120.童話系スキル
「こんなものか?」
アストラルはSP交換でいくつかのスキルを選択し、それをそのまま交換した。
そして交換したスキルは、早速や《ダンタリオン》の能力でアストラルに最適化されていった。
「どんなスキルを選択したのですか?」
「今回は童話系のスキルをチョイスしてみた。今までの種別で言えば、グリモアの《ハーメルン》と同系統だろうな」
「童話、ですか?」
「ああ、そうだ」
アストラルの選んだスキルの内容に、エレメンタルは首を傾げた。
先程までの話しで、てっきり流血沙汰を起こすようなスキルを選ぶんだろうとエレメンタルは思っていたからだ。
「なぜ童話なんですか?殺傷能力はあまり高くないと思われるんですが?」
「一部は七ツの大罪繋がりかな?スキルのラインナップを見ていたら、いくつか目についたんだ」
「七ツの大罪?童話で、ですか?」
「そう、童話っで、だ」
「……内容はどういったものなんですか?」
「これだな」
エレメンタルに聞かれたアストラルは、自分がいまさっき交換したスキルを順番にあげていった。
《シンデレラ》
《スノーホワイト》
《ヘンゼルとグレーテル》
《金の斧銀の斧》
「なぜそんなラインナップにしたのですか?というか、どの辺りが七ツの大罪に関係しているのです?」
「そうだなぁ?」
エレメンタルにたずねられたアストラルは、自分の偏見混じりの感じていることをエレメンタルに話した。
ちなみにそれをまとめると、だいたい次のような内容となった。
《シンデレラ》
この物語俗に言うシンデレラストーリーの元となった童話。
この物語の主旨としては、不遇な境遇にあるシンデレラが魔法使いの助けを受けて、一夜の夢である城の舞踏会に参加する。そして、その舞踏会で王子様とダンスを踊った結果、王子様のハートを射止め、お妃となってハッピーエンドになったというお話。
だが舞踏会に参加した結果参加していた王子様のハートを射止めるわけだが、シンデレラの最初の目的はあくまでも舞踏会への参加であったはず。
これは俗に言う棚ぼたというやつにあたる。
そしてこのシンデレラを大罪に当て嵌めるなら、それは怠惰にあたると思われる。
理由としては、シンデレラの行動がどれも受け身だから。
いくら童話の設定だとはいえ、シンデレラが自分から能動的に動く場面がなかったようにアストラルは感じていた。
まずはシンデレラの最初の状況。
シンデレラの継母達が好き勝手をしていたみたいだが、なぜ逃げたり外に助けを求めなかったのか?
その次は、魔法使いが出てこなければ舞踏会に行かなかっただろうということ。
これはまあ、魔法使いの方が唐突に出てき過ぎている気もするが、それでも魔法使いがいなければシンデレラはお城には行かなかったことだろう。
古い童話だから、身分や階級性が念頭にあるのかもしれないが、シンデレラからはどうしても舞踏会に参加したいというような熱意は感じられない。
その次は王子様と率先して踊ろうとはしなかったこと。
これはまあ、身分制度的には普通のことなのだとは思うが、昨今の小説の令嬢達や継母や義姉達の様子とシンデレラを比べると、どうしてもシンデレラが消極的に見えてしまう。
そして最後に、ガラスの靴の持ち主を捜しに使者が訪れた時、シンデレラが自ら名乗り出なかったこと。
シンデレラは使者に言われてガラスの靴を履き、そこでシンデレラが王子様の捜し人であることが判明する。
これらをまとめると、シンデレラが自発的に行動した場面がなさすぎる。
最初から最後まで人の指示か後押しされた時にしか行動していない。
奥ゆかしいと言えるかもしれないが、現代人のアストラルから見ると、自分で出来ることを怠っているように見える。
《スノーホワイト》
アストラルの故郷では白雪姫と呼ばれている童話。
