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51.自己紹介

「それでは、私達の今後についての話し合いを始めたいと思います」

『ああ』


彼女(この世界)から俺がこの世界に来た二つの目的を聞いた後、俺達はテレサ達との話し合いの場に来ていた。

場所はダンジョンゴーレムにある一室。参加者は俺、彼女、ヘルの巫女であるテレサに、その夫であり転生神獣代表のニクス。そして、瘴気が抜けて元に戻ったテレサの恩師であるブロードの計五人である。

あと話し合いに参加する為、俺と彼女は[アンダーネットワーク]で作ったアバターを窓口として立てている。

俺のアバターは蛇のぬいぐるみで、彼女のアバターはこの世界の立体模型の姿をしている。

自分達の情報からアバターを作成したら、なぜかこの二つのアバターが出来上がってしまった。今回はこれで話し合いに参加するが、次回ははもう少しアバターを選ぼうと思う。


「それではまず最初は、それぞれの自己紹介から致しましょうか?」

テレサはそう言うと、周囲にいる俺達の意見を求めてきた。


『自己紹介には賛成だ。しかし、自己紹介は俺と彼女の分だけで良いだろう』

「私達の自己紹介は必要ありませんか?」

だから俺は自分の素直な意見を言い、テレサ達はそれに不思議そうな顔を返してきた。


『ああ。貴女達についての情報は、先程の戦いの前に見させてもらっている。だから、俺達は貴女達の名前やプロフィールや名前をすでに把握している』

「そうなのですか。ですが、これには初対面の相手に対する礼儀の問題でもありますから、簡単な自己紹介くらいはさせてください」

『…たしかに礼儀は大事だな。そちらがそれを望むなら、俺はそれで構わない。貴女もそれで構わないか?』

『はい。私もそれで構いません』

『なら決まりだ。さて、誰から自己紹介を始める?』

俺はアバターを動かし、誰からするのかそれぞれの顔を見た。


「それでは、最初は提案した私からいきます。魂の管理神、ヘル様の巫女を勤めさせていただいております、テレサ=ヘルヘイムです」

テレサはそう自己紹介をした後、自分の隣にいる夫のニクスを見た。


「テレサの夫で、ニクス=ヘルヘイムだ。もう一つの名前なども名乗った方が良いか?」

『……それは先に妻であるテレサに話してからの方が良いだろうな。というか、なんで奥さんが管理神の巫女なのに、自分の前世を伝えていないんだ?』

「「ニクスの前世?」」

俺はニクスの問い掛けに、この施設でのやり取りをいろいろと思い返した。そして、ニクスがテレサに自分の前世を伝えていないことを思いだした。だから俺は、ニクスにその疑問を言った。俺がそう言うと、テレサとブロードの二人がニクスに視線を向けた。ブロードの方は単純に疑問の視線だが、テレサの方は隠し事をしている夫に疑惑の目を向けている。


「いや、わざわざ言うようなことではなかったから…」

ニクスはテレサの方を見ないように、俺のアバターから目を逸らさないようにしているようだ。ただ、身体が時々小刻みに震えている。どうやら、テレサを怖がっているようだ。


『まあ、たしかに自分から話すような話しではないか。それに、テレサが知っていないと困ることなら、ヘルの方からテレサに神託を降ろしただろうしな』

やはり夫婦間の力関係は妻が上なのか?と、思ったが話しを先に進めることにした。夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが、蛇の俺もわざわざ関わりたくはなかった。

「そ、そうだよな。ヘル様が何もおっしゃられていないのなら、問題は無いよな!」

どうやらニクスは、その路線で話しを持っていくことにしたようだ。


『ただたんに、あなたがテレサに話すのをヘルが待っていただけなのではないですか?』

「うっ」

しかし、彼女からの言葉でニクスは肩を落とした。


『次で頼む』

このままでは話しが先に進まないと思った俺は、次のブロードに自己紹介を促した。

「おおう、了解した。儂の名前はブロード=ヘイラーク。かつてはそこにいるテレサの通っていた学校で勉学を教えていた者じゃ。現在はこの施設で行われていたプロジェクトを統括していたものじゃ」

ブロードの方も空気を読んだようで、ニクスから話題を逸らすように自己紹介をした。


『次は俺の番か?』

『いえ、先に私が自己紹介をいたします。まず最初に言っておきますが、私には名前がありませんので、種族名であるエレメンタルか、お好きな名称で呼んでください』

「お名前が無いのですか?」

『はい。というよりも、私には固有名称が必要無いのです。なぜなら、私はこの世界そのものなのですから』

「「世界そのもの?」」

『そうです。私は今貴女達が存在しているこの世界。その意思そのものです』

「「!」」

テレサとブロードの二人は驚いた顔し、テレサはニクスの方を見た。テレサに無言の問い掛けをされたニクスは、黙って肯定の頷きを返した。


「なぜそんな方がこんなところに?」

『彼の手助けをする為です』

彼女がそう言うと、彼女のアバターが心なしか俺の方に傾いてみせた。


「彼の?」

テレサは俺の蛇型アバターを見て、首を傾げた。


『そうです。彼は私やあの方達にとって、とても大切なお客様なのです』

「世界にとって大切なお客様?何処からのお客様なのですか?それに、そのような扱いをされるその方はいったい?」

『それは機密事項ですから、答えることは出来ません』

「そうなのですか?」

『そうです』

彼女のこの言葉には、転生神獣であるニクスもとても驚いた顔をして俺のアバターを見ている。かくいう俺も、彼女がお客様と言ったことに驚いている。今まで俺は、彼女からお客様と言われたことがなかったからだ。

彼女と俺の進化に介入してきた奴にとって、俺はどういった立ち位置にいるのだろう?というか、彼女達にそう思われている俺は、いったい何者なんだろうか?

俺は今までそこまで深く考えていなかった自分の過去というか、自分の正体が気になってきた。


『私の自己紹介はいじょうです』

『なら次は俺の番だな』

自己紹介が自分の番になったので、俺はアバターを前に動かした。


『はい。ですがまだ、彼女達には貴方の情報を多くは与えないでください』

『「「「?」」」』

そして俺が自己紹介をしようとした直前に、彼女から自分の情報を規制するように言われた。待たせ分、テレサ達にちゃんと自分の事情を説明するつもりだった俺は、出鼻をくじかれた。そして少しフリーズした後、内心首を傾げた。


なんで味方に情報を開示したら駄目なのか、彼女の意図がまるでわからなかったからだ。


『なんでだ?』

『貴方に教えた情報の中にも、機密事項が混じっているからです。それを彼女達に教えて良いかは、上におうかがいしてみないとわかりません。ですので今回は、名前などの表面的なものだけにしてください』

『……わかった。俺の名前はアストラル=アルテリアル=マクスウェル。現在はロードヒュドラという魔物の身体に宿って活動しているものだ』

彼女に情報を伏せるように言われた俺は、とりあえずこないだもらった名前と、現在の自分の種族名だけをテレサ達に伝えた。


「ロードヒュドラ?聞いたことの無い名前の魔物ですね。…もしかして、昨日私を庇ってくださったヒュドラですか?」

『そうだとも言えるし、違うとも言える。昨日のあれは、全体像じゃなくて一部しか表出させていなかったからな』

「そうなのですか。それがどういうことなのかは私にはわかりませんが、あの時は助けていただきありがとうございました」

『いや、味方を助けるのは当然のことだからな。無事でなによりだった』

「そうですか。ありがとうございます」


テレサがもう一度俺に礼を言い、ひとまず全員の自己紹介が終わった。



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