王国最強の魔法使い
部屋の中央には今までの城内と同じように、赤い絨毯が敷かれていた。
その横には鎧を着た兵士たちが並んでいる。
赤い絨毯の先には階段があり、その上に玉座につく王様の姿があった。
白い髭を生やした白髪の王様。
頭には金色に輝く王冠。
これがファーミリア王国のアマデウス王か……。
俺とルナは大勢の視線を浴びながら、赤い絨毯の上を歩き、王のもとで立ち止まった。
「遠路はるばるよく来てくれた。二人の話は既にエドワード卿から聞いておる。アルマはとんでもない魔法の持ち主で数々の魔物を使役しているそうじゃないか」
アマデウス王の話し方には威厳が感じられた。
「いえ、そんなことはありませんよ」
「まあそう謙遜するな。魔法使いとしての実力もなかなかのものだと聞いておるぞ」
まさかこんなに褒められることになるとは……。
謙遜はあまりしない方が良さそうだし、ここは感謝しておくのが無難かな?
「高く評価して頂けていること大変光栄に思います」
「うむ。ルナも《賢者》のギフトを授かっているそうじゃないか」
「……ありがとうございます」
ルナはそう言って、頭を下げた。
「将来、この国を担うような人材が二人もフランドル領にいるとはあっぱれだ。しかし、それが勿体なくも思う。王都ヴィルヘミアに引っ越してきて、王立ヴィルヘミナ魔法学園に通うのはどうだ? 好待遇で二人を迎え入れることを約束しよう」
王立ヴィルヘミナ魔法学園は、世界的にも有名でヴィルヘミア城に併設して建てられている。
城のような建物で在席する生徒は優れた魔法の才能を持つ貴族がほとんどらしい。
王立魔法学園の入学──。
入学して良い成績を残せば、ファーミリア王国の中でも良い地位の役職に就ける可能性は高いだろう。
そうすれば実家を追放された俺の目標の一つであった『実家を見返す』ことが達成できるだろう。
……でも、アマデウス王の提案に何も惹かれなかった。
思えば俺は魔法を既に極めていると言ってもいいぐらいの実力だ。
フランドル領で領地を発展させながらのんびりと暮らしていく方が楽しそうに思える。
それに……フランドル領の人々はとても温かい人ばかりだ。
見捨てて王都で暮らすなんて出来ない。
隣を見ると、ルナは不安そうな表情で俺を見つめていた。
心配するな。
俺はフランドル領を見捨てるような真似は絶対にしないさ。
「アマデウス王、申し訳ございませんが、その提案はお受けすることは出来ません」
「なんだって……!?」
「まさか断るのか……!?」
俺の発言に騎士達は驚いていた。
「ふむ。理由を聞かせてもらってもよいかな?」
「理由は単純で僕がフランドル領を気に入っているからです」
「ほう。たったそれだけの理由で我の誘いを断ると?」
「はい」
「なるほど、ではルナはどうだ?」
「私もお断りします」
「何故だ?」
「私はアルマの婚約者なので、傍で支えたいと思っています」
……へ?
こ、婚約者って、あの婚約者か……?
いつの間にルナと俺は婚約していたんだ!?
この場を乗り切るために口から出任せを言っているようだった。
アマデウス王は高らかに笑い出した。
「くっくっく、面白い。──ならばアルマ、実力を示してみせよ。ファーミリア王国の大賢者ユリウスと魔法勝負をしてもらおう。我の誘いを断るということは、既にアルマの実力が王国屈指のものでなければならない。ユリウスに負けたとき、我の誘いをアルマとルナ、二人ともに受け入れてもらおう」
……なるほど、つまりは優秀な人材は王都に置いておきたいということだ。
大賢者ユリウスは全ての魔法使いの中でもトップに君臨する実力者だ。
ファーミリア王国だけで考えれば王国最強の魔法使いだろう。
帝国にいた俺でも知っている有名人、それが大賢者ユリウスだ。
そんな彼と魔法勝負をして、勝たなければならないなんて無理難題にも程がある。
それにこれが王様の命令なら断るわけにもいかない。
つまり、これは王様の誘いではなく、『王都にいろ』という命令なのだ。
やれやれ、まさかこんな短期間で二回も実力者と戦うことになるとは思いもしなかったな。
「……分かりました。僕の我儘を聞いて頂き、ありがとうございます」
「うむ。条件を呑んでくれたこと嬉しく思うぞ」
アマデウス王の横に立っていた金髪の男性は俺の前まで歩いて、
「よろしく頼むよ。アルア君」
優雅に微笑んだ。
彼こそがファーミリア王国の大賢者ユリウス。
長身で金髪。
街を歩けば、女性の誰もが振り向くような色男だった。
「……よろしくお願いします」
「ふふ。楽しみにしているよ」
それから場所は移り、城内にある魔法闘技場へ。
壁は魔法に耐性のある
魔法闘技場の周囲には結界が張られていた。
魔法闘技場の外に併設されている観客席に魔法が漏れないように配慮がされているようだ。
観客席には想像よりも大勢の人で埋められていた。
城に勤める内部の人間が集まっていた。
