アルマVSユリウス
観客達はユリウスの独壇場に大いに沸きあがっていた。
「すげえっ! やっぱりユリウスさんは王国最強だよ!」
「ああ、あの魔法使い何も出来てないじゃないか」
「これは圧倒的だな。流石ユリウスさんだよ」
ユリウスが城内の闘技場で魔法勝負を行うのは数年振りだったことも相まって、観客達の興奮はピークに達していた。
それはアマデウス王も例外ではない。
「アルマには少し申し訳ないことをしてしまったな。相手がユリウスというのは酷すぎたかもしれん」
「あの場でアマデウス王の誘いを断るあの者が悪いのです」
アマデウスの王の側近はそう答える。
「そう言うな。アルマもまだ15歳だ。分からないことなどいくらでもある」
「はっ、失礼いたしました」
「しかし、このような魔法勝負を見たのは初めてだな。ユリウスの奴、もしや本気で戦っているのではないか?」
「どうでしょう……。ユリウス様の実力は計り知れませんから」
「もう少し手加減してやっても良いだろうに」
その近くでルナは拳をぎゅっ、と握っていた。
(アルマ……頑張って)
底の知れない実力を持つアルマだが、流石に今回ばかりは厳しいのではないかとルナは思っていた。
それほどユリウスの経歴は凄まじいものなのである。
15歳で《賢者》のギフトを授かり、王立ヴィルヘミナ学園に入学し、わずか1年の間に卒業。
最年少で宮廷魔術師となり、数々の偉業を成し遂げ、大賢者の称号を授かる。
そんな相手とアルマは戦っている。
ルナは両手を合わせて、アルマの勝利をただ願うことしか出来なかった。
しかし、二人の魔法勝負が長引くにつれて、観客の様子は次第に変化していった。
「な、なぁ……ユリウスの相手……もしかしてとんでもない奴なんじゃないか?」
「ど、どうなんだろうなぁ……。少なくとも俺には無理だぜ……」
「お、俺もだよ……」
そんな声があがってくる。
勝負はすぐに決着すると皆が思っていたのだ。
だが、勝負はいつまで経っても終わらない。
ユリウスが優勢のように見えるものの、アルマを倒す決定打はない。
どんな魔法もアルマがいなしていた。
この場で魔法勝負を見学していた魔法使いは驚愕を隠せていなかった。
「バカな……あれで15歳だと……!?」
「……ありえないだろ。さっきから使っている魔法は全て高難易度のものだぜ。ギフトを貰ったばかりの奴に使いこなせるわけない……」
「……いや、今までにそんな奴が一人だけいた」
「ユリウスさんか……」
魔法使い達はアルマをユリウスと同等の才能を持つ者だと認識し始めていた。
◇
「ここまでとは……驚いたよ」
ユリウスは言った。
言葉とは裏腹にその表情には笑みを浮かべていた。
今、ユリウスには俺が実力の拮抗した好敵手のように見えているのだろうか。
「僕だって負ける訳にはいきませんから」
「ふふ、涼しい顔をしてよく言うよ。やはりアルマ君になら本気を出しても大丈夫そうだね。──【氷獄世界】」
闘技場内に冷気が満ちる。
地面、壁が凍り、白い靄が漂う。
気温が急激に低下している。
環境魔法か。
これはユリウスが独自で編み出した固有魔法だろう。
魔法使いにとって環境は魔法のクオリティにとても左右する。
何故なら魔法とは、事象を魔力によって引き起こすものだからだ。
自身の得意魔法と環境の相性が良ければ、魔法のクオリティは爆発的に上昇する。
「【氷塊嵐】」
闘技場内に吹雪が発生。
ユリウスは浮かび上がった。
そしてユリウスを中心に大きな氷塊が周囲を飛び舞う。
吹雪、氷塊、どちらも厄介であり、並の使い手ならばこの空間にいることすら出来ないだろう。
「【灼熱】」
俺の周囲を炎が吹き荒れた。
ジュウ……と音がして、凍っていた地面は溶けていく。
──が、すぐにまた凍り付く。
【灼熱】も同じようにこの氷の世界に吞み込まれ、消滅した。
「アルマ君、無駄だよ。ここでは全てが凍り付く。しかし、それでもアルマ君は凍らないでいるだなんて流石だね」
なるほど、凄い固有魔法だ。
水平方向から巨大な氷塊が飛んでくる。
周囲を見ると、他にも巨大な氷塊が飛び回っていて、俺目掛けて飛んできていた。
観客席を見ると、結界までもが凍り付いていた。
白で覆われ、不透明になった結界では観客席の様子を見ることが出来ない。
つまり、観客席側もこちらの様子を見ることは出来ない。
これはこちらとしては好都合だ。
勝負を決めにいくとしよう。
この環境、俺にとって良いこと尽くしだ。
──【夢幻氷刻】。
俺もユリウスと同様、固有魔法を発動させた。
飛んでいた氷塊の動きが止まった。
それだけではない。
宙に浮かんでいたユリウスまでもが止まっている。
【夢幻氷刻】は、時の流れを凍らせ、時間を止める能力。
ただし、これは結界内だけだ。
闘技場の外の時間まで止めることは出来ない。
【夢幻氷刻】の使用をやめた後、時間は急速に流れる。
それによって、周囲との辻褄を合わせる仕組みになっている。
そして、この間に勝負を決める。
「【テレポート】」
ユリウスのもとへ転移する。
「【虚の闇】」
闇魔法で彼の意識を刈り取る。
そして、【夢幻氷刻】を解除。
時間が動き出すと、白くなっていた結界は徐々に透明さを取り戻していく。
宙に浮かんでいたユリウスは意識を失って、落下していく。
地面に落ちる直前に風魔法でクッションを作り、寝かせる。
ふぅ……これで決着だ。
「お、おい! マジかよ! ユリウスさんが倒れてるぞ!?」
「う、嘘だろ!?」
「一体何が起こってんだよ!」
俺は審判席の前まで歩いて行き、尋ねる。
「審判、これは僕の勝利になりますか?」
「……しょ、勝者アルマ!」
審判の震えた声が響き渡った。
観客席のルナを見て、俺は親指を立てた。
すると、ルナは安心したように微笑んだ。
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