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114.死霊漬け

「あれから二千年も経ったというのに、この顔をいまだに覚えていましたか。ですが、残念ですね」

「「「「残念?」」」」


エレメンタルからの残念という発言に、長老エルフ達は首を捻った。


「私は管理神ではありません」

「「「「管理神様ではない?いや、だが、そのお顔は…?」」」」

「私は世界。管理神達が管理していた世界であり、お前達が滅ぼそうとしていた世界そのもの。そして、今お前達の目の前にいるこれは、私の端末。私の意思の顕現。あえて言うなれば、管理神ではなく世界神」

「「「「世界、神…?」」」」


新たな種類の神の降臨に、誰もが目を見張った。

そして、この場にいる誰もが、エレメンタルが神であることを否定する声をあげることはなかった。

その理由は、仮面を外したエレメンタルから放たれる、鮮烈な神気が理由だ。

この世界の人類種達は、神を身近なものとしている。

ゆえに、神の気配を間違うことはない。


「二千年前のあの当時、私には今のように自由に動かせる端末が存在していませんでした。その為管理神達に加勢することも叶わず、彼女達が封印されるのを、黙って見ていることしか出来ませんでした。しかし、今の私にはこの端末がある!ようやくお前達に復讐することが叶う!さあ、どう調理してあげましょうか?」

「「「「ひっ!ひぃぃ!?」」」」


エレメンタルの、やたらと輝いている獲物を見る目に、長老エルフ達は盛大に頬を引き攣らせた。


「手始めに、一人二人くびり殺してみましょうか?それとも、先程言ったように何人か挽き肉にしましょうか?…あるいは、境界領域にほおり込んでみるのも良いかもしれません。ああ、夢が広がりますね♪」

「「「「ひっ!ひぃぃ!?」」」」


楽しげにそんなプランを口にするエレメンタルを、長老エルフ達は震えながら凝視した。


エレメンタルの言葉の端々から、長老エルフ達をどう苦しめて、どんな風に始末しようかという雰囲気が、目に見える程に周囲に撒き散らされている。


「貴方はどんな調理法がお好みですか?」


長老エルフ達の調理方法に迷ったエレメンタルは、長老エルフ達を見ているアストラルに意見を求めた。


「そうだなぁ?せっかくだから、死霊漬けにでもしたらどうだ?こいつらを怨み憎んでいるのは、貴女だけではないことだし」

「それは良いですね!」


アストラルは少し考えると、死霊漬けなる調理方法をエレメンタルに提案した。

そしてそれを聞いたエレメンタルは、すぐにアストラルの提案を採用した。


その提案を聞いたエレメンタルの顔には、満面の笑みが浮かんでいる。


「「「「し、死霊、漬け?」」」」


逆に長老エルフ達の顔は、死霊という単語で青白くなっていた。


「あ、あの…」

「なんだ?」

「その、死霊漬けとは、いったいフィーネさん達をどうなさるおつもりなんですか?」


そんな長老エルフ達を見て、リュミエールが勇気を振り絞った。


「その質問に、俺が答えると思っているのか?」

「それは…」


リュミエールは、やっぱり駄目だと諦めはじめた。


「なんてな」


だが、リュミエールが完全に諦めてしまう前に、アストラルが前言を翻した。


「えっ?」

「今回はお前達に借りがある。そこにいる裏切り者共の助命は受けつけないが、その程度の質問には答えよう」

「「「「借り?」」」」


そしてアストラルは、リュミエール達にとって予想外の言葉を言った。


「ああ。お前達がそいつらと接触してくれたおかげで、そいつらを見つけることが出来たからな」

「「「「はっ?」」」」


アストラルは長老エルフ達を指差しているが、リュミエール達にはその借りとやらが理解出来なかった。


「俺達がなんの為に、お前達をこの地に呼び寄せたんだと思う?まさか、最初の伝言の為だけだとでも思っているのか?」

「それは…」


リュミエール達は、アストラルから視線を逸らした。

そこまで思いいたってはいなかったからだ。


「扱いやすい奴らだ。俺がこの地でライト達に接触した時、彼女の端末を二人に寄生させておいた。光の守護騎士と、転生プレイヤー。公的・政治的な立場と、物語の中心に位置する者。この二人なら、いずれ二千年前から隠蔽結界の中に引き込もっている、そこにいる裏切り者共と接触があるだろうと思っていた。まさかその日の内に接触があるとは予想外だったが、おかげで今がある。だから、お前達に借り一つだ」

「「「「………」」」」


ルーチェ達は、アストラルからの説明になんとも言えない顔をした。

自分達がアストラル達の策謀に引っ掛かったこと。

そのせいで、長老エルフ達が今の状況になっていること。

だが、そもそもの原因が裏切り者と呼ばれている長老エルフ達にあるらしいこと。

それらをまとめると、アーク達は何も言うことが出来なかった。


「さて、これで借りの内容は話した。次は、お待ちかねの死霊漬けについてだ」

ごくり


アストラルのその言葉に、誰もが固唾を呑んだ。

その死霊漬けにされる長老エルフ達。

身内が死霊漬けにされるニーナ達。

そして、ある意味自分達が原因のルーチェ達。

傍目には三者三様で、その実、全員の内心は一つ。

いったい何をするつもりなのかということに集約されていた。


「死霊漬けというのは、文字通り対象を死霊が満ちた亜空間に漬け込むことをいう。今回の場合だと、そこにいる裏切り者共を、約三兆近い死霊の中にほおり込む予定だ」

「「「「三兆!?」」」」


リュミエール達は、死霊漬けの内容よりも、漬け込む先の死霊の数に驚いた。

三兆の死霊なんて、普通だったらありえない、非現実的な数だ。

しかし、実行するのは管理神側のアストラル達だ。死霊の数がどれだけ非現実的でも、本当に実現させられそうな点が、より恐いところだ。


「…あ、あの…」

「うん?どうかしたか?」

「あの、その、……その三兆という数の死霊は、いったいどこから出てきた数なんですか?」

「死霊達の出所か?それは、そこにいる裏切り者共の被害者達だ」

「「「「えっ!?」」」」


異口同音。その場にいた全員から、まったく同じタイミングで疑問の声が上がった。


「より正確に言うと、二千年前の戦いで死んだ者達。そして、この二千年の間に裏切り者共の被害にあった者達。後者については、異世界の生物達が大部分を占めているがな」

「異世界の、生物?」

「ああ。異世界に住んでいる、人類種、魔物、妖精、動植物に、異世界の固有種達などだ。お前達やそこにいる裏切り者共が禁忌たる異世界召喚を行った結果、異世界も、そしてこの世界も、ありとらゆる世界が滅亡のうきめにあっているのだ」

「「「「滅亡!?」」」」


リュミエールや長老エルフ達は、アストラルに睨まれながら悲鳴を上げた。


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