52.話し合い
「自己紹介も終わりましたし、次は私達の今後について話し合いを始めたいと思います」
『貴女達の今後について?』
「はい。貴方達のおかげで、私や子供達はプロジェクトから解放されました。ですが、私達の祖国の者達が私達とこの施設をほおっておいてくれるわけがありません。ですから、私達が今後どういった行動を採っていくのか、皆さんと話し合いをしておきたいのです」
『貴女達が自分達だけで決めれば良いんじゃないか?自分達の今後のことなんだし』
俺達と話し合うようなことだろうか?
「それはたしかにそうなのですが、私達はここ数十年の間、ずっとこの施設で暮らしていました」
『そうだな』
それはテレサの記憶を見ているので、俺も間違いないと思った。
「ですので、今の私達にはこの施設の外に出ても行く宛てがないのです」
『ああ、なるほど』
たしかにテレサの言うとおり、今の彼女達には行く宛てがない。よしんば行く宛てがあったとしても、大量の子供達を抱えている今の状態では、大規模な移動とかは無理だろうということは、容易に想像が出来た。
「ですので、私達としては嫌な思い出も多いですが、この施設に留まりたいと考えています」
『ふむ、それで?』
「ですが今この施設は、貴方の制御下にあります。ですから、こうして貴方に相談をすることにしたのです。どうか私達を、ここに住まわせてはもらえないでしょうか?」
『それは別に構わないが…』
「本当ですか!」
俺がそう言うと、テレサは俺のアバターの方に身を乗り出した。
『ただ…』
「ただ?」
『危険だと思うぞ?』
「危険、ですか?」
『ああ。俺達はこれからも管理神達の封じられた宝玉を集めていくつもりだし、管理神達の信徒以外の人類種達とは敵対関係にある。貴女達がダンジョンゴーレム内に留まるのなら、俺達の戦闘に巻き込む可能性がある』
「それでも構いません。それに、私達の方も貴方達を私達と祖国との戦いに巻き込んでしまう可能性がありますから。いえ、十中八九巻き込んでしまうでしょう」
『それはまったく問題無い。もともと生体兵器とそれを扱う者達は滅ぼさなくてはならないからな。言い方は悪いが、そいつらをおびき寄せる餌になってくれるのなら、こちらとしては助かる。いちいち捜し出すよりは、相手が集まってきたところを一網打尽にする方が効率的だし、よけいな被害を出さずに済むからな』
「そうですか。たしかに被害が少ない方が良いものですからね」
『だな』
これでまずは、一つの話題に決着がついた。
「それでは、次の話し合いにいきたいと思います。次に話し合いたいのは、私達の短期的な目的についてです」
『短期的な目的?長期的な目的じゃなくてか?』
普通、長期的な目的を定めて、それを達成する為に短期的な目的を設定するものなんじゃないのか?
「はい。先程の話し合いで、衣食住の衣と住は確保出来ましたので、今度は食を確保したいと思っています」
『食?食料が不足しているのか?というか、今まで食料はどう確保していたんだ?ダンジョンで自給自足はしていなかったのか?』
「順番にお答えします。まずは現状の食料の備蓄について。これは今の私達の人数で、切り詰めれば一月はもつ計算となっております。次に今まではどうしていたのかといえば、外から月々補給されていました。最後に、ダンジョンで自給自足をしていなかったのかとのことですが、ダンジョンでどうやって自給自足を行うのですか?」
テレサは順番に俺の疑問に答えてくれたが、最後だけは逆に俺に問い掛けてきた。
『・・・』
俺は内心で彼女に問い掛けた。
『この世界の魔物達は、全種類が人類種達に対する毒持ちです。なので、放牧や養殖などをする理由が人類種達にはありません。というか毒抜きも通用しない上、味も普通にマズイですから、そもそも食用に適していませんよ』
『ああ、そうだったな』
そういえばこの世界の魔物達は、そんな設定だったな。
『それと、野菜の栽培なども不可能ですね。ダンジョンの機能で外の環境を再現出来るとはいえ、直射日光などは見た目がそっくりなだけのまがい物です。とてもではないですが、野菜等が生存出来る環境ではありません』
『なるほど』
彼女の説明で、このダンジョンに自給自足が無理なことを俺は理解した。なら、俺の方でどうにかするとしよう。どうせ俺にとっても必要なものだしな。
『すまないなテレサ。どうやら自分の知識や認識、能力を前提にして考え過ぎていたようだ』
「どういうことでしょう?」
『今俺は魔物の身体を使っているから、魔物の味や毒性が気になっていなかったのがまず一つ。自分の能力の中に植物等を出現させたり、急成長させたりするものがあるから、こんな場所でも自給自足が可能だと思い込んでいたんだ』
「そうなのですか。便利な能力をお持ちなのですね」
『今まではあまり使っていなかったけどな』
「どうして今までお使いになられていなかったのです?」
『ただたんに、その必要がなかっただけだ。俺の今の身体は蛇型だったから、植物の類を食べなかった。また、戦闘に使うような能力でもないからな』
「たしかにそうですね」
『ところでテレサ』
「なんでしょう?」
『俺から一つ貴女達に提案がある』
「提案ですか?」
『ああ。最終的にはかなり長期的なものになる可能性もあるが、とりあえずある程度の期間、貴女達全員でこれから俺がやる実験に協力してもらえないか?』
「実験ですか?そこはかとなく、嫌な未来を想像してしまう言葉ですね」
テレサやニクス、ブロードは揃って難しい顔をした。
『ああ、まあ、この施設に居たテレサ達だと、そんな風に想像してしまうよな』
少し言葉選びを間違ったな。
『ですね』
「想像したことは一旦置いておきましょう。それで、私達はどのような実験に協力すればよろしいのでしょう?」
『あえて実験に名を付けるのなら、【神話再現】になるか?』
「【神話再現】?いずこかの神話を模倣して再現する実験なのですか?」
『当たらずも遠からずだな。まあ、実験名については適当に付けただけだから、本質をついてなくても問題は無いんだけどな』
「本質をついてはいないんですか?」
『さっきの貴女達の話しを聞いて、今思いついたばかりの実験だからな。今のところはぼやけた輪郭しかないから、何処に本質があるのかについては、俺にもわからない』
『わりと無責任な話しですね』
『そうだな。だけど、別に問題が発生しても簡単にリカバーが効く実験なんだ。そこまで気負う必要もないだろう?』
『気負う必要性はわかりませんけど、巫女達に具体的には何をさせるつもりなんですか?』
『実験名どおりのことだ。【神話再現】。うろ覚えの言葉を引用するなら、人の子よ、生まれ、育ち、地に満ち満ちよ。だったか?』
『神話的にありそうな言葉だとは思いが、それが今言っている実験とどう繋がるんです?』
『それじゃあ、今からそれを説明しよう』
俺は皆の顔を確認し、さっき思いついたばかりの実験内容について説明を始めた。




