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訪れる終焉

大陸南東部、アーガ地方。そこにあるガルド王国。その地でもアスター王国やルーフ王国と同時期にある異変が起きていた。


ただ、アスター王国やルーフ王国の時とは違い、最初の方で生物達が人間の生活圏から消えるような異変が起こることはなかった。

どちらかといえばその逆で、森や平原などに棲息している生物達の数が日に日に増加していった。


これを猟師などの視点で例にすると、普段一日に捕れる獲物が五体程度だとする。

これが異変が起き出してからだと、一日に十五体も捕れる程の遭遇率となっているのだ。

ちなみに、そうなってからの猟師達の獲物の狩猟成功率は、ゼロである。

それはなぜかというと、数が増加した動物達に逆襲されたからだ。

世の中には数は力。数の暴力といったような言葉がちらほらあるが、まさにそれだ。


一人の猟師に対し、最低でも二十体近い動物達がそれぞれ反撃に出ている。

その結果、猟師達は全て返り討ちにあい、肉食動物達の餌へと成り果てているのが現実だ。

そしてさらに動物達の数が増えてくると、動物達の人間達への進撃が始まった。


今まで人間達に同胞達を狩られてきた恨みを晴らすかの如く、動物達が森や平原から人間達の拠点に向かっていく。

動物達は魔物ではないので、魔物避けの結界はまったくもって意味を成さない。

動物達は拠点に入りたい放題だ。


だから動物達は、人間達をさんざん襲っていった。


鳥は人の目をえぐり取り、肉食動物達は人々の喉笛に食いついていく。

鼠などの小動物達は貯蔵庫を荒らし回り、草食動物達は魔物避けの結界を壊してまわった。

魔物避けの結界が機能を失うと、森や平原から魔物達が飛び出し、次々と先行していた動物と合流。そしてそのまま、動物達と共に人間達を襲っていった。


これによって小さな村や町は数日の間に次々と陥落していった。

後に残ったのは、動物達がすぐには攻め込めない程の大きな街や都市の類いだった。


だがそれらも、次に出てきたもの達の手によって蹂躙されることとなった。


最初に現れたのは、山とさほどかわらぬサイズの巨躯の狼。

その狼が一つ遠吠えを上げれば、それを聴いた人々から平静を簡単に奪っていった。

また、その狼が街や都市目掛けて大きく咆哮すると、大気が凄まじい勢いで震え、射線上にあったもの全てが一瞬のうちに塵芥へと成り果てていった。


その次に現れたのは、先に現れた狼を上回るサイズのさらに巨躯の蛇。


その蛇が身体を動かす度に、地上にある何かが蛇の巨体に押し潰され、地に埋もれていった。


その次に現れたのは、先に現れた狼と同サイズの帆船。

その帆船は海ではなく、空から突然現れた。

その帆船は自由自在に空を飛行し、その甲板からは無数の亡者の群れが溢れ出す。

帆船が過ぎ去った後には、亡者に埋め尽くされた大地が残されていた。


最後に、二つの存在達が同時にガルド王国内に現れた。

片方は燃える炎の巨人達。

もう片方は霜を纏った氷に巨人達。


巨人達はそれぞれガルド王国の端と端に現れ、それぞれがガルド王国の中心を目指して進撃していった。


炎の巨人達が通った後は全てが灰燼と化し、氷の巨人達が通った後は全てが凍てつき、そして砕けて散った。


むろん、ガルド王国の人々も反撃をしなかったわけではない。

というか、ある意味アスター王国やルーフ王国の異変よりも、ガルド王国の異変は対処がしやすい。

アスター王国やルーフ王国の異変はじわじわと人々を苦しめるというものだったが、ガルド王国の異変はどこまでも即物的だったからだ。


動物や魔物達の大量発生と、未知の巨大生物達による襲撃。

言葉にすると、たったこれだけの内容だ。


そしてそれは、動物や魔物達を倒せれば、今起きている問題をすぐにでも解決出来るということにほかならない。

まあ、その動物や魔物。巨人達を倒せるかどうかは、また別の問題だが。


