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102.集いし者達

「もうそろそろだな」

「そうですね」


設定をいじったあの日から、もう一週間の時間が流れた。

この一週間の間、堕悪ドワーフと堕悪エルフ達は本格的な戦争はせず、小さな衝突を繰り返していた。

その理由は、どちらも援軍と切り札となる物資を待っていたからだ。

堕悪ドワーフ達の切り札は、言わずと知れた【覚晶石】。それと援軍は、同じ火の信仰神イグニスを信仰している堕悪ドラゴノイド族。

相手の堕悪エルフ達は、なにやら秘術の触媒とやらを切り札として外部から取り寄せていた。そして援軍には、同じ水の信仰神アックアを信仰している一部の堕悪ヒューマン族。それと、その堕悪ヒューマン族の要請で、光の信仰神エードラムを信仰している堕悪ヒューマン族の一団もこの地に来ている。

その一団とは、トワラルの街で出会った光の勇者アーク一行と、ライトと呼ばれていた転生プレイヤー。ルーチェを筆頭にした、光神聖教会守護騎士達。


戦力比としては、一対八といったところだろう。

堕悪ドワーフ側が一で、堕悪エルフ側が八だ。

内訳としては、堕悪ドワーフ側の三割が援軍の堕悪ドラゴノイド達で、残る七割が堕悪ドワーフ達自身となっている。

逆に堕悪エルフ達の方は、堕悪エルフ達が一割。残りは全て援軍である堕悪ヒューマン族で、水の信徒達が六割。アーク達光の信徒達が、残りの三割をになっている。


こうやって内訳を確認してみると、堕悪ドワーフ達と堕悪エルフ達との戦争というより、堕悪ドワーフ達と堕悪ヒューマン達との戦争に見えるな。

「そうですね。堕悪ヒューマン達が、堕悪エルフ達よりも繁殖能力に優れているとはいえ、完全に動員数や主体となる戦力バランスが逆転しています」

「細工は隆々か?」

「そうですね」


この堕悪エルフ側のヒューマン達の戦力比の理由は、俺達の仕業だ。

現在各地に展開している仮想・擬似神格達。その内の一頭、堕天使サマエル。

そのサマエルがある国に潜入することに成功したので、サマエルを通じてその国から来る援軍を増員させてみた。わざわざ援軍を増員させてみた理由は、戦争の拡大。そして、犠牲者の数の増加が目的だ。

戦争に参加する人間が増える程、それだけ災禍は拡がりやすくなる上、俺達が付け入る隙が大きくなる。

まあ、前の状況でもいくらでも付け入れたが…。

ちなみに、堕悪エルフ側だけを増員した理由は、堕悪ドワーフ達に【覚晶石】の使用を促す為だ。

これで堕悪ドワーフ達は、戦力差を覆す為に躊躇い無く【覚晶石】を使うことに踏み切るはず。

ルーラーのアライメントインパクトは、堕悪ドワーフ陣営で発動するよりも、堕悪エルフ達との中間点。闘争の中心地で発動出来た方が、より多くの人員を巻き込めて、効果が高くなる。

それとあとは、勇者や異世界人。転生プレイヤー、生贄召喚を行った。またはそのことを知っている咎人達をおびき寄せる為でもある。

戦争の規模が大きくなれば、世のしがらみや利権関係で、戦争に介入しようとする者達が出て来る。そうなれば当然、各国の上層部や権力者、重要な立ち位置にいる者達が戦争をしている両者の陣営にそれぞれ訪れる。

こちらは網を張っているだけで、獲物の方からわざわざ罠の中に飛び込んで来るというわけだ。


正直に言って、現在までの状況ですでに大分ウハウハだ。

この一週間の間に、すでに数多くの人類種達がこの地を訪れている。そして、その者達の影にはすでにダニ型、蚤型、蚊型のアビス達を潜めることに成功している。また、一部の者達はすでに報告などの為に本国に帰還していっている。

