66.アビスとの戦い5 別れたアビス
半分失敗で、半分は成功っといったところか?
『どうやらそのようですね』
現在俺の目には、二つの反応をしているアビス達の姿が映っている。
片方は、今までと同じ様子のアビス達。これの大半は、アビスアタッカーやアビスブロッカーといった、新種のアビス達だ。
残るもう片方。[リライト チャーム]の影響を受けていると思われるアビス達は、コアの色に靄の色であったピンク色をおびて、コアがメタリックピンクに染まっている。
ちなみにこちらは、アビスポーン達から露出していた、アビスコア達が大半だ。そう大半。[リライト チャーム]の餌食になったアビス達には、先程は見かけなかった。俺が存在を把握していないアビスが二種類混じっていた。
俺はその二種を鑑定してみる。
【アビスクイーン】
Level:存在せず
HP:3548000/3548000
MP:存在せず
GP:628300
[生命力吸収][生命力変換][吸命の波動][アビスバース][同化][エナジードレイン][エナジーフィールド][エナジーシールド][生命力大活性][多重障壁][超速再生][超速統合][■■■■■][■■■■■][■■■■■■]
【異世界から次元を越えてやって来た鉱物生命体。あらゆる生命体の生命力を吸収、生命体との同化を行い、飛来した地との融和を計る。そして、その地で成長し続ける統合発展種。通常のアビス種と違い、食欲だけの存在ではない。明確な知能がある為、異種族との交渉や共存も可能】
【アビスユグドラシル】
Level:存在せず
HP:5528000/5528000
MP:存在せず
GP:864100
[生命力吸収][生命力変換][吸命の波動][授命の発動][活命の波動][アビスコロニー][同化][エナジードレイン][オーラドレイン][エナジーフィールド][エナジーシールド][生命力超活性][超多重障壁][超速再生][超速統合][■■■■■][■■■■■][■■■■■■]
【異世界から次元を越えてやって来た半鉱物半植物生命体。あらゆる生命体の生命力を吸収・増幅する。生命体及び環境との同化を行い、飛来した地との融和を計る。そして、その地で成長し続ける統合発展種。また、自然環境からエネルギーを取り込み、体内で生命力を生成。それを提供することにより、通常種のアビス達と共存している。ある程度成長したアビスユグドラシルが周囲に存在している場合、アビス達は他の生命体を襲わず、アビスユグドラシルからの生命力供与によって活動する】
アビスコア達はともかく、なんで強い方のアビスクイーン達がリライト チャームの餌食になっているんだ?
鑑定結果を見た俺が最初に思ったのは、それだった。アビスクイーンやアビスユグドラシルの方が、明らかにアビスアタッカーやアビスブロッカーよりもHP・GPが上だ。つまり、本体のステータスもアビスクイーン達の方が上のはず。なのに、なんでこの二体の方が俺の術中に落ちているんだ?
『それに何か問題がありますか?強い方にリライト チャームが成功して、よかったではないですか』
…いや、性能や一口メモからして、この二体が味方に置けていること自体は喜ばしいんだ。だが、その理由がわからないのが不安なんだ。
『ああ、そういうことですか。そうですねぇ、一口メモの内容からすると、知能や他種族への友好度が高かったからじゃないですか?』
そんな理由なのか?『私が出来る推測だと、それくらいしか候補がありません』
ううむ。
そういうものなんだろうか?いや、俺が他に理由を思いつけているわけでもないんだし、意外とそんな理由の気も…。
俺は少し考えて、その理由で納得することにした。ここで悩んでいても、答えが出なくて時間の無駄だからだ。
とりあえず俺は、アビスクイーン達の方を見た。
アビスクイーンとアビスユグドラシルの姿は、アビスアタッカーやアビスブロッカーとはかなり違っていた。アビスアタッカーが触手のクリーチャーで、アビスブロッカーが甲殻類のモンスター。それにたいして、アビスクイーンとアビスユグドラシルは、植物的な見た目をしている。というか、アビスユグドラシルの姿は、配色や質感を無視すると、エレメンタルの苗木にかなり酷似していた。いや、ただたんに、シンプル過ぎるだけか?
…とりあえず、二体の外見をあらためて確認しておこう。まずはアビスクイーンの外見だが、アビスアタッカー達の二倍はありそうなメタリックピンクに染まったコアがあり、そこから蓮の葉や花弁のようなものが周囲に向かって広がっている。銀色の時はあれだったが、メタリックピンクになった今は、色艶や光沢がなかなか美しいと思う。そして、そのコアの上には、アルラウネやドリアードのような、植物が混じったような見た目の女性的な石膏像が生えている。
今までのクリーチャーじみたアビス達の姿からすると、アビスクイーンの外見は、随分と整ったもののように思えた。というか、なんでここでアルラウネやドリアード風。つまりは、人間に似た人形が出てきたのだろう?
これはアビス達の故郷の世界にも、人類種がいたということだろうか?
…次に、アビスユグドラシルの外見。こちらは先程も思ったが、外見はエレメンタルの苗木とほとんど同じで、かなりシンプルなものだ。まずはアビスクイーンと同じサイズのメタリックピンクのコアがあり、その上にメタリックグリーンの二葉が生えている。質感が結晶と金属的なものであるという点を除けば、どちらも無機物で、色艶や雰囲気に似た印象を俺は受けた。
アビスユグドラシルも成長すれば、今も俺とともにあるエレメンタルの成木のようになるのだろうか?
俺はアビスユグドラシルの未来の姿を想像し、ユグドラシル。世界樹という名前から、アビスユグドラシルがエレメンタルターミナルのような姿になる未来を容易に想像出来た。
うん?
俺がアビスクイーン達の様子を窺っていると、アビスアタッカー達に動きがあった。
アビスアタッカー達は、リライト チャームの影響下にあるアビスクイーン達から距離をとり、一斉にトワラルの街に向かって移動を始めた。
どうやら、異変があったアビスクイーン達のことは放置するようだ。てっきり、アビス同士で戦闘になるかと思ってたのにな。
『それはないと思いますよ』
なんでだ?こういう場合、普通は仲間を正常に戻す為に戦ったりしないか?
彼女の意見の理由が、俺にはわからなかった。
『それは人の理論でしょう?というか、アビス達にはお互いに戦う理由がないと思いますよ』
そうか?
『そうだと思いますよ。アビスアタッカー達にアビスクイーン達を襲う理由はありませんし、アビスクイーン達にもアビスアタッカー達を襲う理由がありませんから』
そう、なのか?
『だってリライト チャームでの命令内容は、人類種達への優先的な攻撃でしょう?アビス達への同士討ち命令ではありません』
……たしかに、同士討ちの命令は入れていなかったな。なんせ、完全に成功するか失敗するかの二択だと思ってたからな。まさか、半分半分で成功と失敗がくるなんて、完全に予想外だ。
『まあ、こういう魅了のような変化系能力は、確率判定型ですからね』
…ゲームっぽいな。
『そうですね』
彼女の答えに少し微妙な気持ちになったが、とりあえず気を取り直してアビスアタッカー達を追うことにした。




