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100.邪神の走狗

「ここだな」


俺達はステータス任せの超高速移動を行い、現在は堕悪ドワーフ達の隠れ住?の地上部分に来ている。地上部分は、先程までいた場所と同じ見渡すかぎりの荒野のままだが、地下には数十程度の堕悪ドワーフ達の反応がある。

この程度の数だと、ここは堕悪ドワーフ達の街などではないだろう。ここでルーラー達がアイテムに加工されているのなら、工房か研究施設だろうか?


もう少し反応を調べてみる。

ルーラーの反応はまだ確定していないが、【覚晶石】の反応はかなりの数確認出来た。どう少なく見積もっても、千は軽く超えているようだ。

随分と数を揃えたものだ。それだけの数のルーラー達が覚醒すれば、いったいどうなるのかも理解することもなく。


…しかし、試作品のはずなのになんでここまでの数を揃えたんだ?

普通、試作品は試作品。安全性を確かめてから量産をするものだろうに?

「堕悪エルフ達との戦争の為かもしれません」

「戦争?」

「ええ」

「戦争の理由はなんだ?」

「種族仲が悪いからですね」

「そんなに悪いのか?」

「すこぶる悪いです」

「なんでだ?」

「堕悪ドワーフ達のライフワークのせいでしょうか?」

「堕悪ドワーフ達のライフワーク?ドワーフの仕事というと、鍛冶や製鉄なんかか?」


俺はドワーフという種族名から、そんなイメージを彼女に伝えた。


「そうです。堕悪ドワーフ達の得意なことは、鍛冶や製鉄です。ですが、それを行う為には大量の牧が必要になります。そしてそれは、森や山を切り開く必要があるということでもあります」

「その話しの繋げ方だと、堕悪エルフは森か山にそれなりの関係があるんだな?」

「はい。堕悪エルフ達は、基本的に森を住居としています。ですから、自分達の住家を切り開き荒らす堕悪ドワーフ達は、堕悪エルフ達の天敵です」

「そうか。……うん?森を切り開くのは牧を手に入れる為として、なんで堕悪ドワーフ達は森を荒らすんだ?間伐とかなら、森を荒らすとは言わないよな?」

「たしかに間伐とかなら、普通は森を荒らすとは言いません。しかし、この世界の堕悪ドワーフや堕悪エルフ達に、間伐なんて概念はありません」

「ないのか?」

「はい。ついでに言いますと、植林や環境保全なんて言葉や概念も持ち合わせていません」

「…それって、大丈夫なのか?」

「大丈夫なわけありません。堕悪ドワーフ達は何も考えずに森や山を切り開くばかりですから、山ははげ山になり、森はご覧の有様です」


エレンはそう言うと、自分の足元を指さした。


「ご覧の有様って、……まさか!」

「そのまさかです。この辺りが荒野化した理由は、信仰神達のエネルギー横取りに加え、堕悪ドワーフ達が森林伐採を繰り返した結果です」「…これ、全部か?」

「そうです」


俺は周囲一帯に広がっている荒野を見た後、彼女に確認した。結果は肯定。

この見渡すかぎりに広がっている荒野の光景が、まさか堕悪ドワーフ達の仕業とは…。どんだけ環境破壊をしてるんだか…。

「どんだけと言われれば、ここ+αですね」

「はた迷惑なことだな」

「そうですね。ほかにも山崩れを引き起こしたり、大気汚染に水質汚染。あとは鉱毒なんかも撒き散らしています。とことん迷惑な種族ですよ。まさに邪神の走狗。生きとし活ける者達の敵です」

「酷い言いようだが、それがまごうことなき事実なんだろうな。なんというか、最初は白蟻みたいとか思ったが、実際のところは科学工場みたいだな」


俺は堕悪ドワーフ達のことを、そう評した。

移動する公害問題製造機。ファンタジー系の異世界なのに、なんだかなぁ。


「普通、ドワーフは職人枠なんだがなぁ」

「職人枠ではありますよ。ただ、ろくに技術以外(公害対策など)の部分を発展させず、そういう知識のある異世界人達は、使い潰してしまうんですよねぇ」

「どうしようもないな」

「そうですね」

「そうなると、堕悪エルフ達の方がまだまともなのか?」

「そうとは言えません」

「なんでだ?」


少なくとも、エルフはイメージ的に公害問題製造機とかにはならないはずだろうに?


