23.潜入
ダンジョンをゴーレムにしたせいか、HPが異常だな。
というか、この世界のステータス上限は何処までなんだ?
さすがに桁がおかしくなってきたので、その点が気になってきた。
『ステータスに上限はありません。値が増え続けるかぎり、どこまでも適応されていきます。もっとも、いまだ人が把握可能な値までしかいったことはありませんが』
そうなのか。
俺はどこまでいけるだろうな?
・・・それにしても、称号の欄もすごいことになっているな。
自分の将来の姿が想像出来なかったので、次に気になった箇所に意識を移した。
ダンジョンゴーレムの称号欄には、[忌まわしき実験場][怨嗟の坩堝][魂の地縛地][赦されざる禁忌の在りか]と、かなり不吉な言葉が並んでいる。
それもこれも、中にいる人類種達のせいだろう。
やはり、さっさと全て闇に葬り去った方が良さそうだ。
俺はダンジョンゴーレムに、[対スキル]の解除を命じる。
『[対スキル]の効果が解除されました。いつでも[透過]で侵入可能です』
わかった。
次に防衛機構の停止。それに加えて、出入りの為の魔法陣の停止は可能か?
『可能です。それらはダンジョンゴーレムの一部ですから、ダンジョンゴーレムの意思一つでどうとでも出来ます』
なら頼む。
『・・・防衛機構の沈黙を確認。転移魔法陣のロック完了も確認しました。これで、ダンジョンゴーレムの中は完全に外から切り離され、孤立無縁となりました』
了解だ。
それじゃあ行くとしよう。
俺は[透過]を発動させ、ダンジョンゴーレムの体内に進入した。
分厚い石壁を摺り抜けた先には、だだっ広い草原と、澄んだ青い空が広がっていた。
なんだここ?
てっきり阿鼻叫喚の地獄絵図か、息苦しくなるような悲惨な光景が広がっている、牢屋とかにでも出ると思っていたんだがな。
『まあ、下層でしたらその予想は当たっていたでしょうね。ここはダンジョンの上層部。生体兵器達の性能確認や、実際の戦闘能力確認の為に、実験体達に殺し合いをさせる為の空間です』
なんだよそれ?
こんな清々しい空間で、そんな血生臭いことをやらせているのかよ、人類種達は!?
『はい』
最悪だな。
『そうですね。昔から思うんですが、なんで人類種達の善悪の振れ幅がこうも極端なんですかね?』
知るか!
気分が悪くなった俺は、早速狩りを開始することにした。
まずは[霧化]を発動させ、自分の巨体を隠す。
これで目視される危険がぐっと減ったはずだ。
ダンジョンゴーレムの防衛機構は停止させているから、あとはこのダンジョン内に居る人類種達の索敵能力にだけ気をつければ良い。
ダンジョン内でのとりあえずの安全を確保した俺は、次にマップを頼りに移動を開始した。
マップには現在、複数の反応がある。
先程の彼女の言葉からすると、ちょうど性能確認か殺し合いをしているところなのだろう。
現実は早めに知っておくにかぎる。
大事な局面で知って硬直するなんてことは、あってはならないからな。
ドォォォーン!!
マップに移る反応の一つに近づいて行くと、大きな音が何度も聞こえてきた。
おそらくこれは、衝撃音か爆発音だ。
随分と派手に暴れているらしい。
俺がさらに近づいてみると、そこでは一つの激戦が繰り広げられていた。
戦っているのは、たぶん二人。
その外見から数え方は二人で良いのか迷うところだが、とりあえずは二つの影が戦っているので、その数え方でいくことにする。
片方は赤い髪の人型をした見た目十三、四くらいの少年。
ボロボロの服をまとい、その隙間から覗く肌には、無数の赤い鱗が見え隠れしている。
また、手足も人のものよりも若干太く、爪も異様に伸びている。
あと目立つ特徴としては、首に首輪、四肢にそれぞれ手枷足枷が取り付けられている点だ。
まず間違いなく、生体兵器にされようとしている奴隷の少年なのだろう。
その少年に対するのは、青みがかった銀髪の人型をした同じく見た目十三、四くらいの少年。
ボロボロの服に、首輪と手枷足枷。
普通の人間よりも太い手足に、鋭く伸びた爪も対する少年と共通している。
かなり似片寄っている二人だが、当然違うところもある。
あちらの少年が赤い鱗なのに対して、こちらの少年は服の隙間から青みの強い銀色の獣のような毛が見え隠れしている。
あちらが爬虫類系なら、こちらは哺乳類系の何かなのだろう。
さて、次に両者の戦いの様子だが、赤髪の少年は炎を使った火力押しで攻めている。
対する銀髪の少年は、氷を使って炎を防ぎつつ、速度で赤髪の少年を翻弄しながら戦っている。
どちらも肉体スペックでごり押ししている感じで、技術や技で戦う様子は見られなかった。
これはやはり、下手に応用能力を持たせると、反抗される危険があるからだろうか?
