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118.下地作り

「フィードバックを、ですか?」

「ああ、そうだ。信仰神達は人類種達と繋がっている。つまり、信仰神達の側からフィードバックを起こせば、その信仰神と繋がっている人類種達を全滅させることも可能なわけだ」

「………たしかに可能のようですね」


エレメンタルはアストラルが言ったその状況をシュミレーションしてみた。結果は可能。シュミレーション上での人類種達は、信仰神。自分達の心のよりどころを破壊された結果、生きることに絶望して、生命活動を次々と停止させていった。

最終的にはシュミレーション上の人類種達が死滅するまで、一時間もかからなかった。


「そうか、それはよかった。それでこの方法の利点なんだが、信仰神達の信者であり、裏切り者達の末裔の人類種達にしか被害がでない点だ」

「まあ、フィードバックを利用していますからね。これで他に被害が出たら、いろいろとおかしいです」

「まあ、そうだな。だが、だからこそこの利点は大きい。俺達が自分達の手で人類種達を根絶しようとすると、高確率で味方を巻き込む。これは生物以外。貴女の身体である大地なども含まれる」

「たしかにそうですね。私達の干渉能力だと、どうしても結果が大味になってしまいますから」

「そうなんだよな。普通の攻撃もステータスに依存するせいで、威力が過大になりやすい。広範囲を薙ぎ払う分には良いが、人類種達をピンポイントで抹殺。とかはかなり難しいからな」

「ですね。この制限がなければ、天災をバンバン人類種達に叩き込んで終わりなんですけどね」

「そうなんだよな。だけど現実は、敵よりも味方の方が被害が大きくなるんだよなぁ」

「そうなんですよねぇ。なにせ問題の人類種達よりも、他の生物達の方が数は圧倒的に多いですからね」

「まあ、それは当たり前なんだけどな。所詮人類種達は、貴女(この世界)の中に生息している、何万種もいる生物達の内の十数種にすぎないんだから」

「ですね」

「だから今の状況だと、このフィードバックはかなり画期的なんだよなぁ。周りには一切の被害を出さず、ピンポイントで人類種達を抹殺出来る。しかも、前もってわざわざ管理神達の信徒達をより分ける必要性もない。敵だけを確実に始末出来る。七罪邪神と悪神達を砕き、人類種達も軒並み根絶。それでいて周囲への被害はゼロ。文句の付けようのない、クリーンな排除手段だ」

「そうですね。それでは早速、それを実行致しますか?」


エレメンタルはやる気満々のようで、期待の篭った声でアストラルにそうたずねた。


「いや、まずは下地を整えることからだ」


しかし、アストラルはすぐには行動を起こさないつもりのようだ。


「下地、ですか?」

「そうだ。今現在、他の国で仲間達が動き回っている。そしてもうまもなく、アジ・ダハーカ、ナイアルラトホテップ、ロキの三柱がそれぞれ国を一つずつ滅ぼす」

「そうですね。悪意と恐怖、終焉が各国々を滅ぼします」


エレメンタルは、アストラルの話しに相槌をうった。


「そして俺達は、さらに宝玉を回収し、その管理神達を復活させる」

「それが貴方の言う、下地ですか?」

「いや、戦力の強化については、下地の半分だ」

「半分?ではもう半分というのは、いったいどんな内容なのですか?」


エレメンタルは、その内容がすぐには思いつかなかった。


「味方ではなく、敵側への下地作りだ」

「?」

「さすがに国が三つも同時期に滅びれば、怪しむ者はいるはずだ」

「まあ、そうでしょうね。ですが、それがどうかしたのですか?」

「その際に俺達の欺瞞情報を人類種達に撒き散らす」

「?」

「俺達。管理神達が動いていることを知れば、二千年前から生きている咎人共も、慌てて動きだすはずだ」

「そうでしょうね。だいたいの反応は、フィーネ達と似たようなものでしょう」


エレメンタルは、先程までのフィーネ達長老エルフ達の様子を思い返した。


「それにナイアルラトホテップが介入すれば、人類種達の恐怖の方向性を操作し、俺達への大同盟を結成させられる」

「大同盟?それはやれば出来るでしょうけど、なぜそんなことを?」

「信仰神達を引きずり出す為だ。人類種達の総意なら、信仰神達は地上に降臨するはずだからな」

「ああ!それが目的ですか!」

「ああ。いちいち信仰神達の領域を探すのも、攻略するのも面倒だからな。領域の外に引きずり出して、あとは力技だ」

「…面倒なのには同意しますが、力技って…」


エレメンタルは少々呆れた。


「まあ、ステータスのごり押し予定だからな。その力技以外となると、先程話していた管理神達のハッキング・クラッキング攻撃になるな。さすがに信仰神達が相手となると、下位のスキルは効果が低いか無いからな」

「まあ、そうですね。信仰神達のステータスや耐性各種は、それの元になっている人類種達のステータス類の総算で構成されていますから」

「ステータス値は軒並み億越え。スキルも上位のものが取り揃っている。もっとも、繰り糸がバラけているから、効率的な運用とは無縁だが」

「その代わり、信仰神達の動作は予測不能です。…普通なら」

「そう、普通なら、な。しかし俺達は普通ではない」

「それはまあ、神は一般的な普通とは一線を引いていないと変ですよ」

「そうだな。だが管理神達が半数でも復活すれば、その普通じゃないことは普通になる。管理神達がシステムを奪還出来るようになるからな。システムを管理する側が、その世界の普通になる」

「たしかに私の普通にはなりますけど、総合的な普通にはなりませんよ?」

「そうなのか?」

「そうですよ」


アストラルが首を傾げると、エレメンタルはそう言った。


「…まあ、俺達は多心同体なんだし、細かいことは気にしないでおこう」

「…そうですね」


アストラルは、自分の考え違いを置いておくことにした。

エレメンタルも、それに同意した。



「…なんの話しをしていたんだったか?」

「信仰神達のステータスについてじゃないですか?」

「ああ、そうだったな。と言っても、先程までの話しでほとんど言っているからな。あえてまだ何か言うなら、信仰神達のステータス。その正体についてか?」

「信仰神達のステータスの正体ですか?」

「ああ。信仰神達のステータスの正体。それは、人類種達のステータスの集合体だ」

「それはまあ、総算なんですからそうでしょう」

「まあ、そうだな。より詳しく説明するなら、本来人類種達が持っていたそれぞれのステータス。その大部分とも言える」

「そうですね」

「人類種達の思いは集い、信仰神達となる。では、そのステータスはどこから発生し、どうやって数値が決まったのか?答えは、人類種達の思いの強さに応じ、肉体から剥離したステータス」

「そうです。だから信仰神達のステータスは、軒並み億越えになっているのです」

「だが、その代償に人類種達は大きく弱体化した」

「そのとおりです。ステータスが肉体から剥離した分、人類種達は個人個人で弱体化しています」

「せっかく救世主を騙くらかしたのにな」

「そうですね。自分達で勝手に弱体化の道を歩んでくれました。さすがは管理神達を裏切った愚か者達と、その末裔達です。馬鹿ばかりです」


エレメンタルは心底可笑しそうに、そう嘲笑した。



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