108.長老議会
「さて、それでは話していただきましょうか」
現在リュミエール達は、長老議会のメンバー達と相対している。
フィーネが沈黙を選択した後、リュミエールはそのまま話しを続けた。
フィーネが何かを知っていることは確実だったので、フィーネの様子から情報を得ようとしたのだ。
リュミエールは最初に、一週間前に起きたトワラルの街襲撃事件について語った。
最初の方は、フィーネはとくに反応を見せなかった。しかし、ノルニルやラケシスの名前が出てくるあたりになってくると、フィーネの顔色がだんだんと悪化していった。
そこからさらに話しが進み、ダンタリオンが行使した世界規模での時間操作や、因果律の操作に話しが及ぶと、フィーネの顔色は土気色にまでなった。
トワラルの街襲撃事件の詳細を話し終わった頃には、フィーネは倒れる一歩手前の状態にまでなっていた。
リュミエール達はここで一旦話しをやめ、再度フィーネに管理神達についてたずねたが、フィーネは口をわらず、黙秘を続けた。
なのでリュミエール達は、さらなる手札を切った。
リュミエール達は、今日ルーチェが聞いた話しをフィーネ達に語った。
ニーナは自分達が滅びるという部分で憤慨していたが、フィーネは管理神達がこの戦争中に四柱復活すると聞いて、卒倒してしまった。
そこでリュミエール達の間で一騒動あり、次にフィーネが目覚めたのは、夕日が沈んだ頃のことだった。
フィーネは目覚めた途端、誰かに向かって謝罪を繰り返し、ベッドの上でガタガタと震えた。
ニーナが付きっきりで宥めたが、効果は無く、フィーネは二時間以上震え続けた。
さすがにリュミエール達もばつが悪く、今日はおいとましようという話しになった。
そのままいけば、リュミエール達はそのまま帰って終わりだったろう。しかし、ルーチェが他の長老議会のメンバーにも聞いてみたらどうかとアーク達に提案すると、それをベッドの上で聞いていたフィーネが突然ベッドから飛び起きた。
ニーナ達が突然の事態に驚く中、フィーネは家の外に飛び出して行った。
ニーナを先頭にリュミエール達が飛び出して行ったフィーネを追うと、フィーネは長老議会を行う会場に突撃して行った。
ニーナ達もその後を追って会場に入ってみると、フィーネが他の長老議会のメンバー何事かまくし立てているところだった。
それからはてんやわんやの大騒ぎだった。
フィーネ達長老議会のメンバー達は、会場にいたエルフ達を外に追い出し、逆に外にいた長老議会のメンバー達全員を議会会場に緊急召集した。
エルフの里自体が非常事態体制に移行し、議会会場に厳重な警備が敷かれた。
リュミエール達は茫然とそれらを見ていたが、議会会場周囲の警備が敷かれ終わると、議会会場の中心に強制的に移動させられた。
そして現在に到る。
現在議会会場にいるのは、まずは長老議会のメンバーである長老エルフ達。
全員が齢二千歳を越えている老エルフ達だ。
次に、アーク達光の勇者一行。守護騎士のルーチェ。一週間前の戦闘について知りたいと、アストラルを捜索していたライトもこの場に呼ばれている。
これらのメンバーが、現在議会会場にいる面子となっている。
リュミエール達と一緒に議会会場に来ていたニーナについては、会場の外に放り出されている。どうやら、これからの話しはニーナや他のエルフ達に聞かれていけない内容のようなのだ。
その証拠に、この場には長老エルフ達の護衛達も立ち入りを禁じられ、外の警備に回されている。
つまり、自分達の護衛にさえも聞かれてはならない話しをするということだ。
そんなことを察しつつ、リュミエールは相対している三十人近い長老エルフ達の顔を見た。
「?」
そしてその結果、リュミエールはある疑問を覚えた。
それは、長老エルフ達がなぜこれだけいるのかという疑問だ。
長老エルフの外見年齢は、全員がフィーネとたいして変わらない。そして、リュミエールが以前ニーナから聞いたことによると、長老エルフ達は全員が齢二千歳を越えているという。
だが、それはおかしな。いや、ありえないことだった。
リュミエールの知識では、普通のエルフ族の寿命は千年。
二千歳ということは、単純計算で普通のエルフ族の二倍の歳月を生きているということになるからだ。
百年くらいならまだ誤差で済ませられるが、二倍はさすがにおかしかった。しかも、それが三十人近く。
一人二人なら突然変異で済ませられる可能性もあったが、三十という人数は明らかにおかしい。
そしてリュミエールがさらに気になったのが、長老エルフ達の生年月日だ。
これもニーナから聞いた話しにはなるが、長老エルフ達は全員が超古代文明時代の生まれなのだそうだ。そして、超古代文明時代の終わり。謎の天変地異の後の生まれのエルフ達は、誰一人として寿命を超えて生きたという事例が無い。
つまり長老議会は、この二千年間、同じメンバーで動き続けているというわけだ。
種の寿命を超え、すでに過ぎ去った過去よりあり続ける存在。己が種族の規格から外れている者達。そして古き神々に対し、尋常ではない怯えも見せてもいる。
考古学者の人々の真実から推察すると、長老エルフ達はかつて管理神達の神殿を破壊した者達と、何かしらの関係があるのではないか?あるいは、当事者なのではないか?
リュミエールは、状況からそんなことを内心で考えた。




