110.自然が牙を剥く
「ぐっ、みんな…、大丈夫、か?」
「はい。…なんとか」
議会会場から外へと吹き飛ばされたアーク達は、お互いの安否を確かめあった。
リュミエール達については、全員がリュミエールの張っていた防御障壁の中にいた為、全員が無事かつ、まとめて同じ場所に飛ばされていた。
「おい!しっかりしろ!」
しかし、それはアーク達の話しだ。
アーク達以外の。あの議会会場にいた長老エルフ達は、それぞれがそれなりの被害を受けていた。
ある者達はあの爆炎に焼かれ、またある者達は爆発によって身体の一部を欠損させていた。他にも、飛ばされた際に建物や地面に身体を打ち付け者達。破片で傷を負った者達もいた。
とくに酷いのが、先程防御魔法を咄嗟に発動出来なかった者達だ。彼らは爆発と爆炎に直接その身を晒され、かなりの重傷を負っていた。
肌は焼け爛れ、手足の一部欠損も見られる。飛ばされた際の衝撃で、身体のあちこちが骨折もしていた。さらには恐ろしい数の破片がその身体に突き刺さっており、なぜまだ死んでいないのか不思議な程の重体となっていた。
「急いで手当てを!」
それを見たリュミエールや、軽傷の長老エルフ達は、急いで重傷者のもとに駆け寄り、治癒魔法や手当てを始めた。
「婆ちゃん!」
また、議会会場が爆発したことで、外にいたニーナや、警備をしていたエルフ達も長老エルフ達のもとに集まりだした。
「誰か担架を!」
「治療術師を呼んで来い!」
そして、長老エルフ達の姿を見た警備のエルフ達から、集落にいる他のエルフ達に様々な指示が飛び、今の状況を森中のエルフ達が知ることになった。
これにより、森の中が一気に慌ただしくなっていった。
「むっ!全員避けろ!」
「「「「!?」」」」
リュミエール達が長老エルフ達の治療を進めている中、突然、周囲を警戒していたライトが声を上げた。
ドオォォーン!!
アーク達が何事だと思った直後、エルフ達の足元の地面が爆ぜた。
今回は炎をともなった類いの爆発ではなく、大量の水による爆発だった。
エルフ達の足元から大量の水が間欠泉の如く吹き出し、エルフ達を次々と空に打ち上げていく。
「「「「なっ!?」」」」
アーク達や、リュミエールが治療している長老エルフは無事だったが、突然起きたこの現象に、誰もが驚きを隠せなかった。そして、異変はこれで終わりではなかった。
ヒュー!
「「「「うわぁぁぁ!?」」」」
突如森の上空で風が逆巻き、上空に打ち上げられたエルフ達を搦め捕っていった。
エルフ達を搦め捕った風は、縦横無尽に空を吹き抜け、搦め捕ったエルフ達を枯れ葉のように弄んだ。
エルフ達はそれぞれ悲鳴を上げ、大半の者達は弄ばれている内に目を回して、そのまま気絶していった。
そうして空のエルフ達が全員気絶すると、風の流れが変わった。縦横無尽に吹き抜けていた風の向きが一方行に集中し、エルフ達を今までよりもさらに天高く舞い上げた。そうしてある程度の高さにまで昇った直後、風の流れが一気に反転。今度は凄まじい勢いをつけて、地面に向かって下降を開始した。
当然、風に囚われているエルフ達も急速な落下を始めた。
「まずい!あのままだと、地面に叩きつけられるぞ!」
アーク達は空から落ちて来るエルフ達の末路を想像し、顔を青くした。
このまま落ちてしまえば、エルフ達の未来は確実にミンチだ。
「させるか!」
そうはさせるかと、地上に残っていたニーナやエルフ達が、慌ただしく魔法を発動させだした。
ニーナ達は最初、風の勢いを弱めて落下してくる仲間達を受け止めようと、風の魔法を発動させた。
しかし、ニーナ達が発生させた風は、そのことごとくが相手の風に吸収されていってしまった。