こちらの大罪の主は、ヒロインの白雪姫ではなくその継母である女王。大罪の種類は嫉妬。
これに関しては、先のシンデレラとは違って解釈や偏見を挟む余地はない。
女王は鏡に世界で一番美しいのは誰?と尋ね、鏡が白雪姫ですと答えたことで白雪姫に嫉妬し、白雪姫の排除に動くのだから。
…いや、自分が世界で一番美しいと思っているのだから、女王は傲慢の大罪も兼ね備えているかもしれないな。
《ヘンゼルとグレーテル》
お菓子の家で有名な童話。
これの大罪の主は、お菓子の家の主であり、ヘンゼルを丸々と太らせてから食べようとしている自分。魔女だ。そしてその魔女の大罪は、暴食。
魔女の食生活を知らないので違うのかもしれないが、本来食べないものまで食べようとするのは、暴食だろうとアストラルは思っている。
《金の斧銀の斧》
この話しには大罪の主はいない。
樵は斧を泉に落としたが、それはただの偶然。
泉の精は樵に金の斧と銀の斧を差し出したが、それは樵が正直者だったから。
この童話については、正直者と落とし者を届けた泉の精いがいの配役がいないので、大罪を犯すようなキャラクターはいない。
正直者は得をするという教訓タイプの童話だとアストラルは思っている。
ただし、あえてここに金の斧と銀の斧を欲するキャラクターを投入すれば、強欲の大罪が当て嵌めることが出来るようになるだろう。
欲張りは強欲に通じるだろうからな。
「ふむ。たしかに大罪に関係していなくもないですね。まあ、偏見もそれなりに見受けられますが」
「まあ、そうだな。だが、物語の解釈は人それぞれだからな」
「そういうものなのでしょうか?私(世界)にはよくわかりませんね。人の感性に依存するものは」
「そうか」
どうやら人間のように話せてはいても、エレメンタルの感性はやはり人間とはズレているようだ。
「さて、これまでの説明で大罪に関係しているという部分はわかりました。ですが肝心なのは、交換したスキルが最適化されて役に立つようになったかです。その辺りはどうなんですか?」
「そうだなぁ?」
エレメンタルに聞かれたアストラルは、最適化した結果スキルがどうなったのかを確認した。
「……脇役の方の能力になっているな」
「脇役のですか?」「ああ。《シンデレラ》は魔法使い。《スノーホワイト》は女王。《ヘンゼルとグレーテル》は魔女。《金の斧銀の斧》は泉の精。どれも主人公ではなく、脇役の方の能力がスキルに反映されている」
「ええっと、具体的な説明をお願い出来ますか?」
「ああ」
そう言うとアストラルは、それぞれのスキルの旧バージョンと新バージョンについてエレメンタルに話し始めた。
内容は以下のとおりである。
《旧シンデレラ》
スキル保持者に行動を促すハプニングやアシストが自動的に入る。
例・シンデレラストーリーを参照。
《新シンデレラ》
任意対象を質量などを無視して別のものに変化・変身させられる。
例・鼠を御者に。カボチャを馬車に。ボロボロの服をドレスに等。
《旧スノーホワイト》
毒を受けても、仮死状態になって受けた毒の効果を無効にする。
仮死を解除する場合は、異性のキスが必要。
《新スノーホワイト》
鏡に質問をすると、正しい答えが返ってくる。
また、鏡(鏡状の何かでも可)を通して別の場所の様子を知ることが出来る。
ただし、知ることが出来るのは鏡(鏡状の何か)がある場所に限られる。
《旧ヘンゼルとグレーテル》
ピンチにチャンスがおとずれる。
《新ヘンゼルとグレーテル》
物質を高カロリーなお菓子に変えられる。この変えられたお菓子を一定量食べると、食べたものは豚になる。
《旧金の斧銀の斧》
質問に正直に答えると、得をする。
《新金の斧銀の斧》
任意の地点に泉を発生させ、その中に落としたものを別の物質で複製することが出来る。(一度に複製出来る数は泉の広さに依存。一度に同じ物質のものは複製出来ない)




