59.リライト サーチ 見つけた者
『…なんかもう、今得たスキル群でどうにか出来る気もしてきたな』
『信徒達の探索をですか?』
『ああ』
『なら、スキルで捜すことにしますか?』
『いや、今回はリライトを試す』
俺は彼女にそう言うと、その為の術式構築を始めた。
『とりあえず、最初はこんなものか?』
あれからあれこれ考えて、ある程度は自分の望みが形になった。
『大事なのはイメージですから、何度か試して、その都度修正していけばよろしいかと思います』
『そうだな』
とりあえずは起こしたい内容と、その為の呪文の草案が出来た。なので彼女の意見を聞いてみて、結果一度実際にリライトを発動させてみることにした。
【連なる世界 連なる理 連なる現実】
最初に自分と共にある彼女のことを意識し、そこから連想ゲームのように言葉を繋げていく。
【我が望みは探索 連なる世界の内にある者を 我が望む者を我に示せ】
次に、自分がしたいこととしてもらいたいことを呪文に織り込む。
すると、テレサのデコイを中心に音符の無い楽譜のようなものが周囲に展開されだした。
【条件設定 範囲 トワラルの街全域 】
次に探索条件の一つ目を設定すると、その楽譜にちらほらと音符に類似した幾何学模様が浮かび上がってきた。
【条件設定 探索対象検知条件 管理神の加護】
二つ目の条件を設定すると、さらに楽譜の隙間が埋まった。
【条件設定 探索時間 十分】
三つ目の条件を設定すると、全ての隙間が埋まり、一つの楽譜が完成した。
【リライト サーチ】
それを確認した俺は、最後に術式の発動を宣言した。
【了承。リライト サーチを実行します】
するとそんなシステムメッセージが流れ、楽譜が回転を開始した。そして、それに合わせて楽譜の中の幾何学模様が、一つ一つ順番に発光しだした。
ゆっくりと楽譜はテレサの周囲を周り、それに合わせて幾何学模様が灯っていく。そして全ての幾何学模様が点灯すると、周囲に向かって何かが放射され始めた。一つの光の波が周囲に広がり、楽譜が回転する毎に追加の波が放射されていった。
『結果がきたみたいだな』
それから十分。あらかじめ設定しておいた時間になると、周囲に拡散していた光の波が一斉に楽譜にぶつかるように戻ってきて、そのまま光の波は楽譜の中に消えていった。
全ての光の波が帰って来ると、楽譜の回転は止まり、楽譜はテレサのデコイの中にいる俺の中に溶け込んできた。そして、俺の頭の中に探索結果が表示された。
まずは、このトワラルの街の全体像が3Dで表示された。次に、その上を歩く人影が表示されていった。最後に、立ち並ぶ建物の一つに黒い矢印が表示され、その中にいる何人かの人影に、茶色色のついた矢印がついていた。
どうやらこの数人が、捜していた信徒達のようだ。この結果からすると、矢印が探索対象を表しているのだろう。
…建物の方の矢印は黒なのに、信徒達を示している矢印が茶色のには、何か理由があるのだろうか?
矢印の色が少し気になったが、今のところ問題は無いので、今は深く考えないことにした。
『うん?』
『どうかしましたか?』
『・・・今すぐに滅ぼすか…』
俺が矢印の対象をもっとよく見たいと思うと、表示されていた光景が今までの3Dのような内容から、現実に目視した時のような光景に表示内容が切り替わった。
しかし、表示された内容は酷いものだった。
見えるのは薄暗く、無数の檻が並ぶ建物の中の様子。
檻の中にいるのは、首輪を嵌められた様々な人類種達。
その嵌められている首輪は、施設でフレイオン達が嵌められていたものと同じものだった。
矢印は彼らが俺の捜している信徒達だと示している。だが、その人類種達の姿と様子は、まともな人類種達のものではなかった。
まず第一に、全員の目が死んでいる。だれもかもが焦点の合わない目で虚空をぼおっと、見ている。その目には一切の生気が無く、自分のことも、周囲の視覚情報もまともに得られているようには俺には見えなかった。
第二に、彼らの身体も酷いものだ。
顔の頬はこけ、身体は肋骨が浮いて見える程に細い。下手をすると、比喩表現ではなく腹と背中がくっついてしまうかもしれない。手足は枯れ木のように細く、触れた瞬間に折れるか砕けてしまいそうな有様だ。
しかも、それはまだ五体満足な人類種達の話しだ。……いや、信徒達を含めた建物の中にいる人類種達全員の共通点か?
俺が認識する相手を矢印の信徒達だけから、無印の人類種達にまで拡大させてみると、予想通り檻の中の人類種達は皆こんな感じだった。
フレイオン達がしていたのと同じ首輪に、檻。そして、生気の感じられない顔に痩衰えた身体。この有様からしてどうやらこの建物は、奴隷商のようだ。最初は牢屋かもとも思ったが、見張りの兵士や監視役の姿は検索結果には表示されていない。なら、そういう存在はその場所にいないのだろう。次に、信徒達の外見年齢だ。信徒達の見た目は全員、本来のフレイオン達よりも幼い見た目をしている。もちろん種族的なものや、栄養的なものの影響はあるだろう。だが、それでも俺には信徒達が十を越しているようには見えなかった。
次に信徒達以外の外見も確認する。
信徒達と似た外見年齢の子供が一番多く、十代後半以降の外見年齢を持つ男性はほとんどいない。また、老人の姿も檻の中には見つけられなかった。
檻の中にいるのは、子供と三十代前半くらいまでの女性ばかりだ。
やはりこの年齢や性別の偏り方は、犯罪者を捕らえておく牢屋のものではなく、人を売り買いする奴隷商のものだろう。
意識を彼らの身体に戻す。個別に彼らの身体を、ぼろ布と変わらない服の下や、服の外に出ている部分をもう一度確認する。
するとやはり、五体満足な者はほとんどおらず、だれもかれもが傷を負っていた。
目に傷がある者、耳が無い者、歯が欠けている者、手足や指が欠落している者に、尻尾や翼といった種族的なものが切断されている者までいる。
服の下の身体にも、あちこちに切り傷や火傷、鞭で打たれたような赤い痕が刻まれていた。
あの施設でフレイオン達は、神獣の細胞を移植されて異形の姿になっていた。しかし、服はともかく栄養は足りていたし、身体には戦闘痕以外の目立った傷はなかった。いくらテレサという保護者がいたとはいえ、なんで生体兵器を研究しているような施設で人体実験を受けていたフレイオン達の方が健康な健常者で、ある意味平和な人類種達の街にいる彼らの方が死にかけているんだ?
ここの奴隷商が悪徳系なのか?それとも、奴隷に人権なんてものは無いというのが人類種達のスタンダード(普通・常識)なのか?
……それとも、あの施設の研究者連中は皆瘴気に汚染されて狂っていたのに、それでもこの街の人類種達か奴隷商達よりもまともだったとか?
……あまり考えたくはないが、それならあいつらも浄化しておけばよかったな。少なくとも、瘴気で狂ってもいないのに正気でこんなことが出来る連中よりは、まだ仲間にしたいと思えるからな。
今更ではあるが、彼らの冥福を祈っておこう。
そうして俺は、少しの間魂の管理神ヘルに祈りを捧げた。