ユリウスと俺が戦うところを見たい訳ではなく、ユリウスの戦う姿を見たいというのが観客達の本音だろう。
それぐらいユリウスの人気は高いと見た。
そして観客席の中には豪華な席があり、そこにはもちろんアマデウス王が座っていた。
その近くにルナの姿も見えた。
ルナと目が合った。
(頑張って)
ルナは大きく口を動かした。
俺は微笑んで、軽く手をあげて答えた。
それから審判が観客席の最前列に設けられた審判席に座った。
審判はそこで魔法勝負のルールを説明した。
闘技場の外に出たら失格。
武器の使用は禁止。
勝利条件は相手にギブアップさせるか、戦闘不能にすること。
だだし、相手を死なせてはいけない。
これらがルールになる。
戦闘不能にしなくてはならないのに、死なせてはいけないなんてなかなか難しいルールにしたものだ。
「──正直、アルマ君は私と同等の実力を持っているんじゃないかと思っているんだ」
一通りルールを聞いた後、闘技場の中央でユリウスは言った。
……まさか、彼の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかったな。
王国最強と謳われている魔法使いが15歳の少年に対して、そんなことを思うなんてとんでもないことだ。
少なからずユリウスは俺の実力を感じ取っているようだった。
「そんなご謙遜なさらずに」
「ふふふ……。上手く魔力を隠しているみたいだけど、私には無駄だよ。よくその歳でそんな領域に辿り着けたものだ」
「まさか本気で言ってるんですか?」
「もちろん。15歳相手に大人げないとは思うが、この魔法勝負、本気を出させてもらうよ」
俺の実力をかなりの高精度で把握しているようだった。
「王国最強の魔法使いに本気を出されたら誰も勝てませんよ」
「私の役目はアルマ君に勝つことだから仕方ないね」
微塵も俺を侮ってはいない様子だ。
「僕もユリウスさんに負けるつもりはありません」
これが王国最強の魔法使い。
こちらも全力で挑まなければ足元を救われるな。
俺はユリウスに【鑑定】を使い、実力を正確に把握する。
[ 名 前 ] ユリウス
[ レベル ] 1500
[ 魔 力 ] 12000
[ 攻撃力 ] 3000
[ 防御力 ] 2800
[ 持久力 ] 2500
[ 俊敏力 ] 3000
これが王国最強の魔法使いか……。
フェンリルと同等……いや、それ以上の実力者だ。
しかし、それはステータス上での話。
魔法の熟練度によってはフェンリルよりも強い可能性がある。
そして、その可能性は高いと俺は見ている。
「両者、準備はよろしいですか?」
審判の発言に俺とユリウスは二つ返事をした。
「それでは魔法勝負を始めてください」
「【氷の槍】」
魔法勝負が開始した瞬間、ユリウスは雷魔法を発動した。
先端が鋭く尖った氷が飛んできた。
【氷の槍】は詠唱を速く済ませることが出来る。
そして威力は熟練度によって変動する。
氷を纏う魔力を見れば、並の魔法では【氷の槍】を防ぐことすら出来ないだろう。
「【炎の槍】」
俺は同系統の魔法で対抗する。
【氷の槍】は【炎の槍】に衝突すると、小さな爆発音が発生した。
「へぇ、やっぱり只者じゃないみたいだね」
「今の一撃で俺を試したわけですか」
「ご名答。既にアルマ君の実力はもう疑いようがないね。ただ、私としては当時の自分よりも優れているのか試したくなった──【氷の槍】【氷の槍】【氷の槍】」
ユリウスは【氷の槍】を何度も高速で詠唱した。
四方八方から飛んでくる。
俺は無詠唱で【炎の槍】を放つ。
ユリウスを上回る量の【炎の槍】だ。
それを見たユリウスはニヤリと笑った。
そして、またユリウスも無詠唱で【氷の槍】を放った。
キラキラとした霧が辺りに舞った。
「凄いな……無詠唱を使えるとは恐れ入ったよ。昔の私以上だ」
ユリウスが言った。
「そんなことないですよ」
「ふふ、謙遜はやめたまえ。一体どれぐらい強いんだろうね。アルマ君の本当の実力──これから見せてもらうよ」
ユリウスは本気を出すとは言っていたが、まだまだ全力じゃないのは明らかだった。
それは俺の実力がどれだけかを把握するためだろう。
俺に勝つことは当たり前で、そのうえでどれだけ俺の情報を集められるか。
さっきまでの魔法の撃ち合いを思い返すと、そうとしか考えられない。
俺としては出来れば圧倒的実力でユリウスに勝ったという展開にはしたくない。
なんとか隙をついて勝ったようにしたいのだ。
圧倒的すぎる実力を見せれば、ファーミリア王国から危険視される可能性があるからだ。
ユリウスにラッキーで勝つ……いや、実力が拮抗していてなんとか勝つぐらいならば、その危険性はかなり下がると考えている。
これからユリウスは俺の実力を把握するべく、まだしばらくの間全力を出すことはないだろう。
茶番になってしまうが、付き合うとしよう。
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