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115.七罪邪神

「そう、世界の滅亡。先程自己紹介の合間に少し言っただろう、お前達の行いに俺達が何を思っているのかを」

「それは…」


たしかにアストラルは、先程自分達をかなり侮蔑していた。

自分達が何も知らず、自分達が何をしたのかを理解していなかったから。


「お前達は何も知らない。自分達が何をし、何を引き起こしたのかを。そして、それでどれだけの被害者や犠牲者を生み出してきたのかを。ゆえに断言しよう。無知は罪であり、お前達は咎人であると。この世界や異世界に仇なす者であり、この世界と異世界の者達にとって、赦すことの出来ない悪であると」

「「「「悪!?」」」」

「「「「………」」」」


身に覚えのないアーク達とニーナ達は、アストラルの言葉に一斉に声を上げた。

逆に、アストラルの言葉にそれなりに身に覚えのある長老エルフ達とリュミエールは、沈黙を選択した。


両者の心情は、かなり異なっていた。


今まで勇者として人を助ける活動してきたアーク達に、ほとんど森から出たことのないニーナ達エルフ。両者はアストラルに悪と断じられても、自分達の今までの行動の中で悪行を成した覚えなどないので、自分達が悪ということに納得がいかなかった。

逆に長老エルフ達とリュミエールは、自分達の行動については自覚があった。ただし、行動についての自覚であって、結果についてはここまで言われる程の心当たりは、少なくともリュミエールにはなかった。逆に長老エルフ達の方は、管理神達を実際に裏切っているので、自分達が悪と断じられても否定は出来なかった。


「納得がいかないか?それなら、お前達の。いや、今回はそこにいる裏切り者共の罪状を読み上げよう」


アストラルはそう言うと、どこからともなく一枚の紙を取り出した。


「被告、魔法の管理神ヘカテーの元巫女フィーネ及び、元神官一同」

「「「「………」」」」


アストラルより名指しされた面々は、一様に苦い顔をした。

今まで同族に。自分達の子孫達にも知られていなかったことを、子孫達の目の前で。そして自分達が裏切った管理神達の側。アストラル達、自分達に裏切られた相手の側によって暴かれるのだ。

長老エルフ達からしてみれば、気がきではなかった。


「罪状!一つ、管理神達を裏切り、傲慢の邪神ルシファーにくら替えしたこと」「「「「傲慢の邪神!?」」」」

「婆ちゃん!!」

「「「「………」」」」


アストラルの上げた罪状の一つの目の時点で、リュミエール達から声が上がった。

また、ニーナやエルフ達は、直ぐさま自分達の親族の顔を見た。

だが、フィーネ達長老エルフは、ニーナ達自分の子孫の顔をまともに見られないようで、ニーナ達から顔を逸らした。


「…婆ちゃん」


フィーネ達のその仕草に、ニーナ達は今のことが事実なのだと理解してしまった。


「ふむ。その様子だと、傲慢の邪神の名に聞き覚えはあるようだな」

「当たり前だ!傲慢の邪神ルシファーといえば、七罪邪神の一神じゃないか!」


アストラルの確認に、勇者であるアークが叫んだ。


七罪邪神。傲慢、憤怒、強欲、怠惰、暴食、嫉妬、色欲。人間の七つの大罪を司る邪神達の総称である。

エードラムの勇者であるアークやその仲間達。そして、エードラムの信徒達や光神聖教会のメンバー。アックア等の他の神々の信徒達も、長年七罪邪神達の信徒達と戦いを繰り返してきたという歴史がある。

