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107.巫女と長老

「もう少しだよ」

「ごめんなさい、無理を言ってしまって」

「いや、道案内とかはかまわないよ。けど、なんで予定を突然早めたんだい?どうせ二日後には、顔合わせをする予定だったのに?」

「…今は答えられないの。それについては、ついてから話します」

「そうかい。まあ、それなら良いよ」


現在リュミエール達は、エルフ族の巫女に案内されながら森の中を歩いている。


あの話し合いの後、リュミエール達は現状を情報不足だと判断した。しかし、今すぐには新しい情報を入手することは出来ない。

だが、アストラルヒュドラの襲撃がいつあるとも知れない。

早急に新情報が必要だった。


そんなジレンマでアーク達が頭を悩ませている時、ちょうど良い情報源候補がリュミエールに会いにやって来た。

それがリュミエールの友人であり、エルフ族の巫女であるニーナだ。


最初は普通に日常の何気ない会話をしていたが、その途中でリュミエールがニーナの祖母のことを思い出した。

正確に言うなら祖母とは違うのだが、ニーナはその相手のことを祖母として呼び、また扱っている。

本当のところはニーナの直系の先祖で、少なくもニーナとの間には十世代は開きがあるらしい。

その為その年齢は、リュミエール達が知りたがっている時代まで程ある。

つまり、二千歳をとうに越えているのだ。


リュミエール達の知りたい時代を生きた、正真正銘の生き字引。

ニーナの祖母なら、リュミエール達の現在知りたいと思っていることを知っているはず。

そのことに気がついたリュミエール達は、ニーナに祖母との面会を求めた。


ニーナは最初それを訝しんだ。なぜなら、リュミエール達はすでに祖母と面会の約束をしていたからだ。まあ、正確に言うと、祖母が所属しているエルフ族の長老議会と、だが。

エルフ族の長老議会とは、エルフ族の長老格が集まった、エルフ族の意思決定機関。

その為アーク達は、今回の戦争に援軍として来た挨拶をすることになっていた。


アーク達の到着から期間が開いているのは、長老議会が戦争準備で忙しいからである。


ニーナは訝しみはしたものの、リュミエール達の要望を聞きいれた。

それは長老議会との面会ではなく、ニーナの祖母個人との面会だったからだ。

祖母一人に会わせるだけなら、孫のニーナの裁量で済ませられる。

これが長老議会のメンバー複数だった場合、いくら巫女のニーナでも簡単には了承することはなかった。



「ここだよ」


リュミエール達はニーナの案内で森の中を進み、そしてある場所にたどり着いた。

そこはこの森で一番高い樹がそびえ立つ、開けた場所だった。

リュミエール達はニーナの案内に従い、その高い樹の枝に建てられている家を目指した。



「婆ちゃん、友達を連れて来たよ!」

「…お入り」

「失礼します」


リュミエール達は家主の許しを得て、家の中に入って行った。



「ニーナ、そちらがお前の友達かい?」

「ああ、光神聖教会の聖女であるリュミエールだよ」


家の中では、六十代くらいのお婆ちゃんが安楽椅子に腰掛けていた。

お婆ちゃんはリュミエール達の姿を見た後、ニーナに確認した。


「そうかい。光神聖教会の聖女ということは、今回の戦争の援軍に来てくれた人達かい?」

「そうだよ、婆ちゃん」

「はて?その人達とは、二日後に面会する予定ではなかったかねぇ?」


お婆ちゃんは、朦朧しつつある自分の記憶を探った。

さすがに二千歳にもなると、記憶能力に不安を覚えるようになってきているからだ。


「そうだよ。だけど、リュミエール達が婆ちゃんに急いで聞きたいことがあるそうなんだ。だから、私が個人的に引き合わせたんだよ」

「おや、そうなのかい?」

「ああ」

「ふむ」


お婆ちゃんは少し考えると、ニーナの友達達に目を向けた。


「お初にお目にかかります。ニーナの友達をさせてもらっている、リュミエールともうします」

「これはご丁寧にどうも。この子の先祖で、フィーネだよ。それで、私に何を聞きたいんだい?」


お婆ちゃんに目を向けられたリュミエールは、優雅にお辞儀をしながら自己紹介を行った。

お婆ちゃん。フィーネも自己紹介を返し、急ぎということなので単刀直入にリュミエール達が自分に聞きたい内容をたずねた。


「フィーネ様は古き神々。管理神達について何かご存知ではないでしょうか?」

「!?」

「古き神々?管理神?」


フィーネは予想外の内容に驚愕し、ニーナはリュミエールの口にした内容に首を傾げた。


「……どこで…。どこで、その、名前を…?」


フィーネは身体をガタガタと震わせながら、リュミエールにそうたずねた。


「一週間前、私達は《ヒュドラ》と名乗る組織のメンバーと戦いました。その時戦ったダンタリオンというメンバーを加護していた存在です」

「…加、護?そんな馬鹿な!あの方達は今も宝玉に封印されているはずよ!?」

「宝玉に封印。やはりフィーネ様は、何かをご存知のようですね」

「!」


フィーネは信じられないとばかりに声を上げ、リュミエールからそう指摘されてしまった。その結果フィーネは、自分が失言をしたことに気がつき、顔を青くした。


それからしばらくの間、フィーネは沈黙を選択した。



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