そして肝心の討伐状況だが、はっきり言ってかんばしくない。

ガルド王国の人々がどれだけ動物や魔物達を倒しても、後から後から動物も魔物も森や平原から溢れ出て来る。

ガルド王国の人々は、完全にじり貧となっていた。


ゆえにガルド王国の国王達は、起死回生の一手を投ずることにした。

超広範囲を一発で薙ぎ払う、超上級古代魔法の発動。

ガルド王国の国土の半分近くを余裕で吹き飛ばす、国家防衛用最終魔法だ。


ガルド王国国王達は、王都以外の各拠点を全て放棄し、王都でその魔法を発動させる為の準備に入った。


日に日にガルド王国から街や都市が消えていき、そして異変から七日目には、王都以外の全ての拠点が滅びさっていた。


そして七日目。ガルド王国最後の時が訪れた。


その日は最初、雲一つ無い快晴だった。しかし朝日が昇った直後、ガルド王国全域に甲高い角笛の音が木霊した。


すると、快晴だった空に黒々とした暗雲が立ち込めだした。

その暗雲は、みるみるうちにガルド王国の上空を覆い尽くし、ガルド王国の空を制圧していった。

やがて暗雲が完全に空を埋め尽くすと、今まで地上を闊歩していた動物や魔物達が、だんだんいなくなりだしていった。

そして暗雲から雪が降りはじめる頃には、地上から動物も魔物達もその姿を完全に消していた。


そうしたのち、最後まで地上に残っていたのは、ガルド王国の王都の人々と、炎と氷の巨人達だけだった。


やがて暗雲から降りだした雪が地上に到達した。

すると、巨人達が一斉にある行動をとりだした。

炎の巨人達は大地に手をつき、氷の巨人達は空に手を掲げた。

その直後、二種類のオーラがそれぞれ巨人達から放たれた。

炎の巨人からは赤いオーラが放たれ、それを受けた大地は激しく揺れ、やがて大地からはマグマが吹き出した。

そして大地は、固まることのない真っ赤なマグマに飲み込まれていった。


逆に氷の巨人からは、白いオーラが空の暗雲目掛けて放たれ、それを受けた暗雲からは、大量の雹と寒波が地上に向かって降り注ぎだした。


その結果、王都以外の全ては赤と白に染め上げられた。

もうガルド王国の人々には、逃げ場なんてものは完全に無くなっていた。


ゆえにガルド国王達は、最後の希望を超上級古代魔法に托すことにした。

もはや倒すべき相手も定かではないが、国王達はこのまま終わることを良しとはしなかった。


ガルド王国の王城に、遥かな昔に設置されていた魔法陣。

今その魔法陣が、数百年の歳月を越えて発動を開始し始めた。

膨大な量の魔力が王城を中心に吹き荒れ、それらがだんだんと魔法陣の中に収束していく。

魔力を吸収した魔法陣は淡い輝きを周囲に放ち、魔力を吸収するごとにどんどんその輝きを強めていく。

だが、不意にその輝きが歪んだ。

そして、魔法陣が想定外の鳴動を始める。

国王達が慌てだす中、魔法陣に亀裂が走った。

直後、今まで魔法陣に吸収されていた魔力の暴走が始まった。

魔法陣から収束していた魔力が溢れ出し、それはやがて王城。そして王都全域にまで拡散していった。

そして拡散していった魔力が王都の外側にあった魔力と接触すると、一気に変質していった。

やがて変質した魔力は、再び魔法陣に向かって収束を始めた。

そして全ての魔力が魔法陣に収束すると、魔法陣が内側から弾け飛んだ。


その結果、本来は王都の外で発動するはずの魔法が、王城の内部で発動してしまった。

発動した魔法は王城内で荒れ狂い、そのまま王城を破壊して王都をも蹂躙していった。


魔法の効果が切れた頃には、ガルド王国の王都は綺麗さっはり消滅していた。



「「「………」」」


そんなガルド王国跡地を見ている者達がいた。

それぞれが宿り木、鎖、杯の意匠の仮面をつけた者達。

《ヒュドラ》のロキ、アングルボザ、シギュンの三人だ。


三人はガルド王国の滅亡を見届けると、それぞれ宝玉を手にした状態でガルド王国をあとにした。



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