視察の結果
エドワード卿に魔物に関する説明をした後にラウルが領内を駆け、厩舎に向かった。
本日手伝ってもらう予定だった15体の魔物達は厩舎に隠れてもらっていたのだ。
本当は手伝ってもらう魔物の数も多くしたいところなのだが、魔物の運用はフランドル領でもまだ実験的に始めている段階のため、これ以上は完全に管理出来ない。
問題が起こらないと領民達にも作業していく中で判断してもらってから、少しずつ手伝ってもらう魔物の数も増えていく予定だ。
そして、厩舎に隠れていた魔物達は各々の現場に向かい、作業を開始した。
「それでは農作業を手伝う魔物からご覧になって頂きましょうか」
エリックさんは言った。
領地の案内はエリックさんが務める。
一応俺も万が一のときのために付き添うことになっている。
「うむ。よろしく頼むぞ」
屋敷を出て畑に向かうと、人と魔物がせっせと農作物の収穫に励んでいた。
目の前の畑ではコボルトがニンジンの収穫をしていた。
「本当に魔物が働いておるな。収穫している作物を食べたりはしないのか?」
「ええ。労働後にちゃんと餌を与えているので、労働中はちゃんとつまみ食いをしないでくれていますね」
「ふむ……賢いな……む? この時期はニンジンを収穫する時期ではないと思うのだが」
本来、ニンジンはもう少し後の時期で収穫する。
だが、畑の品質を無理矢理上げたため、3日で収穫できるようになっているのだ。
「よくご存知ですね。しかし、我が領地では3日で収穫できるほど成長速度が速いのです」
「3日だと!? それはもう速いなんてレベルではないだろう! 異常だ異常!」
「収穫したニンジンを食べてみますか? 美味しいですよ」
「……君、食べてみなさい」
エドワード卿は俺に向かってそう言った。
……これは毒味役ということかな?
まぁ別に構わないんだけども。
「分かりました」
収穫したニンジンを洗い、カプッとひとかじりする。
シャキシャキとした食感で味も美味い。
「どうだ?」
エドワード卿が俺に尋ねた。
「美味しいです」
「そうか。ではそれをよこしなさい」
「どうぞ」
エドワード卿はニンジンをもらうと、側面にかぶりついた。
俺は先端にかぶりついたため、食べた部分は被っていない。
シャキシャキ!
「ふむ……確かにこれは美味いな」
「ありがとうございます!」
「……さて、それでは他の作業現場も見せてもらおうか。他の野菜も味見せなばならんからな。ハッハッハ!」
上機嫌になったエドワード卿は豪快に笑った。
そして、上機嫌のままエドワード卿は領内を視察してくれたのだった。
◇
その晩は屋敷の客室でエドワード卿と護衛のセドリックは泊まっていった。
そして翌日、エドワード卿からフランドル領の評価が下された。
「フランドル領は実にいい領地だ。畑の作物については他の領地でも収穫するようにさせてもらおう。魔物についても現状では問題がないと判断しよう。今後、問題が浮き彫りになった際には直ちに魔物の討伐を要請するように。評価は以上だ」
……なんとか無事に魔物について問題にならずに済んだな。
これで一安心だ。
「しかし、魔物は一体誰が用意したのだ? このような取り組みを領主自らが行うのは到底思えないのだが」
「その通りです。魔物に関する仕事を全部引き受けてくれたのは、先日フランドル領までの案内役を務めたアルマですね」
エリックさんはそう言った。
「ほう。君がこの魔物達を用意したのか」
「ええ、そうですね」
「どうやったのだ?」
「フランドル領に来るまでの道中に大きな森があったのを覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、勿論だ」
「その森に住む魔物を全て使役したんです」
「……そんなことが出来るのか?」
エドワード卿はセドリックの方を向いた・。
「分かりません……。ただ、そのようなことが出来るのならばかなりの実力者なのではないでしょうか?」
「ふむ、どうなのだ?」
様子を伺うようにエドワード卿は俺に問う。
「ある程度の実力はあると思いますよ」
「では試させてもらってもいいですか?」
セドリックが言った。
「ふむ、セドリックよ。試すとは模擬戦でも行うということか?」
「ええ。その通りです」
「それは面白そうだ。アルマよ、この模擬戦受けてくれるか?」
「大丈夫ですよ。模擬戦で実力を見せれば、今後領地で魔物と共存していくことを正式に認めてくれますか?」
「それは今後次第だ。模擬戦の結果がどうであれ、アルマには一度殿下と謁見してもらおうと思っておる。この模擬戦で実力を見せれば、多少は結果が左右されるかもしれないがな」
国王様と謁見か……。
やはり魔物と共存していくというのは、国王様に認めてもらわなければ難しいとエドワード卿も判断しているのだろう。
「分かりました。それでは、模擬戦をやりましょうか」
「場所は屋敷の庭を使ってもらうといいかな。ある程度広いから戦いに支障は出ないはずです」
エリックさんはそう言い、模擬戦はこの屋敷の庭で行うことになった。
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