101.設定変更
「ここだな」
「そうです」
俺達は荒野を駆け抜け、国境を越え、信仰神達を信仰している人類種達の領域に戻ってきている。
そして今俺達は、空中よりある森を見下ろしている。
片方は荒野に面していて、荒野に侵食されているように途中から茶色くなっている。逆に、その反対側では鬱蒼とした木々が生い茂り、深く暗い森が形成されていた。
「随分と対照的だな。いや、こんな感じだからこそ戦争をしているのか」
「そうです」
「さて、まだ【覚晶石】の反応は少ないな。輸送はまだか。なら、少し待った方が良いな。ルーラー達や【覚晶石】を暴走させるとしても、数が揃っていた方が良いよな?」
「そうですね。万が一生き残りが出た場合、その方が生き残りの方で理由づけしてくれるでしょうし」
「なら、今からは暗躍の時間にするとしよう。ゲームプレイヤーで増えた能力で、いろいろといじくってしまおう」
「いじくる?何をです?」
「いろいろとさ。いろいろと、ね」
俺は意味深にそう彼女に言った後、早速[ゲームプレイヤー]を起動させた。そして、ゲームシステム・設定変更メニューを呼び出す。
「まずは被害範囲の抑制。いや、被害範囲の固定化だな」
「被害範囲の固定化、ですか?」
「ああ。ルーラー達を暴走させるのは、両刃の剣だ。あまりアライメントインパクトの範囲が広いと、貴女への被害がばかにならない。ここは影響範囲を限定して、被害は一定範囲以上に拡がらないが、確実に二つの種族にダメージを与えられるようにする」
「たしかにその方が私は嬉しいですが、本当にそんなことが可能なのですか?」
「能力の説明上はな」
半信半疑な彼女に、俺はそうとしか答えられなかった。
まあ、実際にやって見せれば彼女も理解出来るだろう。自分のことだからな。
「まずはあの森一帯を対象に指定」
俺のマップが、[ゲームプレイヤー]に連動するような反応を見せた。
マップで森を中心とした一帯の上空に、赤いカーソルが出現した。そして、俺が指定した一帯を縁取るように、赤い境界線も出現した。
どうやら、とくに問題無く能力は適応されていっているようだ。
「それじゃあ次は、システム設定を変更するとしようか」
まずはエリア制を有効にして、彼女(この世界)の空間を分割する。
すると、マップに無数の縦線と横線が入り、地上が碁盤の目のように分割された。
「成功っと。これで例え無限射程や無限範囲の攻撃や能力でも、エリアの外は射程外になる。ルーラー達のアライメントインパクトも、外にまで被害を及ぼすことはなくなった、と」
「ありがとうございます。これで懸念が一つ減りました」
「ああ。次は、ダメージレベルを変更しよう」
「ダメージレベル?」
「ああ。実際に感じる痛覚の度合いだな。やはり戦争と言えば、殺しあいだ。邪神の走狗達には、たっぷりと苦しんでもらおう」
「良いですねぇ、それ!ですが、やり過ぎないようにしてくださいね。ショック死や一撃で行動不能にしてしまうレベルにしてしまうと、戦争自体が成り立たなくなりますから」
「わかっている。軽く上げておく程度にしておく。こういうのは、じりじりとやる方が効くものだからな」
俺はそう言って、ダメージレベルを二つ程上げた。
これはマップでは変更後の結果がわからないので、効果の程は戦争中に確認するとしよう。
「次はどうしますか?」
「次は、あのエリアでだけ残機制を実装する」
「残機、制?」
「ああ。システムとしては、残機という数字がゼロにならなければ、この世界の場合なら人生が終わらないというシステムだ」
「なんでそんなシステムを実装するんですか?死なせずにいたぶる為ですか?」
「その逆だ」
「逆?」
