38.拮抗された戦い
「それでは、私達は子供達の守りと、彼らを迎撃するということで良いのですね?」
「ああ」
「異議はない」
「それではこれで決まりということで」
俺が眷属を増産している間もテレサ達の話し合いは続き、ようやく今結論が出たようだ。
『決まったか?』
「はい。私達は二手に分かれることにしました。私と孫達が子供達の守りに。ニクスや子供達が、彼らを迎撃します」
『了解した。ではそろそろ、遅延工作は止めてあいつらを叩くとしよう』
「ちょっと待て!」
俺が【衛星】を回収しようとした直後、テレサ達の中の一人。転生神獣の一人から呼び止められた。
『なんだ?』
「結局お前は何なんだ?」
『俺か?自己紹介は後ですると言ったはずだが?』
「たしかにそう言っていたな。そして実際、そのつもりなんだろう。さっきまでならそれでも良かった。だがな、これから戦闘が始まるんだ。敵か味方かはっきりしていないと、正直やりにくいんだ」
『ああ』
その意見には納得がいく。たしかに俺は正体を見せていないのだから、共闘の相手としては不安があるだろうな。
だが、ゆっくり説明しないと、俺の存在は納得しにくいと思うんだが。
『そうですね。ですから、ここは私に任せてください』
と、いうと?
『神獣達と私は面識があります。かつて奴らを相手に共に戦った同士ですから』
なるほど。
『ですから、[霧化]を解除してもらえますか』
わかった。
「「「!?」」」
俺がエレメンタル部分の[霧化]を解除すると、俺を呼び止めた転生神獣の前に、エレメンタルの若木が出現した。
「エレ、メンタル?」
テレサ達は突然現れた彼女に驚いていたが、転生神獣達は彼女自身を見て驚いていた。
『そう。世界の端末、エレメンタルだ。神獣の転生体である者達なら、彼女が味方であることはわかるだろう?なにせ、かつて奴らと共に戦った同士なのだからな』
「あ、ああ」
「ニクス?」
彼女を見て茫然としている夫達を、テレサや子供達は何を驚いているのだろうと、訝しそうに見ていた。
『ふむ。巫女であるテレサの方は反応無しか。まあ、面識はあるわけないし、それも当然か』
「どういうことでしょう?」
『ヘルから聞いている可能性があっただけだ。知らなくても問題は無い』
「はあ?」
テレサは意味が分からず屋、困惑していた。
『テレサよ。そして我が子らよ』
「「「!!」」」
突然響いた【声】に、誰もがはっとしたように顔を上げた。
「ヘル様!」
『我が巫女テレサ。そして我が子と同胞の子らよ、彼は味方だ』
「畏れながらヘル様。ヘル様はこの声の主をご存知なのですか?」
転生神獣の一人が、恐る恐るヘルに質問した。
『しかり。彼女やノルニルから話しは聞いている』
「彼女?ノルニル様はわかりますが、彼女というのはいったい?」
『彼女というのは、そこにそびえ立っているエレメンタルの本体のことだ』
「エレメンタルの本体と言いますと、この世界自身のことでしょうか?」
『しかり。彼がこの世界に出現し、彼女と合流してからの情報は、魔素ネットワークを通じて全て我々管理神達に伝わっている』
そうなのか?