落下速度を減速させるどころか、逆に加速させる結果となってしまった。
「くそっ!それなら!」
ニーナは悪態をつくと、今度は水の魔法を発動させた。
風が駄目なら、水をクッションにして仲間達を受け止めようと考えたのだ。
幸いと言うべきか、現在地上には大量の水がある。
そう、最初にエルフ達を空に打ち上げた、あの水だ。
エルフ達を打ち上げた水は、その後も水柱として地上で吹き出し続けている。その為、地上はかなり水びたしだ。
ここまでの水量となると、ひょっとすると水脈から直接水が地上に吹き出している可能性もあった。
が、今はそんなことよりも、エルフ達を受け止められるだけの水があるということが大事だ。
ニーナ達は魔法で水を集め、仲間達が落ちて来るであろう落下予測地点にどんどん配置していった。
「良し!これなら間に合う!」
ニーナ達がどんどん水を浮かべていった結果、ニーナ達は一応は落下予測地点全域をカバーすることに成功した。あとは、落ちて来る仲間達をしっかりと受け止めるだけだ。
ニーナ達の視線が、自分達に向かって落ちて来ている仲間達に集中した。
このままいけば、高確率でニーナ達は仲間達を助けられるだろう。
ボコッ!
しかし、そう上手くことが運ぶことはなかった。
「「「「えっ!?」」」」
突如ニーナ達の足元が液状化した。
ニーナ達は突然の事態に驚いているが、その驚いている間にも、大地はどんどん液状化して泥に変わっていく。
「きゃあ!」
「うわっ!」
そして、ニーナ達は自重でだんだん地面に沈み込み始めた。
ニーナ達は慌てて沈む地面から脱出しようとしたが、それは悪手だった。
ニーナ達の注意が下に向かった直後、上からエルフ達が落ちて来てしまったのだ。
ニーナ達の注意が上から下に逸れていた為、水をクッションにするというニーナ達の試みは、半ば失敗。落下の勢いはそれなりに殺せたが、落下して来たエルフ達を完全に受け止めることは出来なかった。
落下して来たエルフ達は空中の水を突き破り、そのまま地上のニーナ達に激突した。
そして、激突したニーナ達を巻き込んで、泥沼と化している地面にそのままめり込み沈んでいった。
「わあぁぁ!掘り出せぇぇ!」
「掘り起こせぇぇ!」
それを見たアーク達は、慌てて無事な者達にニーナ達の救出を頼んだ。
ここで救出までに時間をかけてしまうと、地面に埋まってしまっているニーナ達が、溺死・窒息死・圧死というトリプルデス(三重死)の餌食になってしまう可能性が、かなり高かったからだ。
アーク達の指示を受けたエルフ達は、急いで仲間達のもとへ向かった。しかし、地面のぬかるみ具合はどんどん悪化しており、救出は難航することとなった。
ゴロゴロゴロゴロ、ピカッ!!
「「「「あばばばばば!?」」」」
そしてさらに悪いことに、突如として雷がエルフ達に降り注ぎ、救出に向かっていたエルフ達は軒並み感電して、大半の者達が行動不能へと追いやられた。
また、そこからさらにエルフ達は不運が続き、救出に向かった自分達も地面に沈んでいくこととなった。
ちなみにだが、雷が落ちたにも関わらず、森の空は雲の一つも無い状態だった。
まさに、晴天の霹靂というやつである。
「誰だ!何処にいる!?」
さすがにここまでの状況になってしまうと、もはやアーク達には余裕がなかった。
アーク達はニーナ達の早急な救出を諦め、先に現状の原因を取り除くことに決めた。
アーク達は一斉に四方に視線を向けた。が、怪しい影などは周囲には見当たらなかった。
「お望みとあれば」
「「「「!?」」」」
だが、アーク達の要求に応える返答の後、ルーチェの傍に一つの人影が出現した。




