67.アビス達の戦い
うん?
『ついて来ていますね』
ああ。
俺がアビスアタッカー達の後を追いかけていると、アビスクイーン達も俺達の後を追いかけて来た。
現在俺達は、魅了されていないアビスアタッカー達、俺達、魅了されているアビスクイーン達の順にトワラルの街に向かって移動している。
ちなみに、テレサ達についてはすでに向こうに残してきた頭を使ってすでに保護している。アビスアタッカー達の戦力は相変わらず未知数のままなので、テレサ達の安全を第一に考えてこうした。
これからのアビスアタッカー達の行動が気になるな。出来れば、アビスアタッカー達にはルストやシュピーゲルを刺激しないでもらいたいが…。
『…無理じゃないですか?』
無理、か?
『おそらくですが、ルスト達はアビス達には普通に脅威認定されると思いますから』
…そうかもしれないな。
だがそうなると、怪獣大決戦が始まるな。あの三者が街中で暴れ回るのか。
…地図上から、トワラルの街の名前が消えそうだな。
『そうですね。ですが、私達にはとくに問題はないですし、気にしなくても良いのではないですか?』
そうだな。
すでにテレサ達は回収しているし、俺達はいつでもこの場からドロン出来る。
トワラルの街やその住人である人類種達を守りたい理由や義務も全然ないことだし、彼女の言う通り俺達が気にする問題はとくにないな。
あえて言えばニュクスとアステリアの宝玉のことだが、そちらも問題は無いだろうしな。
どうせ三者が戦っても、ルストとシュピーゲルが勝つだろうからな。
『そうなのですか?』
ああ。ルストはともかく、シュピーゲルの攻撃・防御性能なら、敗北はないからな。
『シュピーゲルは、それほど強いということですか?』
強いというか、普通にチート?
『…チート。…不正規の強さ。常識やルールを越えた力…。たしかシュピーゲルは、[転写]と[反射]の能力を持っているんでしたよね?』
ああ。
『その二つの能力がそうなのですか?』
いや、もちろんその二つの能力も強力ではあるんだが、チートなのはむしろ別の部分だ。
『別の部分?』
ああ。それは…。
カッ!
俺が彼女にシュピーゲルの能力を話そうした直前、強烈な光がトワラルの街の方で瞬いた。
そして次の瞬間、俺達の前を移動していたアビスアタッカー達の何体かが、一瞬のうちに消失した。
いや、消滅の方が正しいか?…ともかく、トワラルの街で何かが光った直後にアビスアタッカー達の姿が消えた。それが事実だ。
そして、アビスアタッカー達が消滅する前に居た場所には、現在大きな竪穴が出来ていた。また穴の縁はガラス化しており、先程の光がかなりの高熱をともなっていたことが伺えた。それと、穴を少し覗いて見た結果、穴の底が確認出来ないことがわかった。どうやらかなりかなり深くまで撃ち抜かれているようだ。
そう、撃ち抜かれている。
この竪穴の空き方と、さっきの光。そして、その光の発生源と思われる場所と、そこにいる存在。
これらを繋ぎ合わせることで、俺は先程の光の正体を理解した。あれは…。
『第二射が来ます!』
俺が光の正体を自分の中で確定させようとした瞬間、二回目の光が瞬いた。
おっ!
だが今回は、アビスブロッカー達が盾になり、他のアビス達への被害がなかった。もっとも、あの攻撃を受けたアビスブロッカー達自体は、それぞれ半分程融解してしまったが。
あの光収束砲を受けて原形を残しているとは、アビスブロッカーはなかなかに堅いようだな。
『光収束砲?それが先程と今回の光の正体なのですか?』
ああ。
俺は彼女にそう答え、トワラルの街の方を見た。俺の視線の先では、蟻のように口を横に開いた状態のシュピーゲルの姿があった。
あれはシュピーゲルの光収束砲だ。
それを見た俺は、あらためて先程の攻撃の正体を確定させた。
『シュピーゲルの光収束砲ですか?……あれって、シュピーゲルの攻撃なんですか!?』
そうだ。先程俺が言いかけた、シュピーゲルのチート攻撃の一つだ。
驚いている彼女に、俺は先程の説明の続きを始めた。
『どういった攻撃なのですか?』
攻撃の内容はいたって単純なものだ。ただ光を収束させて、線状の光を照射しているにすぎない。シュピーゲルに反射能力があるのはさっき確認されたな。シュピーゲルの反射能力は、対処を指定出来るんだ。通常はそれを使って周囲の物理現象を常時ほとんど反射させているんだが、一つだけあえて外では反射させていないものがある。それが光だ。
『なぜ反射させていないというのに、わざわざ外ではと付けるのです?それではまるで…』
ああ。光については、外ではなくシュピーゲルの中で反射されている。
『なんでまた、わざわざ身体の中で?』
それがシュピーゲルの特性だとしか言えないな。あるいは、そういう体質というか…。ともかく、シュピーゲルの体内は鏡面構造になっていて、外から入って来た光を常に取り込んで体内で反射させ続けているんだ。その結果、シュピーゲルの体表面では常に光が吸収され、シュピーゲルの身体はあんな光沢の無い闇のような漆黒の状態になっているというわけだ。
『あの黒さには、そんな理由があったのですね』
彼女はシュピーゲルの体色に理由があったことに、意外そうな声をだした。
まあ、普通は迷彩や擬態くらいにしか体色に理由なんてないからな。
そして、体内で反射し続けさせている光を任意の方向に収束させて、ある一点に向かって照射させたのが先程の光収束砲の正体だ。
『たしかに単純ですね。それが先程言いかけていたシュピーゲルのチートですか?』
ある意味ではな。光収束砲をチートと取るかどうかは、貴女の判断に任せる。ただ、俺は性能を知っているから、チートだと思っているがな。
『どういった性能なのですか?貴方がそう判断する性能というのは?』
そうだなぁ?まずは、どれだけ些細でも光が吸収出来れば撃てるから、弾数は事実上無限。
『それはつまり、夜でも光収束砲のチャージが出来るということですか?』
ああ。月の光や星の光、電灯などの人工光に、蛍なんかの生物光でもチャージが出来る。
『それはたしかにチートですね。ですが、やはり夜の方がチャージは遅いのですよね?』
まあ、チャージはな。だが、チャージ量に上限はないから、昼のうちに貯めておけば良い話しだ。というか、光収束砲を発射しない限り、取り込んだ光には他に使い道がないから、大半の場合は光はずっと貯めっぱなしなんだよな。だから、チャージ量なんてあまり気にならないんだ。全体のほんの一部を使うだけで、事足りてしまうからな。
『なんか、容量もチートっぽいですね』
そうだな。シュピーゲルの体内は光専用の亜空間化しているから、光なら事実上無制限に貯め込められるからな。
『それはたしかにチートですね。まるで、限定的な亜空間エリアかアイテムボックスのようです』
そうだな。
言われてみると、たしかに系統的に似ているな。
あと、それにともなって光収束砲の出力は上限知らずだな。集めた光の量が最大値とはいえ、さっきも言ったとおり全部を一度に使用するまでもなく、出力を確保出来てしまうんだ。だから、あのシュピーゲルが貯めている光の量によっては、下手をすると貴女(この世界)の危機になる可能性も十分にある。
『えっ!』
俺は彼女に、自分の知っているシュピーゲルの危ない要素を伝えた。