『それもあるでしょうが、単純に移植された力を扱いきれず、振り回されているのではないでしょうか?』
移植された力?
つまり、やはりあの二人は生体兵器枠ってことか?
『そうです。あの二人のベースはヒューマンのようですが、確実に何かを混ぜられてます』
何かって、何をだ?
『ちょっと待ってください。今から調べますから』
わかった。
彼女を待っている間、俺は自分なりに予想を立ててみる。
ここはやはり、モンスターなんかを混ぜているのだろうか?
あの二人の外見からすると、少なくとも鱗と毛のあるやつが混ざっているのは確実だろう。
赤髪の少年はやっぱり、ドラゴンとかだろうか?
それとも、リザードマンのようなタイプか?
鱗だけだと候補をあまり絞り込めないな。
そして銀髪の少年にいたっては、さらに予想が立てずらい。
毛がある動物なんて、いくらでもいるしなぁ。
『・・・これは!』
俺が答えの出ない予想をしていると、突然彼女から驚愕したような思念が伝わってきた。
どうかしたのか?
『・・・ありえない。ありえない!ヒューマンごときが彼らと適合するなど、あるはずがない!!』
どうやら、あの二人と混ざっているものは、彼女(この世界)にとってかなり予想外の存在のようだ。
まあ、落ち着け。
ある意味半狂乱の彼女を、俺は宥めにかかった。
『ありえない!ありえない!!』
しかし彼女には、俺の声は届いていなかった。
しかたがないので、俺は彼女が自然に落ち着くのを待つことにした。
俺はその間に、さらに状況を確認しておくことにした。
視線を少年達から、マップに映っている他の反応に向ける。
その視線を向けた先には、黒いローブを纏った怪しい一団が居た。
見るからに怪しい雰囲気の上、離れた場所から少年達を見ているのだが、その視線が完全に同じ人間を見ている感じではない。
その感じをもし言葉にするなら、モルモットを見る目だとなることだろう。
ここまであからさまだと、確実にあの一団がこの施設の関係者で間違いない。
つまりは、俺や彼女、管理神達の敵。
最優先で排除する対象達だ。
ここはすぐに襲い掛かるべきか?
うん?
そう思いつつ一団の様子を伺っていると、雰囲気が他と全然違う人物が一人だけいることに気がついた。
年の頃は六十代を過ぎた辺りだろう、白いものが混じった髪に、しわが刻まれた肌。
腰は真っ直ぐ伸びていて、年相応の衰えは感じられなかった。
そしてこの老女の一番目を牽く点は、その眼差しだろう。
老女の視線は、現在戦っている少年達に注がれている。
だが、その視線の種類は周囲にいる一団とは、まったく違っている。
老女の眼差しには、少年達を気にかけている思いが端から見てもわかるほど宿っている。
俺はこの老女に興味が湧いた。
周囲と同じ格好をしていながら、まともな感性を持っていそうな人物。
それに彼女が半狂乱ないじょう、情報は自分で集めなければならないから、ある意味ちょうど良い。
俺は[透過]で地面の中を移動し、老女の足元から[パラサイト]で老女の中に入り込む。
そして、彼女の記憶を覗き込んだ。