その為、この世界では七罪邪神達の名前は一般的なもので、誰でも知っている程に有名なのである。


「七罪邪神、か。お前達はそう呼称しているんだな。はあっ、邪神達も憐れなことだな」

「何?憐れ?七罪邪神達が?それはいったいどういう意味だ?」


アストラルが七罪邪神達を憐れむと、アーク達は混乱しだした。

アーク達としては、アストラルがなぜ邪神達を憐れむのか、その理由がまったく見えていない為、どう反応していいのかわからなくなっていた。


「本当になにもかも知らないのだな、お前達は。…まあ、良い。せっかくだから、お前達に絶望を与える真実を提供してやろう」

「俺達に絶望を与える真実?」


アーク達は、アストラルの言葉を訝しんだ。


「そうだ。お前達が七罪邪神と呼ぶ邪神達と、お前達が崇める神々は、兄弟だ」

「「「「えっ!?」」」」

「そして、今現在繁栄している国々の民は、かつて七罪邪神達を信仰していた者達の末裔だ」

「「「「なんだって!?」」」」


アーク達やニーナ達は、一斉に声を上げた。それと今回は、リュミエールもこちら側だ。

声を上げなかったのは、長老エルフ達だけだ。


「かつて邪神達と共に、管理神達と戦いし者達の子孫。それがお前達だ。その時の戦いでは、お前達の先祖は七罪邪神達と共にあった。しかし、管理神達が封印された結果起きた天変地異の後は、現在の悪神達に信仰先が切り替わっている」

「「「「悪神!?」」」」


自分達の神を悪神と言われ、アーク達は動揺した。

そんなのは嘘だときっぱり否定したくても、エレメンタルの神としての威光と、当時を生きていたフィーネ達長老エルフ達の誰からも否定の声が上がらないこと。それが雄弁に、アストラルの話しが事実であるとの、肯定となっていた。


「ああ、そうだ。お前達の崇めている神々は、七罪邪神達の弟神達。当時の戦争の時にはまだ存在していなかったので、俺達は邪神とは呼称していない」

「当時の戦争の時にはまだいなかった?じゃあ、なぜ悪神なんていうんだ?管理神達とは直接戦ったことなんてないはずだろう?」

「そうだな。たしかにお前達の神々は、管理神達と直接戦ったことはない。しかし、悪であることはたしかだ」

「……どういう、意味だ?」

「お前達にしてみれば、エードラムやアックアはお前達を守護している善神だろう。しかし、この世界や異世界の者達にとっては、間違いなく悪神だ。なぜなら、奴らはこの世界のシステムを不正使用し、数え切れない程の命を死に追いやった。そして、本来なら滅びなければならないお前達を、魔物達から守っているのだからな」

「「「「えっ?」」」」


アーク達は、アストラルが自分達の神を悪神と言う理由に、いくつもの疑問を覚えた。

よく意味のわからない内容が、話しの中に複数あったからだ。


「わからないのはシステムについてか?システムというのは、この世界を運営する機構のことだ。お前達にわかりやすいシステムとしては、ステータスなどがあるな。あと、魔法やスキルが発動・持続出来るのも、システムがあってこそだ」

「…ステータス、魔法、スキル…」


自分達が普段何気なく使っているものがシステムだと言われ、アーク達はそれを理解するのに少し時間がかかった。


「それとも、お前達を魔物から守ることが、悪になる理由の方か?だが、これは今までの話しから推察は出来るだろう?お前達は、管理神達と彼女の敵である邪神と悪神の信仰者達だ。逆に魔物達は、この世界が魔素や魔力を収束させて生み出している存在だ。お前達の観点からすれば、自分達を守ってくれる邪神、悪神達が善で、自分達に害をなす魔物達が悪だろう。だが、その観念は世界側からみれば、簡単に逆転する」

「逆、転?」


アーク達は、それぞれが今のアストラルの話しにある立ち位置を入れ替えて、その内容を想像してみた。


「この世界の神である管理神達と敵対している、人類種達を守る。これは悪だ。世界の敵たる悪を守るものは、悪だ。無知ならともかく、仮にも神なのだから、その言い訳は通用しない。逆に、世界の敵を排除しようとする魔物達。これは善だ。少なくとも、正義はある。この世界や異世界に災いをもたらす人類種達と戦っているのだ。管理神側の人類種達や、その他の生物達にとって、魔物達は自分達を守ってくれている存在。彼らにとっての正さ。そして世界の大義は、魔物達の側にある」

「「「「………」」」」


自分達の中の想像と、アストラルの言葉。アーク達は矛盾が無いだけに、否定のしようがなかった。



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