99.世界の脅威
「そうして移動能力を得たルーラーは、各地を放浪して属性エネルギーを貯蔵してまわる。そしてそれが規定値に達すると、第三形態に変態する。共生相手から分離し、鉱物体から半鉱物、半属性エネルギー体の身体に移行するんだ。これによりルーラーは、完全な自立行動が可能になる」
「半属性エネルギー体?」
「つまりはガイスト。いや、貴女でいうのなら、エレメンタルスピリットに類似した形態になるということだ」
俺は一番近いガイストのことを取り下げ、彼女が知っている中で一番イメージが近そうなやつの名前をあげた。
「…なんとなく、どんなのかわかりました」
「そうか。それでこの段階に至ると、そろそろルーラー達が貴女にとって危険な相手になってくる」
「と、いいますと?」
「この第三形態になったルーラー達は、属性エネルギーの吸収と、周囲の環境属性の塗り替えを始める」
「環境属性の塗り替え?」
「ああ。今回の例だと、周囲の環境属性を火属性に塗り替えていく。まずは気温の緩やかな上昇。ルーラーの属性塗り替えが進行していくと、それに合わせてテリトリー内の気温が際限無く上がっていく」
「…際限無くって」
「0度、10度、20度、30度。そんな常識的な温度から、40度の猛暑。が、そんな多少の異常気温で気温の上昇が止まることことはなく、平気で100度。そして、それ以上の温度まで気温が上昇していく」
「100度って、それでは地上は…」
「普通に灼熱地獄になるな。さらにその気温が発火温度を越えれば、地上の有機物。生物や植物達は、軒並み自然発火を起こす。鉱物や建物のような無機物にしても、やがて融解温度に到達して、全て熔け落ちる。最終的には、地上の全てが炎に変わり果てる」
「…なんて、ことです。完全な地獄絵図ではないですか…」
「そうだな。だが、今のはあくまでも気温に関する結末なんだよな」
「…まだ、何かあるのですか?」
「まあ、ここからが、本番ということになるかな?」
「…本、番?」
「ああ。気温の上昇は、属性を塗り替えた結果起きる、副次的な作用でしかない。それに、副次的な作用なら他にもある。例えば、水属性や他属性の減衰。これによって、テリトリー内での火属性以外の属性エネルギーが減っていき、やがてテリトリー内から完全に枯渇する」
「枯渇するとどうなりますか?」
「属性エネルギーが無くなるのだから、当然火属性以外の属性能力なんかも使用不能になる」
「それってつまり、その段階まできたら、ルーラー達が徒党を組んでいようがいまいが、属性関係は完封されるということですか?」
「そうなるな」
「…まさに、属性の支配者」
「いや、この場合は属性の支配者と言うよりも、属性の封殺者といった感じだがな」
「……そうかも、しれませんね」
「さて、それでは本筋の話しだが、環境属性を火属性に塗り替えるに従って、当然そのルーラーが支配出来る属性エネルギーも増加していく。これによって、ルーラーはさらなる属性エネルギーを吸収する。これが本筋。ルーラーにとっては、あくまでも活動エネルギーを自己生産しているだけなんだよな」
「嫌な自己生産ですね。はた迷惑です」
「まあ、外野的にはそうなるよな」
「当たり前です」
「まあ、そんなわけで、ルーラー達はさらなる属性エネルギーを集め、第四形態に移行する」
「第四形態?今度はどんな姿ですか?完全な属性エネルギー体とかですか?」
「いや、その逆だ」
「逆?」
「第四形態のルーラー達の状態は、属性エネルギーを高密度・超圧縮した結晶構造体だ」
「なぜですか?」
「ルーラー達が第三形態で半属性エネルギー体になっていたのは、ただたんに属性エネルギーの呼び水としてだからだ。自身を第四形態にまで高めるだけの属性エネルギーを獲得出来れば、本来の自分達の身体に構造を戻すのは、ある意味当然だろう」
