、親から引き継いだ能力か?

『いえ、これは闇の管理神であるニュクスの力です』

ニュクスの?

『はい。あの闇には、魔素とニュクスの神気の反応があります。まず、間違いはありません』

なるほど。となると、ニュクスの宝玉はルストが取り込んでいるってことか?

『おそらくはそうです』

ふむ。…だが、やはりおかしいな。

『何がおかしいのです?』

ルストには、取り込んだものの能力や権利を行使するような能力はない。というかそもそも、神の力を扱いきれるほどのポテンシャルはルストにはないはずだ。

『宝玉を取り込んだせいで、突然変異を起こしたのではないでしょうか?』

その可能性自体はあると思うが…。

イマイチ確信の持てない可能性だよな。おや?


俺がそう思っていると、今度はまたシュピーゲルが動きだした。また光収束砲を撃つつもりだろうか?


ブンッ!ヒュン、ヒュン、ヒュヒュン!


俺がそう思いながら様子を見ていると、シュピーゲルの周囲に無数の球体が一斉に出現した。それらはシュピーゲルの周囲を何回か周囲を旋回した後、バラバラの軌道でルストが展開した闇の中に散っていった。そしてそれらは、闇の中を発光しながら一定の軌道で巡りはじめた。

その光景はまるで、夜空を流れる星のように見えた。


うん?星のよう?…まさか!

『そのまさかのようです。あの飛翔物からは、星の管理神であるアステリアの神気を感じます』

つまり、アステリアの宝玉の方はシュピーゲルが取り込んでいるってことか?

『まず間違いなく、そうでしょうね』

これで宝玉の持ち主は判明したな。なんか、見事にバラけた感じだが。

『そうですね』

しかし、あの【夜】と【星】はなんの為にだしたんだ?それと、あれはルストとシュピーゲルが意図して出したものなのか?実は、管理神達が出したとかじゃないよな?ノルニルの時みたいな感じで、俺達の迎撃の為にとか。

『それはないと思いますよ。今回は、管理神が率先して守るような対象。神獣の痕跡などはありませんから。それに、迎撃するとしたら私達ではなく、アビス達の方でしょうし』

それもそうだな。


俺は彼女の言葉に頷くと、これから何が起こるのかを見守った。


しかし、アビスアタッカー達は自分の現状に気がついているのだろうか?[闇適応]のあるに俺とっては、この光がまったく無い深い闇の中でも物事を観測することが出来る。だが、アビス達の観測器官がどうなっているのか知らないので、アビス達が現状を把握出来ているのかは、わりと疑問に思うところだ。


俺がそんな風に思っていると、アビス達がまた移動を開始しだした。どうやらアビス達には光は関係ないらしく、先程と同じように真っ直ぐトワラルの街に向かっていく。



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