「そうだ。残機制を実装すれば、残機はこちらで指定出来る。その数を一に設定すれば、一度死ねばそこで終わりに出来る。この世界では実装されていない残機制だからこそ、それが実装されれば、規格違いのこの世界にある蘇生魔法やスキル、アイテムは軒並み無効化出来るようになる。生き返る為に必要なものが、残機になるからな。残機を回復する効果以外は、意味がなくなる」
「なるほど」
「これで予想外の蘇生は無くなる。どちらの種族も、例外なく戦場で果てる。……まあ、転生プレイヤーの能力は無効化出来ないだろうが」
「それはしかたがありませんよ。適応されている法則が違うのですから」
「それはそうなんだがな」
「まだいじりますか?」
「ああ」
「他にいじるような箇所がまだあるんですか?」
「ドロップ関係を少しな」
「ドロップ関係ですか?ドロップアイテムでも落とすようにするんですか?」
「ああ。それに加えて、ドロップマネーやドロップエフェクトなんかの設定もな」
「…ドロップマネーはこの間聞きましたが、ドロップエフェクトというのはなんですか?」
「直訳するなら、落とし物効果だな」
「落とし物効果?」
「ああ。ドロップアイテムや、ドロップマネーが出現した時に発生する効果だと理解してくれれば良い」
「…なんとなくは理解は出来ます。追加効果というものですね」
「ああ。その認識でかまわない」
「それで、何をどう設定するんですか?」
「まずはドロップアイテム。これについては、爆弾をドロップするアイテムとして設定するつもりだ」
「…その理由はなんですか?」
「理由の一つは、追撃。あるいは、追い打ちだ」
「追撃に追い打ちですか?それはどういうことです?」
「ドロップアイテムというのは、モンスターやプレイヤーが死んだ時にドロップするものだ。戦争という状況なら、死体の傍に味方。あるいは、敵がいる可能性が高い。なら、その死を利用しない手はない。誰かが死んだ時に爆弾をドロップする。そして爆発。死体の周囲に死にかけがいれば、追撃の一撃。これでさらにトドメが刺せれば、さらにもうワンチャンス。混戦状態なら、連鎖コンボの連鎖爆破で一網打尽も夢じゃない」
「おお!なかなか良さそうですね」
「だろう♪」
「アイテムドロップを爆弾にする理由は納得しました。ドロップマネーなどについても説明をお願い出来ますか?」
「了解だ。ドロップマネーについては、アビスコインを設定しようと思っている」
「アビスコイン?なんです、それ?そんな通貨、この世界にはありませんよ?」
「たしかにないな。だが、通貨なんてものは、本来はただの加工された鉱物にすぎない。通貨や貨幣は所詮概念。自然物ではない。なら、俺が通貨だと認識していれば、それは俺にとってのマネーだ。それによって、俺はアビスコインをドロップマネーで落とせる通貨に出来る」
「なるほど。理屈はわかりました。それで、そのアビスコインの正体はなんなんです?やはり、名前のとおりコインの形にしたアビスとかですか?」
「いや、それでも悪くはないんだが、今回は違う。今回はただんに、アビスの特性を付与しただけのコインだ」
「アビスの特性?」
「エナジードレインに、寄生。アビスコインがドロップすればする程、堕悪ドワーフ達の生命力は奪われていく。そして、亡きがらはアビスコインによってアビスポーンとなる。無駄なく利用する感じだな」
「本当に利用しつくすつもりなんですね。では、最後に言っていたドロップエフェクトというのは、どうするつもりなんですか?」
「そちらは呪いを採用しようと思っている。恨みや憎しみを増幅し、万が一にも戦争が停戦などにならないように」
「私が言うのもなんですが、徹底していますね。そこまで彼らを憎んでいるのですか?」
「ああ。悪意には悪意を。死には死を。消えし命に、咎人達の命を捧げよう」
「捧げられても困ると思いますが…」
「所詮は復讐なんて自己満足なものだ」
「それもそうですね」




