63.アビスとの戦い2 覚醒と神獣ペガサス
「どりゃあ~!」
フレイオンは手に炎を纏い、地上と空中を臨機応変に駆け抜ける。そして、近場にいるアビスポーンを思いっきり殴りつける。殴られたアビスポーンは一瞬で発火し、魔物の部分はすぐに丸焦げ。アビスコアの方も、炎にあぶられ、熱に熔かされて次々と消えていっていた。
「フレイオンには近づけさせない!」
一方シャヘルの方は、巧みに氷の壁を展開し、フレイオンが戦うアビスの数を制限していた。もちろん、シャヘル自身もアビス達と戦っている。氷の壁に遮られ、氷の壁の前に集まっているアビス達を、氷の壁からの氷槍や、足元から氷柱を発生させることで、どんどん一網打尽にしていっている。
俺がフレイオン達の能力を調べている間にも、こうしてフレイオンとシャヘルの二人は、元気にアビス達を蹂躙していた。
そう、蹂躙。許可しておいてなんだが、予想以上にフレイオン達が一方的にアビス達を倒していっている。ここまでの二人の被弾率は、なんと驚きのゼロ。アビス達の攻撃は、二人にかすることさえ出来ていないのが現実なのだ。その反面、アビス達の方はそろそろ三桁に届きそうな数が二人に倒されている。
さすがにこの戦果は、俺にとってもかなり予想外だった。
だが、こちらが優勢なので、なんの問題も無い。ここはさらにフレイオン達をパワーアップさせて、さらに効率よくアビス達を片付けることにしよう。
【連なる世界 連なる理 連なる現実】
俺はそう決めると、リライトの開放序詞を謡いはじめた。
【変転せよ 変状せよ 変質せよ しかして己の内より新たな力を解放せよ】
今回は条件設定ではなく、フレイオン達に宿っている神獣の因子を呼び起こす為の言葉謡う。
「なんだこれ?」
「わからない。わからないはわからないんだけど、どうやらアストラルさんが何か始めたみたいだよ」
俺の言葉に合わせ、フレイオン達を構成している因果の糸の一部が活性化しだした。その結果、フレイオン達の魂から神獣の力が溢れ出し、二人の周囲を渦巻きだした。
【目覚めよ 覚醒せよ 真なる力を解き放て】
「うわっ!」
「何これ!?」
俺が言葉をそう続けると、それに合わせて二人から溢れ出してくる力の量が増していく。
【汝は雷の管理神ユピテルに仕えるもの 神獣ペガサス】
【汝は火の管理神ヘスティアに仕えるもの 神獣サラマンダー】
【汝は水の管理神ティアマットに仕えるもの 神獣ケートス】
【汝は氷の管理神プロセルピナに仕えるもの 神獣フェンリル】
【汝は魂の管理神ヘルに仕えるもの 神獣フェニックス】
次に俺は、五つの頭でそれぞれの管理神と神獣の名を術式に織り込み、その溢れ出した力に方向性を与えた。
フレイオンには、生来持っていた神獣ペガサスと神獣フェニックスに加え、施設で移植された神獣サラマンダーの方向性を。
シャヘルには、生来持っていた神獣ケートスと神獣フェニックスに加え、施設で移植された神獣フェンリルの方向性を与えた。
二人から溢れ出した力はそれぞれ三つの色に変色していき、やがてそれらは三つに分かれ、二人を囲むようにそれぞれの神獣の姿を象っていった。
【解け 交わり 織り成し 一つとなれ】
俺が次の言葉を言うと、今度は神獣達の姿が糸のように解けだした。やがて神獣達の姿が完全に解けると、今度は三つの糸が複雑に絡み合い、一つの織物を編み上げていく。
やがて完成したのは、三色の色を持つ美しいタペストリ。
【リライト ウェイクアップ】
そのタペストリが完成したことを確認した俺は、新しいリライトの術式を発動させた。
その直後、タペストリはフレイオン達の身体にするすると吸い込まれていった。
そして俺は、フレイオン達のデコイを鑑定し、無事にリライトの効果が発揮されたことを確認した。
「結局俺達はどうなったんだ?」
「さあ?だけど、なんだか今まで以上の力を感じるよ。それに、頭の中で何かが浮かんでこない?」
「……たしかに、何かが浮かんできた。けどこれ、いったい何なんだ?」
シャヘルにそう言われたフレイオンは、一度目を閉じた後、そう不思議そうにシャヘルに答えた。
『それは、お前達二人が新しく使えるようになった能力だ。』
「「新しく使えるようになった能力?」」
フレイオンとシャヘルは、俺の言葉に首を傾げた。
『そうだ。お前達の祖父であるニクスから二人の親に引き継がれ、そして両親からお前達二人に受け継がれた能力。テレサの仕える管理神達。その管理神達のしもべである、神獣達。その神獣達の能力を、お前達が使えるようにした。新しい能力の使い方は、自然と自身の感覚でわかるはずだ。それらを使って、アビス達を倒すと良い』
「おおっ!なんだかわからないけど、了解だ!」
「僕も微妙ですけど、一応はわかりました」
どうやら俺の説明は、二人には上手く伝ってはいないようだ。だが二人は、そう俺に返事をすると、アビス達に再び向かって行った。
…大丈夫だろうか?
