105.調査内容
「まずはそうですね、ここ一週間の内に私がしたことについてから話しましょう」
「リュミエールがしたこと?…そういえば、ここ最近何か忙しそうにしていたな」
アーク達はリュミエールの言葉に、ここ一週間の彼女の様子を思い返した。
ここ最近の彼女は、聖女としての仕事の他に、トワラルの街の住人達の葬儀に鎮魂、書庫での調べものや、外部とのやり取りを頻繁にしていた。
「ええ。私はまず、教会に戻ってから書庫で情報を集めをしました。私が知らないだけで、古き神々の情報を教会が把握しているかもしれないと思ったからです」
「結果は?」
「書庫をあらかた確認しましたが、古き神々に関する情報はありませんでした」
アークの問い掛けに、リュミエールは首を横に振った。
「次に私がしたのは、他の神の教会への確認です。私達の方には資料が無くても、他の教会にはあるかもしれませんでしたから」
「結果は?」
「駄目でした。親交のある聖女仲間達からの返事は、全員からそんな情報や資料はなかった、と」
アークの確認に、リュミエールはまた首を横に振った。
「複数の教会に資料などが無いってことは、古き神々なんて、本当はいないってことなのか?」
リュミエールの調査結果に、アーク達はダンタリオン達の狂言を疑い始めた。
「いえ、そうではありません。古き神々は実在します」
「どういうことだ?教会には資料がなかったんだろう?」
だが、それはリュミエールがすぐに否定した。
アーク達は、リュミエールを訝しそうに見た。
「たしかに書庫の方では、古き神々についての資料を見つけることは出来ませんでした。ですが、多方面で調査してもらった結果、ある事実が判明したんです」
「ある事実?」
「はい」
「それはどんな事実なんだ?」
「その事実というのは、書庫にあった資料がおよそ二千年前のものまでしか存在していないということです」
「…つまり?」
「つまり、今から二千年前よりも前。私達が超古代文明が存在しているとしている時代よりも前には、私達の神に関する記述が一切見つかって無いんです」
「「「「!!」」」」
今リュミエールが言った超古代文明というのは、今より二千年前以前に栄えていた文明のことである。
この超古代文明時代では、現代とは比較にならない程の高度な文明が存在していたとされている。そして実際に、二千前よりも以前の地層からは、現代の魔法や錬金術では到底再現出来ないアイテムの数々が出土している。
その為、超古代文明の実在を疑う者は誰もいない。
ちなみに超古代文明は、突如発生した謎の天変地異により一夜にして滅びたとされている。
また世界規模で全てが失われていた為、その天変地異は世界中を同時に襲ったと言われている。
「この時点で、私達の神々がもっとも新しいというダンタリオンの言葉は、不本意ながら証明されました」
「そうか。まさか無いことが証拠になるなんてな。……うん?だが、それはエードラム様達の年齢証明だろう?」
「そうです」「なら、リュミエールはどこで古き神々の実在を確信したんだ?」
アーク達は、リュミエールに注目した。
「それについては、私が書庫を調べた後の行動から話すことになります」
「書庫の後は、何をどうしたんだ?」
「まずは、考古学者の方達に連絡を入れました。そして、古き神々について何か知らないかをたずねてみました」
「結果は?」
「最初は黙秘されました」
「「「「黙秘?」」」」
「はい」
アーク達は、リュミエールがされた対応に疑問を覚えた。
知っている。知っていないという返事ではなく、黙秘。
それはどういうことか、と。
「私も最初は疑問に思いました。ですが、その原因はすぐにわかりました」
「なんでだったんだ?」
「…各教会のせいでした」
「「「「はっ?」」」」
リュミエールの答えに、アーク達は一瞬固まった。
「より正確に言うなら、各教会の過激派。その暗部が原因です」
「…どういうことだ?」
「今現在は、私達の神々が主流です。というか、私達は古き神々のことを認知していません。そしてそれが、この世界の一般的な常識です」
「あ、ああ。そうだな」
「ですが、考古学者の人達にとっては、それは真実ではありません」
「どういう、こと、だ?」
アークは、躊躇いがちにリュミエールに問い掛けた。
過激派。暗部。真実。この言葉の羅列がやたらと不吉な気がしたからだ。
「考古学者の人達のお仕事は、当然歴史の研究などです。その研究の為に、遺跡の発掘などもよくされるそうです。そして発掘をしていると、過去の神殿などを掘り当てることもあるそうです」
「それはつまり…」
「はい。今まで発掘された全ての神殿には、現代で信仰されている神々の御名はまったくなかったそうです」
「「「「!?」」」」
リュミエールのその言葉は、アーク達の常識を壊すには十分な一撃となった。
「逆に、私達の知らない神々の名前が全ての神殿に記されていたそうです」
「…全ての神殿?」
「ええ。超古代文明では、同じ神々を全ての神殿で奉っていたようです。各神一柱を奉っている現代とは、まったく違う信仰形態ですね」
「…まあ、たしかにな」
「そしてその神殿の古き神々の御名を照会してもらった結果、時の管理神ノルニル。運命の管理神ラケシスの名前が確認出来ました」
「「「「!!」」」」
「これによって、少なくともダンタリオンが古き神々と繋がっていることは、間違いなくなりました」
あらためて物証が出てきたことで、アーク達は古き神々の存在を今までになく、強く認識した。
「…リュミエール」
そしてアークは、何かに気がついたように突然顔を上げ、リュミエールに声をかけた。
「どうしました、勇者様?」
「一つ確認したいんだが」
「はい」
「その発掘された神殿には、どれだけの神の御名があったんだ?」
「「「「!」」」」
このアークの質問に、リュミエール以外の面々もあることに気がついて顔を上げた。そして、彼らの注目がリュミエールに集まった。
「そうですねぇ?」
「「「「………」」」」
リュミエールの回答を、誰もが固唾を呑みながら待った。
「…御名が確定されているので、十二柱。御名があちこち欠けているのが八柱。あとは不明ですから、最低でも古き神々は二十柱はおられるはずです」
「「「「二十!!」」」」
リュミエールの答えた数に、誰もが驚いた。
そしてその数は、彼らにさらに恐ろしい事実を示していた。
ダンタリオンのもとにすでに二柱。今回の戦争で四柱が復活する可能性がある。それでもまだ、後十六柱も確実に控えている。
知れば知るほど、彼我の戦力差は開いていく一方だ。
「……そういえば、なんで御名が欠けていたりするんだ?超古代文明の遺跡なら、経年劣化防止や、保存の魔法なんかが普通はかかっているだろう?」
アークはそんな現実から目を逸らし、リュミエールの言葉で気になった部分についてたずねた。
超古代文明では、経年劣化防止や保存の魔法は一般的なものだった。その為、二千年も経った現代でも、問題無く使用出来るアイテムや、原形を留めた建物。遺跡がちらほらと発掘される。
「「「「!!」」」」
ルーチェ達も、アークの言葉でそのことに気がついた。
ルーチェ達の視線が、リュミエールに注がれる。
「…それはですね」
リュミエールはそんな彼らに応え、自分が知ったことを話し始めた。




