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123.分け御霊

「『…我の提案を断るか。良いだろう、それが今の汝の意思であると理解した。互いの意見は出た。それでは、交渉を進めるとしよう』」

「「「「えっ!?」」」」


ブレイバルトの要請をエレメンタルが勇気を出して断ったのに、ブレイバルトはまったく気にした様子を見せずに交渉を進めると宣言した。


これにはエレメンタルやアストラルだけではなく、アーク達も普通に驚きを覚えた。

ブレイバルトが逆上するとはさすがに誰も思っていなかったが、自分の要求を退けられたのだ、不機嫌になるか、交渉が打ち切られるものだと思われていた。

しかし、ブレイバルトが不機嫌になった様子はなく、交渉をここでやめるつもりも見られない。


ブレイバルト以外にとっては、予想が外れたとしか言いようがなかった。


「『何故驚いている?我はあらかじめ交渉に来たと伝えたはずだ。たかが現状で要求を拒否さたとしても、怒るようなことではない。互いの意見や要求を出し合い、そこから互いの妥協点を話し合っていくのが交渉というものなのだぞ』」

「「「「………」」」」


ブレイバルトの真っ当な言葉に、誰もが自分達の思い込みを理解した。


「『さて、それでは汝が我の要求を退けた理由を聞いておこうか。その点を理解していなければ、我としても次の条件を提案出来ぬからな』」

「…わかりました。私が貴方様からの提案をお断りした理由は、やはりリーディアス様の許可無く彼らを貴方様に引き渡すわけにはいかなかったことが一つ。また、彼らを御使きれていなかったのは私どもの責任です。ブレイバルト様のお手を、これ以上煩わせるわけにはまいりません。そして最後に、これは個人的な感情となりますが、やはり私達の手で二千年前から今日まで被害を被ってきた者達の、敵討ちをしたいのです。どうかこの思いをくんではいただけないでしょうか?」


エレメンタルは創主に仕える立場として、下位の存在として、そして管理神達と共にある世界として、ブレイバルトに自分の思いを伝えた。


「『ふむ。順当な意見だな。それではこちらも同じ言葉を返そう。我も創主の一人として、我が子らに災いを齎した咎人どもは許せぬ。また、直接報復が出来ぬ被害を被った者達に代わり、咎人どもに罰を与えられるのは我の世界では我しかおらぬ。ゆえに、我は我が子らの意思総体として今ここにいる。だから我としても、そう簡単にこの交渉で退くつもりはない』」

「…そう、ですか」

「「『「………」』」」


お互いに退かない理由が明らかになったことで、お互いに相手が退けないことを理解した。


嫌な沈黙がしばらくの間場を支配した。


「『「「!」」』」


そんな中、アストラルが手を挙げて発言の許可を求めた。


「『《重在なす虚界の創主》、パラノークの分け御霊、か?』」

「パラノーク?分け御霊?」


するとブレイバルトは、アークのことを創主の分け御霊と呼んだ。


しかし、そう呼ばれたアストラルの方は、自分がなぜそう呼ばれたのか理由がわからず、首を傾げている。


「『…ふむ。そういえば、パラノークは分け御霊に記憶の継承などは行っていなかったな。そういうことなら、我のことを見て反応しなかったのも、名を呼ばれて困惑しているのは当然か。……しかし、パラノークの分け御霊にしては存在体系がおかしいな。パラノーク以外の要素も混じっているのか?』」


ブレイバルトはそう言うと、探るような視線をアストラル。そして、そのアストラルの内部。構成要素の部分にまで順番に向けていった。


「あの、ブレイバルト、様?その、パラノーク様というのは、いったいどういった方なんですか?それに、俺が分け御霊ということですが、その分け御霊というのはいったい…?」


そのブレイバルトからの視線を逸らしたかったのか、アストラルは先程自分が疑問に思ったことを、ブレイバルトに尋ねた。


「『ふむ。記憶の継承がされておらぬのだから、その疑問は当然か。良いだろう、汝の疑問に答えよう』」


ブレイバルトはそう言うと、アストラルの疑問の答えを答え出した。


「『まずはそう、我が同胞についてだな。《重在なす虚界の創主》パラノークは、我やこの世界を創造したリーディアスと同じ創主の一主。多重世界を創造することを好む創主だ』」

「多重世界?」

「『平行世界やパラレルワールドと呼称される、数多の可能性が現実に具現化した世界。それを我々は多重世界と呼称している』」

「表現の違い、なのか?」

「『ある意味ではな。より詳しく言葉にするのなら、パラノークが創造する数多の差異世界。それをワンセットにした時に用いる表現だ。我々創主は、己の好みに合わせた世界を創造する。パラノークの好む世界は、分岐する世界』」

「分岐する世界?」

「『物語を例にするなら、ハッピーエンドとバットエンドの世界。作者が構築する世界と、読者が物語を読んで想像する世界。ありえたかもしれない物語と、これから生まれえる物語。僅かな差異をもって、無限に増殖と分裂を繰り返していく世界群。それがパラノークの創造する多重世界だ』」

「無限に増殖と分裂を繰り返す世界…」


アストラルはブレイバルトから聞いた内容を反芻し、その異常さにおののいた。


世界が無限に増殖と分裂を繰り返す。

明らかにエネルギーや質量を無視した話しだ。

無限ということは、際限が無いということ。

普通の感性で想像するなら、世界を一つ創造するだけでもかなりのエネルギーや物質が必要なはず。

それらを無視するなんて、明らかに常識の外側。神の領域の外側に位置するだろう話しだ。


「『そうだな。この世界の世界神や管理神達は、リーディアスが創造したもの。ゆえに我々創主達は、たしかに神の領域の外側に位置している』」

「「「「!?」」」」


アストラルがブレイバルトの言葉でいろいろ考えていると、ブレイバルトがその内容を肯定してきた。

アストラルはエレメンタルの例を知っていたので驚かなかったが、アストラルと似たようなことを思っていたアーク達は、ブレイバルトの自分達の考えを読んだような発言に普通に驚いた。


「『さて、それでは次にパラノークの分け御霊についてだが、これはそのままだ』」

「そのまま?」

「『字面通り、パラノーク本体から分けられた御霊だ。パラノークがあえて管理が困難な多重世界を創造する理由は、ありとあらゆる可能性をその目で見たいから。その為パラノークは、自身の御霊。魂や存在と呼ばれるものを無数に分けて、自身の創造した世界に隈なく配置している』」

「それってつまり…?」


アストラルはブレイバルトの説明を聞いて、自身の正体を想像した。


「『そうだ。汝の正体は、我々の同胞たるパラノークだ』」

「「「「!!」」」」

「『…と、言いたいところなのだが』」

「「「「えっ!?」」」」

「『我の見立てでは、汝の構成要素はパラノークのものだけではない。十中八九、パラノーク以外の要素も混じり込んでいるようだ』」

「「「「!?」」」」


このことはエレメンタルにしても予想外だったようで、先程は驚いていなかったエレメンタルも、今回はアストラル達と一緒に驚いていた。


「『ふむ。少し見通してみるか。我としても、汝の存在は興味深いのでな』」


ブレイバルトはそう言うと、アストラルに向かって謎の光の波動を照射した。


「「「「!?」」」」


アストラル達が身構えた直後、アストラルの輪郭が不意に崩れた。

そしてそのまま、アストラルの人型の姿がこの空間から消えた。



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