64.アビスとの戦い3 神獣ケートスと新種のアビス
『もちろん、威力だけの火力馬鹿な能力でもない。雷の速度で自由自在、縦横無尽に天地を駆け抜けられる能力だ。その脅威は、人の身で退けることが不可能に近いレベルだ』
「不可能に近い、ですか?不可能ではなく?」
どうやらテレサは、俺の言い回しに気がついたようだ。
『残念ながらな。もしも人類種達に対処が不可能だったのなら、管理神達は現在封印なんてされていないはずだからな』
「……それもそうですね」
テレサは俺が出した現実に納得したように頷いた。
「あのー」
『どうかしたか?』
俺とテレサが話していると、シャヘルがこちらに近づいてきた。
「僕にもあんなことが出来るんですか?」
『雷化は無理だな。シャヘルにはペガサスの因子が混じってないから』
「…そうですか」
シャヘルは残念そうに肩を落とした。
『その代わり、シャヘルは神獣ケートスや神獣フェンリルの能力が使えるぞ』
「その二体の神獣って、何が出来るんですか?」
『まあ、水と氷の管理神に仕える神獣だから、水化や氷化は出来るかな?』
「…地味ですね」
シャヘルは前よりもさらに下の方に肩を落とした。
やはり年頃の少年らしく、派手な感じや英雄的なものに憧れているのだろうか?
『派手な方が良いのか?なら系統は違うが、津波や氷河期くらいなら起こせるぞ』
「…津波に氷河期ですか?それってどんなのです?」
『………』
どうやら施設暮らしが長かったせいか、シャヘルは津波などのイメージが無いらしい。どうやって説明したら良いだろうか?……とりあえず、実際に使ってもらったら良いか?
『とりあえず、自分の内側に意識を向けてみると良い。神獣の能力は生来のものだから、覚醒している今のシャヘルなら、本能的なもので使い方がわかるはずだ』
「わかりました。やってみます」
シャヘルは俺にそう言うと、アビス達に向かって一歩踏み出した。
「行きます!」
シャヘルがそう宣言した直後、アビス達の足元から大量の水。地下水が間欠泉のように噴き出した。
アビス達の多くがそれによって空中に吹き飛ばされ、次の瞬間には一瞬で凍り付いて氷塊となっていった。
「降り注げ!」
そして次のシャヘルの言葉に合わせ、凍り付いたシャヘルと水飛沫、氷のつぶてが今度は一斉に地上のアビス達に降り注ぎはじめた。
無数の氷塊が隕石。いや、彗星の如く地上のアビス達に降り注ぎ、当たった地点とその周囲のアビス達を次々と消し飛ばしていく。また同時に降り注いでいる水飛沫は、地上に降り注ぐとやがて凍り付き、地上のアビス達を拘束する鎖となっていった。そして氷のつぶては、地上のアビス達の動きを牽制する役を果たしている。【彗星】と違い、【雹】は【雨】と同時に広範囲に降り注いでおり、そして【雨】同様に継続的に地上に降り注いでいる。【雹】はその質量と重量をもって、アビス達を打ち据えていっている。
ある意味トンカチが降っているようなものなのだ。これをくらい続けているアビス達は、当たった箇所からどんどん凹んでいっている。その結果アビス達は、攻撃の出かかりを潰されたり、バランスを崩されたりしているというわけだ。
火力や攻撃速度はフレイオンのものに及ばないが、同時に攻撃出来る範囲や、継続性はこちらが上。これはこれで強力な能力と言えるだろう。
『ふむ』
それからは二人での殲滅戦に移行し、現在街に侵入して来ていたアビス達は二人によって全滅させられた。
戦闘の跡に残ったのは、廃墟のようになった建物や、クレータだらけになった街道だけだった。
これでひとまずは、アビス達との戦いは終了だろう。しかし、まだ気を抜けるような状況ではない。街の外にもまだアビス達はいるし、街の中心ではルストとシュピーゲルが城跡を陣取ったままだ。この街でまだ何かが起こる可能性は、十分にある。
俺はそう思いながら、[マップ]や視覚で周囲の様子を監視した。
『うん?』
『どうしました?』
『いや、アビス達の方で動きがあったんだが…』
しばらくアビス達を監視していると、アビス達に新たな動きがあった。しかし、その動きがどうも妙なものだった。俺達のいる街に向かうでもなく、逆に街から離れるでもない。ただ一つの場所に集合していくだけ。戦力を集中させて、一気に俺達を押し潰すつもりなのだろうか?
『うん?』
そう思いながらアビス達の様子を伺っていると、アビス達に別の動きが起き始めた。アビスポーン達のアビスコアが突然発光しだし、寄生していた魔物達の身体が先程襲われたこの街の人間達のように、しおしおに萎れてミイラのようになりだしたのだ。さらに、今回はその後ミイラのようになった魔物達の亡きがらを、アビスコア達がその身に吸収していった。そして、魔物達の亡きがらを吸収し終わったアビスコア達は、先程街では見なかった新種のアビス達に向かって飛んでいった。無数のアビスコアがその新種達のコアに集まり、やがてアビスコア達はそのコアの中に消えていった。
俺はアビス達の監視に張り付けている頭を使って、その新種達を鑑定してみた。
【アビスアタッカー】
Level:存在せず
HP:48000/48000
MP:存在せず
GP:13300
[生命力吸収][生命力変換][吸命の波動][生命力増大攻撃][防御障壁][高速再生][高速分裂][■■■■■][■■■■■]
【異世界から次元を越えてやって来た鉱物生命体。あらゆる生命体を捕食し、成長し続ける危険種。アビス種の中でも外敵の排除を担当する種別で、攻撃性能が高い】
【アビスブロッカー】
Level:存在せず
HP:148000/148000
MP:存在せず
GP:53300
[生命力吸収][生命力変換][吸命の波動][エナジーシールド][高防御障壁][エナジードレイン][超速再生][高速分裂][■■■■■][■■■■■]
【異世界から次元を越えてやって来た鉱物生命体。あらゆる生命体を捕食し、成長し続ける危険種。アビス種の中でも外敵からの種族防衛を担当する種別で、防御性能が高い】
どうやら今回現れた新種のアビス達は、攻撃役と防御役を担う存在のようだ。
アビス達も本腰をいれてきたということか?なら、アビス達が準備中の今の内に、俺が仕掛けるか?少なくとも、HPについてはアビスウォーカーよりもかなり向上している。攻撃力なんかの詳しいステータス値はわからないが、フレイオン達には荷が重い可能性がある。
……やるか。
少し考えた後、俺は自分で戦うことを決めた。
『テレサ』
「どうしました?」
『アビス達に動きがある。俺が片付けてくるから、フレイオン達のことを見ていてくれ』
「わかりました。どうかご武運を」
そう言うとテレサは、管理神に祈りを捧げた。
俺はそれを少し見てから、頭の一つをテレサの中に残して、アビス達のもとへ向かった。
俺は身体を霧化させ、いつものように空中を移動する。怪獣サイズの身体を動かす必要もなく、人に見つかる心配も、自分の不注意で何かを壊してしまう心配もない。[霧化]というのは、つくづく俺にとって便利なスキルだ。あるいは、本家である吸血鬼やウ゛ァンパイアよりも重宝して使っているかもしれないな。今度は[霧化]をリライトで書き換えてみるのも良いかもしれないな。そうしたらもっと便利になることだろう。
俺はそんなことを考えつつ、アビス達を監視している頭と合流した。