『はい。こちらからの一方通行ですが、逐一情報の共有を行っています』
なるほどな。
『もうまもなくラケシスも彼らに合流する。お前達も彼らに助成し、あの忌ま忌ましい生体兵器共を駆逐するのだ』
「「「はっ!」」」
管理神からの神託を受けたニクス達は、完全に俺を味方として行動を開始しだした。
テレサ達は子供達を守れる位置で防衛線を張り、ニクス達転生神獣組は隔壁の外に出て、デーモンジェネラルとイービルアイ達を迎え撃とうとしている。
俺は頭の一つをテレサから回収し、今度はデーモンゴーレムの方に寄生させた。
またエレメンタルの若木も回収し、アポスルヒュドラとしての本体に合流させた。
そして一定範囲に[冥の沼]を展開。
いつでもエレメンタルミサイルを発射・復元出来る準備を整えた。
『それでは開戦だ』
俺は全員の準備が整ったことを確認し、配置していた【衛星】を呼び戻す。
時間流そのものに干渉しているから、遅延工作をしたままだと、こっちの攻撃まで影響を受けるからだ。
『エレメンタルミサイル、全弾一斉発射!』
戦いの先陣は俺が切った。先制攻撃として、現在も量産中のエレメンタルミサイル達を、イービルアイ達に向かって一斉に送り出す。
【霧】と【沼】から、エレメンタルミサイル達が一斉に飛び立ち、全方位からイービルアイ達に襲い掛かる。
イービルアイ達はそれを、目玉から黒い光を発射して迎え撃った。
俺とデーモンジェネラルとの間で、極彩色の爆発が頻発した。
やはり敏捷特化にしても、Level1だと攻撃を全ては避けきれないようだ。
それでもちゃんと攻撃を回避して、イービルアイに特攻を成功させた個体はいる。核も問題無く回収出来ている。
俺は当初の予定通り、リサイクルでの物量戦を展開した。
俺はエレメンタルミサイル達の特攻成功率を上げる為、リサイクルしながら【霧】の密度を上昇させた。
イービルアイ達の攻撃が視覚頼りないじょう、これで大分成功率が上がるはずだ。
その効果はすぐに表れた。
イービルアイ達の攻撃がハズレることが多くなり、その分だけエレメンタルミサイル達の特攻が成功していく。
そして、成功率が向上したことで、イービルアイ達を倒すことに成功した。
[自爆]で相打ちになっても、経験値は発生する。
イービルアイを倒したエレメンタルミサイル達のレベルが上がり、ステータスが向上してさらに特攻成功率と一回の[自爆]で与えるダメージが増大した。
その結果、イービルアイを倒す為に必要な時間が減少し、段々攻撃の回転率が上がっていく。
もちろん、それだけではない。
エレメンタルミサイル達に持たせている[貢献]が効果を発揮し、俺に続々と経験値が流れ込んでくる。
俺はそれを自分のレベルアップと、[EXPロード]を利用して、デーモンゴーレム、エレメンタルポーン、クレイゴーレム達のレベルアップの為に使った。
エレメンタルミサイル達と違い、デーモンゴーレム達三種のモンスター達には、[死に戻り]等の回収機能を持たせていない。
その為実戦投入するには、ある程度のレベル上げが必要なのだ。
また俺がこの雑魚狩りを有効的に利用している傍ら、ニクス達転生神獣達は、二千年前からの怒りをイービルアイ達に叩きつけていた。
ニクス達は元神獣としての能力を全開で使用し、デーモンジェネラルが次々召喚してくるイービルアイ達を端から撃破していく。
しかし、やはり彼らは転生で能力がだいぶ下がっているようで、撃破速度はデーモンジェネラルの召喚速度を上回れてはいない。
むしろ、エレメンタルミサイル達との連携でようやく拮抗を保っている状態だ。
このままいけば、エレメンタルミサイル達だけでもイービルアイ達を抑えられるようにはなる。
しかし、彼らにもレベル上げをしておいてもらいたい。
今しばらくは、現状維持に努めるとしよう。
それに、俺が本格的に動くのは、デーモンジェネラルを相手にする時で良いだろう。
『そうですね。今の彼らでは、イービルアイ達の相手は出来ても、デーモンジェネラルの相手は荷が重いでしょうし』
だな。
俺達のそんな思惑の下、戦いは拮抗した状態で続いた。
だが、それは俺達の側の思惑でしかない。
敵であるデーモンジェネラルは、この拮抗した状態を打破する為に、新たな眷属の召喚に取り掛かるようだ。
イービルアイ達の召喚速度がわずかに落ち、代わりに別の何かが出現しようとしている。




