106.隠されていた真実
「まずは前提ですが、出土する遺跡は勇者様の言うとおり、基本的には劣化防止や保存の魔法がかけられています」
まずリュミエールは、アークの疑問に答えることから始めた。
「ただ、神殿の多くが破損した状態で見つかっているんです」
「破損した状態で?劣化防止と保存の魔法がかかっているのにか?」
「はい。考古学者の人達の調べでは、魔法やスキルによる破壊痕が確認されています」
「魔法やスキルによる破壊痕って…。「「「誰かが神殿を破壊したのか!?」」」」
リュミエールの言葉に、アーク達は仰天せずにはいられなかった。
なんて罰当たりなことを!
それが全員の共通認識である。
この世界の神殿や教会というのは、そのまま神々の家であり、声を聞く場所である。そんな場所を攻撃するということはすなわち、その場所の主である神への宣戦布告だ。
普通に神罰が下される案件である。
その為この世界では、戦争で敵の国に攻め入っても神殿や教会を破壊しようなどとすることはない。
…もしもそんなことをしてしまえば、本来の敵である人ではなく、その敵が奉っている神によって報復されてしまうからだ。
なので、アーク達にとってはほとんどありえないことなのだ。
「当然、そういう反応になりますよね」
「「「「当たり前だ!」」」」
「気持ちはわかります。私も最初にこのことを聞いた時は、二千年前の人達の正気を疑いましたから」
「……だろうな」
「それでですね、これは今回の話しとはあまり関係ないのですが、考古学者の人達の見解では、超古代文明が突然の天変地異で滅びたのは、これが原因ではないかということでした」
「「「「!!」」」」
アーク達は、リュミエールの余談に今まで以上に驚きを覚えた。
まさか、こんなタイミングで超古代文明の滅びの原因を知ることになるとは、アーク達は誰も思っていなかったからだ。
「……うん?」
「どうかしましたか、勇者様?」
「いや、今何か嫌なことに気がつきそうになった気が…」
「「「嫌なこと?」」」
アークは何かが頭の隅を掠め、少し悩みはじめた。
リュミエール達は、そんなアークのことを不思議そうに見守った。
「あっ!」
「どうしました!」
それからしばらく悩んだ後、アークは突然声を上げた。
「…まずい」
「まずい?何がです?」
「俺達の今の状況が、だ…」
「どういう意味です?」
「俺達。リュミエールは、《ヒュドラ》の奴らに狙われている」
「「「「あっ!」」」」
リュミエール達も、アークが何を言いたいのか察した。
「その《ヒュドラ》には、古き神々がついている。もしも超古代文明を滅ぼしたのが古き神々なら、敵認定されている俺達は、確実に滅ぼされる」
「「「「………」」」」
「それと、今までの情報をいくつか繋げると、少し怖いことを思いついたんだが…」
「…あまり聞きたくはありませんが、何を思いついたんですか?」
リュミエールは、恐る恐るアークにたずねた。
「古き神々を奉じている《ヒュドラ》が、リュミエールを敵視していたこと。それぞれの教会に、隠蔽されているように古き神々の情報がなかったこと。それと、さっきリュミエールが言っていた教会の過激派。考古学者達の真実に黙秘。人の手で破壊されていた超古代の神殿。超古代文明の滅びた理由。あとは、古き神々。ダンタリオンが管理神と呼ぶ神々の復活」
「「「「………」」」」
アークは今までの情報を並べていき、それの所々に様々な符合を見つけたリュミエール達は、だんだん顔色が悪くなっていった。
「全部は繋がっていないかもしれないが、これらの内、重なるキーワードをいくつか抜き出してみると、『古き神々=管理神』、『《ヒュドラ》=管理神達の関係者』、『古き神々の復活=現在は眠りについているか、封印されている』、『リュミエールが《ヒュドラ》に敵視されている理由=リュミエールが聖女だから=教会は《ヒュドラ》の敵=管理神達の敵』『教会=過激派=考古学者達の敵』、『教会の資料=不自然な途切れ=超古代文明の真実の隠蔽』『神殿遺跡を破壊した者=古き神々を隠蔽している存在=教会』と、いう関係性が今の段階では想像出来る。…どう思う?」
「「「「………」」」」
リュミエール達は、アークの想像を否定出来なかった。むしろ、一つ一つを繋げていくと、自分達も似たような結論に到っていた。
「…否定したい話しではありますが、否定しきれませんね」
「…聖女様、一応ここは否定しておくべきところだと思いますよ?」
「それはそうなんですが、少なくとも教会が古き神々のことを隠蔽しているのは事実ですから、私には否定出来のです、ルーチェ姉様」
リュミエールは頭を横に振り、窘めるルーチェにそう伝えた。
「…そう言うってことは、もうすでに確証を持っているんだな?」
「はい」
「「「!」」」
「まだ詳しくは説明していませんでしたが、考古学者の人達が最初に黙秘をしていた理由は、教会の過激派による暗殺を恐れていたからなのです」
「「「「暗殺!?」」」」
アーク達は、リュミエールの言葉が信じられなかった。
聖教会と暗殺。自分達のイメージでは、その二つは決して結びつかない。いや、今までの情報を聞いた今だと、結びついてほしくないというのが正しい。
「…私の言うことだとはいえ、すぐには信じられませんよね?ですがこれは、聖教会が設立されてから行われ続けていた、事実なのです」
だがそんなアーク達に、リュミエールはこれが紛れも無い事実であると伝えた。
「……どうやってこのことを知ったんだ?」
「……考古学者の人達。そして、大神官様から直接お聞きしました」
「「「「大神官様から!?」」」」
アーク達は、予想もしていなかった名前に驚いた。考古学者の人々のことはあらかじめ予想していたが、教会の暗部を大神官様がリュミエールに教えてくれていたなど、アーク達の想像の埒外だった。
「ええ。皆さん、普通に驚きましたよね?」
こくり。
リュミエールからの確認に、アーク達全員が頷いた。
「聖教会では、古き神々の存在を認めていません。ですので、長年聖教会の過激派は、古き神々の存在を示すものを廃棄してきました。真実を知った考古学者達を始末することも、その一貫です。真実を知った考古学の人達。神殿遺跡で発見された資料。神殿遺跡そのもの。他にも様々なものを、歴代の過激派達は歴史の闇に葬ってきました」
「…それは、聖教会全体が関わっているのか?」
「…いいえ。破壊活動をしているのは、あくまでも過激派だけです。ですが、聖教会の上層部はそのことを知っていて黙認しています」
「「「「!!」」」」
「どういうことだ!」
「聖教会の上層部にとっても、神は私達の神々だけなのです。ですので、古き神々の存在が世間に知られないことは、聖教会上層部の望みでもあるのです」
「「「「………」」」」
さすがに狂信者ではないアーク達には、あまり理解出来ない話しだった。
というか、理解したくない話しだ。
少なくとも、人道的には悪だとアーク達は思った。
「もちろん、それでは駄目だと思う教会関係者は普通にいます。今回の場合なら、それが大神官様です」
「「「「なるほど」」」」
少なくとも、上層部に一人はまともな人がいるとわかって、アーク達は少し安心した。
「だから大神官様は、私にいろいろと教えてくれたのです。…ですが、私もそこまで知識が豊富ではありませんので、理解出来ないからとまだ教えていただいていないことも多々あります。現状私が皆さんに話せる情報は、ここまでです。これ以上の情報となりますと、帰って大神官様に聞いたり、また調べてみないとわかりません」
「…そうか」
それからアーク達は、一度全員の意見を出し合い、今後について話し合った。




