54.拠点作り
テレサ達との話し合いの後、俺はダンジョンゴーレムを地下から地上に引き上げた。そして今から、実験の為の準備を始める。
『それでは始めようか』
『了解です。こちらはいつでも始められます』
『それなら作業開始だ、[時間樹の樹海]』
まず最初に発動させるのは、[時間樹の樹海]。これでまずは異空間化させる範囲を視覚化する。
俺が今いる場所を基点に、無数の時間樹が円を描くようにダンジョンゴーレムの周囲に生えだし、わずかの間に人工の森が出来上がった。
『境界線はこれでよしっと。お次は[アンダーネットワーク]』
次に発動させたのは[アンダーネットワーク]。地上部分に変化はなかったが、魔素で地下を確認したところ、地下で時間樹やその周囲にある樹木の根が順次絡まり合って、次々に繋がっていっていた。
これで植物由来の生体コンピューターが構築出来た。あとは、繋がる植物を増やしていけば、その都度生体コンピューターとしての性能が向上していく。これの性能テストについては、後でやろう。次はある意味メインイベントだ。
『それでは本日のメインイベント。[ダンジョン領域]』
俺が[ダンジョン領域]を発動させた直後、俺の本体が霧状になって、一気に周囲への拡散を始めた。俺の身体はどんどん自身である霧を増やしていき、あっという間に[時間樹の樹海]で生み出した境界線の内側を満たしていった。そして、それはやがて上下にも広がっていき、ダンジョンゴーレムを中心に球状に安定していった。
『これで異空間化完了です』
『了解した』
俺の意識は今、この空間そのものと一体化している。その結果、この空間内の全てが手に取るようにわかった。
『なら、次に移行する』
『はい』
俺は空間内の様子を見ながら、今度は異空間化した空間の移動を開始した。ダンジョンゴーレムが彼女(この世界)の重力から解放され、俺の意思に従って空中に浮かび上がる。
ダンジョンゴーレムは俺の望むがままに高度を上げていき、俺はその途中でこの空間内のダンジョン化を進めていった。
また、ダンジョンゴーレムをいったんばらし、生体兵器達が封印されている区画を分離させ、まとめて隔離した。残った区画を別にまとめ、俺はテレサ達が住みやすいに動線を考慮しながら、パズルのように新しいダンジョンゴーレムを組み上げていった。
その結果、縦長だったダンジョンゴーレムの姿は横長の姿に変貌した。
バリアフリーではないが、やはり縦移動よりも横移動の方が楽だからな。……俺に関係あるかはわからないが。
『次はっと』
俺は頭の一つをこの空間のダンジョン化に振り、二つ目の頭でダンジョン内の整備を始めた。あちこちにダンジョンオブジェクトを配置していき、ダンジョンゴーレム内をゲームの街のような内装に改装する。三つ目の頭でテレサ達に狩りをしてもらう為の戦闘区画を整備する。四つ目の頭で時間樹や植物を操作して森を形成する。五つ目の頭で食用のモンスター達を設計していき、六つ目の頭でそのモンスター達をダンジョン内に配置していく。七つ目、八つ目の頭でダンジョンの環境設定と微調整を行う。九つ目の頭でそれぞれのサポートを行い、残る彼女達の頭もそれぞれ俺のサポートを開始した。
あれから数日の間、俺は拠点作りに心血を注いだ。この空間自体は異空間化で要塞化していたので、外から襲撃を受ける心配はなかったし、エレメンタルシリーズ達が哨戒もやってくれているので、なんの憂いも無く作業に集中出来た。そのかいあって、今の時点では満足のいく拠点に仕上げることが出来た。
拠点が出来たことだし、そろそろ次の行動に移った方が良いだろうか?
『そうですね。他にやることもとくにありませんし、出来れば宝玉の回収をしてもらいたいです』
なら決まりだな。ここから一番近い宝玉は、何処にあるんだ?
『ここからですと、いくつもありますね』
いくつも?複数あるのか?
『ええ。ここから円形に範囲を広げると、その範囲内に三つ程宝玉の反応があります』
三つもか。ちなみに宝玉のある場所には、偏りとかあるのか?あと、その宝玉に封印されているのは、どの管理神達なんだ?
『ちょっと待ってください、今から調べますから。……わかりました』
結果はどうだったんだ?
『宝玉に封印されている管理神は、植物の管理神デメテル。星の管理神アステリア。闇の管理神ニュクスの三柱です。そして、アステリアの宝玉とニュクスの宝玉は、現在同じ場所にあります』
同じ場所?それは何処だ?
『トワラルという、人類種達の街です』
人類種達の街。敵の拠点の中にあるわけか?
『そのようです。それとデメテルの宝玉ですが、こちらは現在移動中です』
移動中?誰かが持ち歩いているのか?
『はい。生贄召喚で召喚された異世界人の一人が、豊饒の杖というアイテムに付けられた宝玉を所有しています』
二つが同じ街で、一つが異世界人の手元か。どちらを先に回収するべきだろうな?
『街の方に行くことをオススメします』
どうしてだ?数が多いからか?
『いいえ。どうやら異世界人は、トワラルの街に向かっているようだからです』
なるほど。宝玉が三つ、同じ場所に集まるわけか。
『そうです』
わかった。ならそのトワラルの街とやらに行くことにしよう。
『はい』
…さて、行くのを決めたのは良いが、人類種達の街か。どういう方法で攻略するべきかな?
『攻略ですか?』
ああ。スタンピードなんかで街を押し潰しても良いと言えば良いんだが、その時に宝玉やテレサ達みたいな管理神達の信徒達を巻き込むとマズイからな。
『それはマズイですね。たしかにそうなりますと、力技は控えるべきです』
だよな。どうするかな?
それから俺達は、しばらくの間どうするべきかを話し合った。
『…それで決まりですか?』
ああ。トワラルの街には、俺の実験場になってもらう。
『ああ、ようやく始まるのですね。私達の復讐が!』
貴女達の復讐、か。俺にとっては、ただたんに邪魔物を排除するに過ぎないんだがな。
『今の貴方にとってはそれで構いません。ですが、人類種達の実態を見て、私達に同調してくれると私は嬉しいです』
まあ、たぶんそうなるんじゃないか?俺の二つの目的を考えるならな。
『それもそうですね』
そういえば、異世界人は単独行動なのか?
『いえ、違います』
じゃあ、誰と行動を共にしているんだ?
『同じ世界からの異世界人が一人。あとは、数人のこの世界の人類種達と行動を共にしているようです』
なるほど。その異世界人達は、俺の目的の人物達だろうか?
『それは私にはなんとも言えません。ですが、記憶にプロテクトがかかっていても、判別はつくと思いますよ。でなければ、貴方が私(この世界)に来た意味がありませんから』
それもそうだろうな。なら、その異世界人達に会ってみることにしよう。
『それが良いでしょう』
やることも目的も決まった。ならあとは、誰とやるかだな。俺単独でやっても良いが、俺はこの世界の常識がまったく無いしな。貴女はどうだ?
『私に人の常識を期待しないでください』
だよな。なら、テレサに誰か回してもらうか?
『その方が安心じゃないですか?』
なら決まりだ。
俺は手頃な人材を斡旋してもらう為に、テレサのもとに向かった。




