49.ポンコツ救世主
ストックがなくなったので、不定期更新に移行します。
『話しを戻しまして、私は人類種達に大量の称号を与えました。その結果、人類種達は称号効果で大量のバッドステータスをその身に受けました』
まあ、あれだけの悪名なら、普通にそうなるだろうな。
『ええ。それで人類種達のステータスを削ぎ、スキルや魔法を封じ、私(この世界)から根絶しようと私は企んでいました』
えげつないとは思うけど、確実に成功しそうな企みだな。だけど、悪神達が今でも存在しているってことは、その企みは失敗したってことなのか?
『残念ながらそうです』
なんで失敗したんだ?普通に成功しそうだったのに?
この世界の法則である称号による攻撃。防ぐ手だてが人類種達には、とてもあるとは思えないんだよな。
『その理由が、先程言った生贄召喚にあります』
ああ、そこに繋がるんだな。それで、どう繋がるんだ?
『少しお待ちください。生贄召喚について話すには、もうワンクッション話しておくことがあります』
ふうぅん。もうワンクッション、ねぇ。
『ええ。それでそのワンクッションの正体ですが、【救世主降臨】です』
【救世主降臨】?世界を救うものを臨み、世界に降り立たせる?
字面から判断すると、そのような内容が思い浮かんだ。
『それで合っています。【救世主降臨】は、私(この世界)のエマージェンシー(緊急救援要請)システムです。私(この世界)の存続が危ぶまれる事態が発生した際、自動的に発動。私(この世界)を救う存在を、外の世界から私(この世界)に召喚します』
それがどうしたら生贄召喚に繋がるんだ?貴女(この世界)を助ける為のシステムなんだろう?
世界を救うことと、生贄を召喚すること。二つの事象が普通に繋がっているようには思えない。
『はい。本来は私(この世界)を助ける為のシステムでした。ですが、管理神達が全員封印されていたことがあだとなり、呼び出された救世主が道を誤ってしまったのです』
というと?
『本来なら救世主として呼び出された者は、私(この世界)を救う為の活動をするはずでした。ですが、その説明をするはずだった管理神達が軒並み不在だった為、呼び出された救世主は召喚当初、右も左もわからない状況でした』
ああ、まあ、そうなるよな。
自分が転生した当初のことを思い返し、その救世主の当時の状況をだいたい理解した。
『なのでその救世主は、場当たり的な救済と旅を始めました』
旅?救済はともかく、なんでその救世主は旅なんて始めたんだ?
『自分が故郷に帰る為の情報を集める為です。本来なら、そのことに関しても管理神達が説明するはずでしたが、管理神達は全員封印されてましたから』
ああ、なるほど。手元に情報がなかったから、情報収集をする為の旅だったのか。ちなみに、その救世主は故郷の世界には帰れたのか?
『いいえ。救世主はこの世界で果てました』
…そうか。……死因はなんだ?
『……謀殺、でしょうか?』
謀殺だと!……というか、なんで疑問系なんだ?
死因が不穏な感じなのに、なんで疑問系になっているのだろう?
『謀殺以外だと、自己犠牲による自殺だとも言えるからでしょうか?』
……どういうことだ?
謀殺と自己犠牲による自殺。ある他者から見れば謀殺で、別の者から見たら自殺に見える死に方だったということか?
『先程も言いましたが、救世主は道を誤ったのです。本来私(この世界)を救うはずだった救世主は、私(この世界)ではなく敵である人類種達を救う為に行動したのです』
その救世主とやらは、いったい何をしたんだ?
『救世主は、私が与えた称号に苦しむ人類種達を救う為に、この世界に結界を張りました』
結界?どんな効果の結界なんだ?
『効果としては、当時の人類種達を災難でいた称号効果の無効化と、その授与されている称号の隠蔽ですね』
称号効果の無効化と、称号の隠蔽ねぇ。そんなことがその救世主とやらには、本当に可能だったのか?人類種達に与えられた称号群は、貴女が与えたものだろう。たかが一人の救世主に、世界中に散らばっている数えるのも馬鹿らしい数の称号効果全てを、無効化なんて出来るものなのか?
『普通の人類種達には無理です。ノルニル達、私(この世界)を管理する管理神達でも、不可能ではなかったでしょうが、かなり難しかったでしょうね』
管理神達にも難しいことが、たかがいち個人である救世主とやらに出来た理由は、何でなんだ?
『それが【救世主降臨】の特性というか、権利だからでしょうか?』
うん?権利?
『そうです。【救世主降臨】は、先程も言いましたが緊急救援要請用のシステムです。私(この世界)が危機的状況の際に、私の法則をあてにするのは危険な場合があります。その為、救世主の力は私(この世界)とは別の法則にもとずいたものとなっています。また、私が暴走状態の場合私を止められるように、救世主の能力にはこの世界で最上位の優先権が与えられています』
ああ、なるほど。その優先権とやらのせいで、貴女が与えた称号群が無力化されたわけか。
『そうです。まさかこんなことになるとは、私も想定外でした』
ああ、まあ、そうだろうな。これで結界が有効だった理由はわかった。それで、救世主の死因とはどう話しが繋がるんだ?
『それはですね、件の結界の持続性の話しになります』
結界の持続性?
『はい。どんなに強力無比な結界でも。いえ、強力であるからこそ、件の結界を維持する為には、膨大な維持エネルギーが必要となったのです』
まあ、それは当然の話しだよな。そんなとんでもない結界を、ノーコストで運用し続けられるなんて、道理に合うわけがないからな。
『そのとおりです。では、救世主はその途方もないエネルギーを、どうやって賄ったと思いますか?』
どうやって?……おいまさか!
彼女からの質問に少し考えを巡らせれば、すぐに答えが出た。
救世主の死因は、謀殺と自己犠牲的な自殺。
そして、救世主とやらには一つの世界を救えるだけの力がある。
それらから俺が導き出せる答えはただ一つ。
『貴方のご想像のとおりです。救世主は、自らを結界を維持する為の燃料にしました。今でも救世主は、結界を維持する為にその力を搾り取られ続けています』
うえっ!
予想通りとはいえ、あまり聞きたくなかった答えが返ってきた。
『付け加えると、これが生贄召喚の最初の一回というか、その原型となった出来事です』
……それはつまり…。
『はい。生贄召喚というのは、救世主が張った結界を維持する為に、結界の燃料となる異世界人を召喚するものです』
やっぱりか。
こう、次々に予想が肯定されていくと、内容が内容だけに陰鬱な気分になってくるな。
『そうですね。私としましても、陰鬱にならざれをえない話しですからね』