それによって、彼らの道中でアビス達の影響範囲がどんどん拡大していっている。

これで例え戦争がこちらの思惑通りにいかなくても、今回の成果は充分に確保出来た。

本末転倒な気もするが、もう今回の戦争の方をオマケ扱いしてもいいかもしれない。

それほどの成果をすでに得ている。


…まあ、それでもさらなる成果を獲にいくんだがな。

「予想以上に大物が釣れていますからね」

「ああ」


彼女の言うとおり、今回の戦争には大物が複数参加する。


光の勇者アーク。光の聖女リュミエール。転生プレイヤーライト。


俺がすでに面識を持っている三人に加えて、さらに複数の大物達がすでにこの戦場に来ている。


堕悪ドワーフ族の勇者に、堕悪ドワーフ族の神匠。

堕悪エルフ族の勇者に、堕悪エルフ族の大賢者。

堕悪ドラゴノイド族の勇者に、堕悪ドラゴノイド族の英雄。

堕悪ヒューマン族の水の勇者に、堕悪ヒューマン族の水の大神官。


主立った参戦者だけでも、これだけの新規の大物がいる。

これに個人やチーム単位での参戦者。傭兵や旅人などを加えると、さらに数が増える。

少なくとも、すでに転生プレイヤーの姿を二人。生贄召喚された異世界人を一人。そして、俺の捜していた異世界人を二人見つけている。

さらに宝玉を持った者の姿も確認した。

この地で確認された宝玉は、獣の管理神アルテミス。掟の管理神テミス。癒しの管理神パナケイア。魔法の管理神ヘカテーの宝玉の四つ。


それぞれ、堕悪エルフ側に二つ。堕悪ドワーフ側に一つ。個人参戦の異世界人が一つ保有している。

これから戦争が始まれば、さらに数が増えるかもしれない。


出来れば、今回の戦争中に全て回収したいものだ。

「そうですね」

「……ああ、いや、もうわざわざ宝玉を回収する必要性はないのか?」


彼女が同意してくれたすぐ後、今の俺なら宝玉をわざわざ回収する必要がないことを思いだした。


「それはどういう意味です?」

「いや、なに、今まで宝玉を回収していたのは、回収して自分と融合させないと宝玉の封印を解けなかったからだ」

「そうです。それがなぜ、宝玉を回収する必要性が無くなったのです?」

「その理由は、もう融合しなくても宝玉の封印を解けるようになったからだ」

「どういうことです?」

「この間手に入れたいくつかのスキル。戒めを緩める[シギュン]。拘束から解き放つ[サマエル]。バランスを偏らせられる[ロキ]。この三つの仮想神格スキルを併用すれば、外部から封印を無効化出来るはずだ」

「……たしかにそれらを併用すれば、不可能ではないでしょうね。封印が今だ強固であるとはいえ、それは内部の話し。外部から管理神クラスの力を加えれば、少なくとも封印に綻びは生じるはず。そこを基点にすれば、八割がた上手くいくでしょう」

「十割じゃないのか。だが、八割もあれば十分だろう」

「そうですね」


ああ、今から楽しみでしょうがない!


ポチャン


「ああ、わかっているよ。貴女達は貴女達で好きにすると良い」


俺が愉快でたまらないと思っていると、俺の後ろにいた面々が、やり過ぎないように言ってきた。


キィィン


「ああ。貴女達は好きにしてくれて良い。俺は門であり、たんなる水先案内人でしかないからな。復讐も、報復も、神罰も、全て好きにやってくれてかまわない。俺は貴女達が暴れているどさくさに、自分の目的を並行してやれば良いからな」


ギュン


「ああ。貴女達にはその権利がある。今まで我慢してきたんだ。せいぜい派手にやってくれ」


ギギギ


「ああ、このエリア内なら被害は気にしなくてかまわない。空間が個別で独立しているからな。どれだけ暴れても、外には影響は出ない」


キラキラ


「ああ。そろそろ戦争も始まる。こちらも開幕のベルを鳴らそう」


俺はそう言うと、後ろの彼女達をこちら側に完全に顕現させる。

彼女達がこちら側に完全な形で姿を現わしたことを確認し、俺達はそれぞれの目的の為に散開した。



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