35.悪魔将
闇が晴れた時そこにいたのは、先程までの倍近いサイズになった悪魔の姿だった。
デーモンタイプが全長5mくらいだったので、こいつは10mくらいあるということになる。
悪魔の容貌は先程までとだいたい同じで、山羊の頭に、鋼のような筋肉を持った人の上半身。毛で覆われた、二足歩行型の獣の下半身。
背からは蝙蝠の羽根、臀部からは鏃型の尻尾が伸びている。それらに加え、この悪魔の額には六芒星の紋章が輝きを放ち、腕も二本から四本に増えている。
また、それぞれの腕には漆黒の西洋剣が握られていて、妖しい輝きを放っている。
明らかに先程までよりもパワーアップしているように見える。
俺は、あの悪魔の簡易ステータスを確認することにした。
どれだけパワーアップしたのか、知っておいた方が良いだろうからな。
【デーモンジェネラル】
Level:122
HP:53000/53000
MP:126000/126000
[瘴気吸収][マイナス思念吸収][肉体強化][瘴気弾][闇属性魔法Lv:3][呪撃][呪術][禁術][無詠唱][眷属召喚][統率][狂気][魔力障壁][共食い]
【対神生体兵器群、クラスター『デーモン』の中位存在。瘴気と負の感情を糧とし、世界に歪みと破壊をもたらす神敵。下位存在を召喚統率し、被害を拡大させる指揮官階級。別名『悪魔将』】
Level122か。しかも、通常スキルも充実している。
今まで戦った中では、まず間違いなく一番の強敵だな。
なら今回は、出し惜しみは無しにするか。
特殊能力も全部使用するつもりで相手をしよう。
『それが良いでしょう』
おや?復帰したのか?
『おかげさまで。貴方が情報を集めてくれたおかげで、ようやく現状が理解出来ましたから』
そうか。・・・一応聞いておきたいんだが、アレもリサイクルして良いか?
『ゴーレム化したいということですか?』
いや、あいつはユニットの材料にしようかと思っている。
『ユニットの材料?貴方の能力対象になった時点で、アレは貴方の眷属ですから私は構いませんけど、なんでまた?ゴーレム化した方が楽でしょうに?』
まあ、たしかにそうだな。
だが、あのデーモンジェネラルは、ユニット化した方が使い勝手が良い気がするんだよな。
『ふむ。まあ、貴方のお好きにどうぞ。私(この世界)としましては、アレがあのまま存在して(放置されて)いなければ、別段構いませんから』
了解だ。
さて、まず初手はどうするかな?
【霧】や【雨】で弱らせるか?
それとも、さっさと[重力]で握り潰した方が良いか?
俺はどうするべきか迷った。
選択肢が多いと、こういう時に迷うんだよなぁ。
『どうやら、そんな悠長に悩んでいる場合ではなさそうですよ』
あ~?
『向こうが先手を取ったようです。アレの眷属達が出て来ますよ』
そう言われた俺は、デーモンジェネラルの方を見た。
するとそこには、周囲に無数の魔法陣を展開しているデーモンジェネラルの姿と、魔法陣からちょうど出て来た蝙蝠の羽根が生えた目玉の姿があった。
『イービルアイ。デーモンジェネラル配下の、自立型生体兵器ですね。空中を高速で飛び回り、あの目から闇の光線を放ち攻撃してきます。基本雑魚ですが、デーモンジェネラルがいるかぎり、無限に沸いてきますのでご注意を』
ちなみに、その光線の弾速と威力の程は?
『光線の速度は、エレメンタルポーンの[火弾]とどっこい。威力は耐性をすぐに獲得出来る貴方なら、初撃でかすり傷。以降は無傷で済みます』
じゃあ、俺以外に当たった場合は?
『クレイゴーレム達が相手なら、穴が空きます。貴方の他の眷属ですと、エレメンタルポーンが相手なら即死するでしょう。もっとも、どちらも核が無事なら、[冥の沼]で復活が可能ですが』
ふむ。たしかにそれならゴーレム達はリサイクルが利くな。
なら、テレサ達はどうだ?
『巫女と転生神獣達ならば、それぞれ自分で対処自体は可能です。ダメージレベルは、彼女達しだいになります。また、彼女達の保護下にある覚醒人類種達については、こちらはまちまちです。個人差が激しいですから』
まあ、前世がモンスターだったりするやつもいて、覚醒比率がまちまちだしな。
『そうですね』
あと、これは一応聞いておきたいんだが。
『なんです?』
テレサの養い子達を助けることに、反対はしないよな?
彼女に反対されると、子供達を見殺しにしないといけなくなる。
そうすると、テレサ達と良好な関係を結びがたくなるんだよなぁ。
だが、彼女は人類種達をかなり憎んでいるしなぁ。
この辺りのことは、今の内にちゃんと聞いておかないとまずいよな。
『私は反対なんてしませんよ』
そうなのか?てっきり、人類種達は助けるに値しないとか言うと思ったのに。
『あの壊れた人類種達や、生体兵器達が相手なら私はたしかにそう言います。ですが、彼ら巫女の養い子達は、管理神達の信徒達です。こちら側の人間を害するような気は私にはありません』
なるほどな。彼らはテレサの教育で生き延びられるわけだ。
『まあ、そう言い換えても良いかもしれませんね』
なら、俺は彼らを助けよう。
ダンジョンゴーレム、隔壁及び結界を展開させろ。
ゴゴゴゴゴ!
俺が命じると、すぐにダンジョンゴーレムが動きだした。
最初にテレサ達をここに集めた時のように、テレサ達を中心に隔壁が迫り出し、さらにその周囲を結界が覆っていった。
『これで貴女の子供達に被害は出ないだろう』
「これは貴方の仕業なのですか?」
『ああ。隔壁と結界を展開した』
俺は現状の変化に戸惑っているテレサ達に、そう説明をした。
「そういえば貴方は、この施設の制御を掌握しているのでしたね」
『正確には少し違うがな。さて、これから貴女方はどうする?』
「どうする、とは?」
『俺と一緒にあの神敵共と戦うか?それとも、ここで待っているか。どちらにする?俺はどちらでも良いぞ』
「・・・少し待ってください」
テレサは答えを一旦保留にして、ニクス達のもとに向かった。
「あなた」
「テレサ」
合流したテレサは、夫達に自分達がどうするのかを相談した。
さて、テレサ達の相談が終わるまでの間、俺は時間稼ぎと準備をしておくか。
『何をするつもりですか?』
時間関係をちょっとな。
俺は十二ある【衛星】の内、四つをそれぞれのポイントに向かわせた。
【衛星】はデーモンジェネラルを中心に、正方形を描くように配置した。
そして、それぞれの【衛星】から重力場を発生させ、【衛星】に囲まれているデーモンジェネラル達にかかる時間流に干渉する。
俺の目的は時間稼ぎ。
これでデーモンジェネラル達の時間は、大幅に遅延することになったはずだ。
『そうですね。この干渉で、デーモンジェネラル達の体感時間は、こちらの数十倍は遅くなりました』
なら成功だな。
次は、【駒】の量産だな。
『駒、ですか?』
ああ。雑魚が無限に沸いてくるなら、経験値稼ぎをしない手はないからな。
この機会にユニットやゴーレム達の進化も見てみたいし。
『たしかに、良い機会ではありますね』
だろう。
『ですが、先程説明したとおり、ゴーレム達ではイービルアイの相手は厳しいと思いますよ?』
だろうな。だからここは、自爆特攻とリサイクル戦術でいく!
『はい~!?』
まあ、見ていればわかる。
俺は早速、自分の構想を形にする作業に取り掛かった。