「堕悪エルフ達も間伐とかはしませんし、自分達の思いこみや都合で勝手に森の自然環境に干渉してくるので、そのせいで森の生態系はダメージを受けます。堕悪エルフ達のせいで生態系が狂い、殺されてしまった森は一つや二つではありません。そのうえ堕悪エルフ達は、生態系を狂わされた結果腐り落ちた森を、完全に放置して他の森に寄生していくのです。残された森は質の悪い伝染病の温床となり、他の生物達に甚大な被害をもたらします。はっきり言って、どちらも最悪の害悪です」

「そのようだな」


ファンタジーなのに、どちらも現実的で酷いものだな。


「話しが脱線しました。ともかく、そんな感じで両種族の仲は悪いです。そして、これにあえて付け加えるなら、信仰する神の属性や、美的感覚、種族性質の不一致。歴史的なあれこれまで付いてきます。和解はもう不可能なレベルですね。ですので、わりとこの二つの種族は戦争をしています。今回の場合も、その戦争の為の準備と考えれば、安全性度外視の試作アイテムの量産にも納得がいきます」

「たしかに、それなら納得がいくな。そういうことなら、二つの種族を戦争を隠れみのにして、一気に滅ぼしてしまうか?」

「それが良いです!あの邪魔者共を、一掃してしまいましょう!」


三割方冗談だったのに、彼女はノリノリのイケイケだ。

よほど嫌いらしい。それならば、彼女要望通りに滅ぼすとしよう。しかし、とうとう種族単位で人類種達を滅ぼす時がきたか。なんというか、感慨深いものだな。

さて、どうやって滅ぼすかな?滅ぼす方法なんてニダースぐらい余裕で用意出来るが、他の人類種達に気づかれるのは面倒だからな。それに、今は仮想・擬似神格達が各地で暗躍している最中。彼らの存在を感づかせるような、余計なリスクを犯すのもなぁ?


……ふむ。ここはやはり、戦争中のやり過ぎでけりをつけるべきだろうな。

幸いというか、堕悪ドワーフ達自身が安全性を確保出来ていないアイテムを量産してくれているからな。戦争中にそれらを使用した時に、こちらで引き金を引いてやればいい。

そうすればルーラー達が覚醒し、テリトリーの展開と支配を開始するだろう。あとは俺が[エレメンタルの魔素炉]で属性エネルギーを生成し、それをルーラー達に供給してやればいい。

そうすれば後は、ルーラー達のアライメントインパクトが全てを消し去ってくれる。

自分達の作ったアイテムの暴走により、堕悪ドワーフ。そして、敵である堕悪エルフ達は共に死に絶える。


ある意味、俺達にとっては理想的なシチュエーションだな。ラケシスの権能を使っているわけでもないのに、俺達にとってはかなり都合の良い状況だ。

せいぜい、有効に活用させてもらうとしよう。


「これからどうします?下に向かいますか?」

「いや、下で工作する必要はなくなったから、俺達は良いだろう」

「俺達は?」

「ああ。アビスクイーン」


俺はエレンの疑問に答えず、アビスクイーンを呼んだ。


「なぁに、お兄ちゃん?」

「俺の分体と一緒に、地下に友達作りに行こうか」

「お友達!」

「ああ。ルーラーは同じ鉱物系だから、きっと仲良くなれるよ」

「行く!新しいお友達、私欲しい!」

「良し。それじゃあ行こう」


俺は分体を生み出し、アビスクイーンと一緒に地下のルーラー達のもとに送りだした。


「なぜ別行動をとらせるんです?」


アビスクイーンを送りだした後、エレンは真っ先にそれを聞いてきた。


「戦争なんてものは、幼女が見るようなものじゃないからか。それに、ルーラー達を支援するだけの簡単な作業だ。実行する俺と、それを見たい貴女が居れば、充分な話しだからな」

「まあ、そうですね」

「それじゃあ、行こうか」

「ええ」


俺達はまた移動を開始した。目指すは、堕悪エルフ達が住む森。堕悪エルフと堕悪ドワーフの戦場。


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