俺はそうは思ったが、実地で力の使い方を学べば良いということで納得しておくことにした。
「いくぞぉ!」
フレイオンが戦場を駆け抜ける。だが今回は、ただ高速で移動するだけではなかった。
ピカッ!ゴロゴロ、ドゥーン!!
フレイオンの姿が消えた瞬間、フレイオンのいた場所で閃光が一瞬瞬き、その後、重苦しい重低音が戦場一帯に鳴り響く。アビス達がフレイオンの姿を必死に探し、次にフレイオンが戦場に姿を現した直後、そのフレイオンを中心に雷がほとばしり、フレイオンの周囲にいたアビス達を次々に焼き付くしていく。その後に残っているものは、黒焦げになっている大地と、融解してガラス状になっている街の建材くらいのものだ。アビス達は、その発生した雷の熱量に耐えきれず、軒並み蒸発してしまっていた。
「……なんです、今のは…」
「…すごい…」
そんなフレイオンの暴れっぷりを見て、テレサとシャヘルが茫然となっていた。
まあ、無理もない。俺としても、自分でフレイオン達のパワーアップをやったのに、この結果には少し退いているしな。
『今すぐ説明をした方が良いか?』
「…出来れば、今すぐお願いしたいです」
『了解した。もうテレサは、ニクスの前世について聞いているよな?』
「ええ、あの話し合いの後、夫からおおよその前世や神獣に関する話しは聞いています」
『なら説明は楽になるな。さっき俺が目覚めさせ、今フレイオンが使っている能力は、両親から継承した神獣の能力だ』
「神獣の能力、ですか?」
『ああ。今フレイオンが発動させているのは、雷の管理神ユピテルに仕える神獣、ペガサスの能力だ』
「ペガサスですか?あれは幻獣種なのでは?」
因果の糸でテレサの思考を読んでみると、テレサが知っているペガサスは、幻獣種のペガサスだけのようだ。
『幻獣種のペガサスと、神獣のペガサスは外見以外はまったくの別物だ。幻獣種のペガサスがただの空飛ぶ馬なのにたいして、神獣ペガサスは雷と共に天地を駆ける、馬の姿をした高等生物だ』
なので俺は、神獣ペガサスについてテレサに説明することにした。
「…雷と共に天地を駆ける…」
その俺の言葉の一部に反応したテレサは、今も閃光と轟音を鳴り響かせながら戦場を駆け回っている孫の姿を見た。
『神獣ペガサスは、ユピテルの眷属であるがゆえに自由に雷を扱うことが出来る。そしてペガサスは、自身を雷化させて移動する能力を持っている。これが今フレイオンの使っている能力だ。人が魔法で生み出すようなちゃちな電気ではなく、雷の管理神ユピテルが管理している雷属性そのものであり、天災に連なる雷になる能力。その威力はご覧の通りだ。あらゆるものが雷の高圧電流と、そこから発生する高熱によって瞬間蒸発する。まさしく神の名を冠する神獣に相応しい能力。神の鉄槌だ』