「…まあ、そうかもしれませんね。それで、ルーラー達は第四形態になると、どんな行動をとるのですか?」
「ルーラー達が第四形態になると、ルーラー達は一定期間毎に、アライメントインパクトを起こすようになる」
「アライメントインパクト?」
「直訳通り、属性の衝撃だ。今までの形態変化で溜め込んだ属性エネルギーをある程度まとめて周囲に解放し、周囲一帯を薙ぎ払う衝撃を発生させる」
「それは何のためにですか?」
「新たなルーラー達を旅立たせる為だ。第四形態になったルーラー達は、その結晶構造内で第一形態のルーラー達を大量に構築していく。そしてアライメントインパクトを起こし、その時発生した衝撃に載せて、第一形態のルーラー達を広範囲に散布するんだ」
「…それはつまり、特定の植物がやる種蒔きみたいな感じですか?」
「ああ。第一形態のルーラーという種を、広範囲に蒔く為の行動だ。蒔かれたルーラー達は、やがて各地で覚醒して今まで説明した行動を繰り返す。これがルーラー達の生態だ」
「…ルーラーの生態は理解しました。たしかにこの生態は、アビスよりも私(この世界)の脅威となりますね。…それで、残ったルーラーの第四形態は種を蒔いた後はどうなるのですか?」
「通常は、貯蔵していた属性エネルギーを使い切れば、第一形態の状態に戻るな」
「……通常は?」
「ああ。だが俺の記憶にある設定では、そのサイクルから外れた第五形態なんかもあるらしい」
「…第五形態。それはどんなのですか?」
「ええっとだな、……第二形態で共生した相手の姿を移し取った感じだな」
「かつての共生相手の姿をですか?それはなぜです?」
「ええっと、それはだな……。生物の生態を模倣する為らしい」
俺はプロテクトが外れた知識を漁り、彼女にそう答えた。
「生物の生態を模倣?何の為にです?先程までの話しですと、ルーラー達の生態サイクルは確立していたでしょう?」
「まあ、第五形態に変化すること自体がイレギュラーらしいからな。あえていうなら、繁殖よりも自立行動を選んだ変わり種ということらしい」
「…変わり種…。私(この世界)のどの種族にも、亜種や変異種はいるものですが、異世界存在にもいるのですね」
「そうらしいな」
「…一応聞いておきたいのですが、その第五形態以降のルーラーは、第四形態よりも危険になったりしますか?」
「貴女(世界)に対する危険度はそうでもないな」
「そう、ですか。よかった」
「その代わり…」
「えっ?」
「人類種達への危険度は増し増しだな」
「増し増しですか?」
「ああ。第五形態となったルーラーは、第一形態ではなく自分と同型のルーラーを生み出し、やがて群れを形成する。そうした後は、群れで行動していく。集団で属性エネルギーを吸収し、外敵も集団で排除していく。さらには生物の生態を模倣している為、形態変化ではなくて個体で進化までするようになる。環境へ与える害は少ないが、生物とは衝突しやすくなるな。もちろん知性が宿る場合もあるから、共生出来る場合もあるが」
「私としては、出来ればおとなしくしていてもらいたいですね」
「だろうな。だがまあ、最初に被害に遭うのは、堕悪ドワーフ達だろうから、その点は喜んだらどうだ?」
「それはたしかに朗報ですが、ルーラーの生態を聞いた後ですと、あまり安心もしていられません」
「まあ、そうだな。それなら少し急ぐとしようか」
俺はまた分体を生み出した。そして、ドラッヘ達との交渉はその分体で行うことにした。
俺はマップの有効範囲を一気に拡大し、堕悪ドワーフやルーラー達の反応を捜した。
「見つけた」
すると、荒野のある地点の地下で複数の反応を見つけた。
「それじゃあ、狩りの始まりだ」
俺はエレンとアビスクイーンを連れ、反応のあった場所を目指して移動を開始した。




