フェルナートとフェル
さて、一気に二つ名を付与していこう。
先ほど言った多重詠唱の用途は二通りある。
一つは、今のように一種類の魔法を瞬時に何度も発動させる使い方。
そしてもう一つは、二種類以上の魔法を同時に発動させる使い方がある。
俺はもちろん前者で、一度に50回まで多重詠唱をすることが出来る。
なので、アウルベアを除いた294体は6回の詠唱で二つ名をつけ終わる。
「【付与『二つ名』──《賢い魔物》】」
一つの詠唱で50体に二つ名を付与する。
『お主……魔法を一度に多く使ったことで魔力が外部に漏れておるぞ……。それ以上、魔力が漏れるようなら魔物達が逃げ出してしまう』
フェンリルに言われて俺はハッ、とした。
集まってくれた魔物達を見てみると、怯えた様子をしていた。
「ありがとうフェンリル……。自分だとあまり気付いていなかったよ。次は魔力が漏れないように気をつけるよ」
『うむ。そうしてくれ』
フェンリルにお叱りを受けたところで、今度こそは魔力が漏れないようにしないと。
外部に漏れている理由は、魔法を瞬時に使うことによって魔力操作が雑になっていたことが考えられる。
久しぶりに多重詠唱を使ったから、あんまり上手く出来なかったな。
だが、感覚は既に取り戻した。
これだけの修正ならすぐに可能だ。
「【付与『二つ名』──《賢い魔物》】」
また同じ50体の魔物に二つ名を付与する。
魔物達の様子を見てみると、段々と落ち着きを取り戻しているようだった。
『今度は大丈夫だ。外部に漏れていない』
フェンリルからのお墨付きも頂いた。
よし、残りもサクッと終わらせて──っと。
「ふぅ、次はアウルベアだな」
『お主……よくあれだけの魔力を使って枯渇しないな』
「あーうん。魔力はかなり多い方だから枯渇することは滅多にないね」
魔法を使い始めた頃とかは無茶して、魔力が枯渇したりすることはあったけど、何十年も経つと枯渇することもなくなった。
魔力のステータス値だけを上昇するようにしたから当たり前なんだけどね。
『はははー! おかーさんが驚いておるぞー!』
『別に驚いてなどおらぬぞ』
フェンリル親子は楽しそうだ。
俺も楽しい気分になってくるな。
それでアウルベアの二つ名だが、どうしようか。
まずはステータスを【鑑定】させてもらおう。
[ 名 前 ] アウルベア
[ レベル ] 35
[ 魔 力 ] 250
[ 攻撃力 ] 400
[ 防御力 ] 380
[ 持久力 ] 250
[ 俊敏力 ] 300
二つ名を付与した魔物よりも既に強い。
一番高いステータスは攻撃力か。
逆に低いステータスは、魔力と持久力だが、目立って低いということでもない。
全体的にバランスの良いステータスだな。
じゃあステータスの中でも高い攻撃力を伸ばすのが良いだろう。
長所を伸ばして、アウルベアの役割を確立させてやればいい。
「付与『二つ名』──《力自慢》】」
《力自慢》の二つ名は攻撃力を500上昇させる二つ名だ。
そして《賢い魔物》と同様に賢さも同じだけ上昇するので、人間の言葉を理解できるようになる。
《力自慢》を授かったアウルベアの攻撃力は900と、なかなかの数字だな。
4体のアウルベアは力を湧き上がってきたのか、両腕を上げた。
うんうん、喜んでくれたようでなによりだ。
「それじゃあ最後にフェンリル親子だな」
『一つ我から頼みがある。我らに二つ名だけでなく、名前もつけて欲しい』
『名前! 流石おかーさん! 分かっておるな!』
「名前かぁ……。うーん、ネーミングセンスとか無いから俺がつけるのもなぁ……」
『我らは気にせん。お主から名前をつけてほしいのだ』
『そうそう!』
「うーん、分かったよ。じゃあフェンリルのお母さんはフェルナート。フェンリルの息子はフェルってな感じでどうだ?」
『フェルナートか。うむ、悪くないではないか』
『われのフェルもよいではないかー! ネーミングセンスが無いとか嘘つかなくてもいいよアルマ!』
……なんか思っていたより気に入ってくれたようでホッとした。
「気に入ってくれて嬉しいよ。それじゃあ二つ名を付与していこうか」
二つ名の方は既に考えて、作成してある。
実は、二つ名は俺が考え、作成したものなのだ。
授ける二つ名の能力によって、消費する魔力の量が増えるようになっている。
二つ名も気に入ってもらえるといいな。
「【付与『二つ名』──《偉大なる巨狼》】」
フェルナートには、フェンリルという魔物に相応しい立派な二つ名を付与した。
この《偉大なる巨狼》の能力はステータスを2倍にする、というものだ。
[ 名 前 ] 《偉大なる巨狼》フェルナート
[ レベル ] 1050
[ 魔 力 ] 9000
[ 攻撃力 ] 10520
[ 防御力 ] 5640
[ 持久力 ] 9120
[ 俊敏力 ] 12200
ステータスが非常に高いフェルナートに丁度いい能力だ。
見違えるほどのステータスになった。
今のフェルナートならもう少し俺と良い勝負が出来るだろう。
……って、あれ?
名前もフェンリルじゃなくてフェルナートに変わっている。
へぇ、そういうことも出来るんだなー。
『ふっ、《偉大なる巨狼》か。これまた大層な二つ名をつけてくれたな。それに能力もかなり上がってきたように思える』
「フェルナートに相応しいものをつけてあげないと怒るかなーと思ってさ」
『そんなことぐらいで怒りはせん』
『おかーさん、よく怒るくせに』
『息子よ、黙らないと本当に怒るぞ』
『こわいぞ、おかーさん!』
「あまりお母さんを怒らせるなよ。後が怖いからな」
『う、うむ。そうなのである……』
ガクガクブルブル。
フェルは恐怖で震えていた。
怖かった記憶でも思い出したのだろうか。
まあ、そんなことよりも早く最後の二つ名を付与してしまおう。
「【付与『二つ名』──《天武の才》】」
《天武の才》はレベルアップ時のステータス上昇効果を2倍する、というものだ。
二つ名は後で変更することも出来るため、レベルが低くても既にある程度強いフェルにピッタリだ。
[ 名 前 ] 《天武の才》フェル
[ レベル ] 1
[ 魔 力 ] 150
[ 攻撃力 ] 150
[ 防御力 ] 150
[ 持久力 ] 150
[ 俊敏力 ] 150
フェルのステータスを見てみると、1レベルなのにかなり強い。
この愛くるしい見た目からは想像も出来ない強さだな。
だからこそ、これからの成長が楽しみだ。
『《天武の才》ってカッコいいぞ! ありがとうアルマ!』
「ははは、これから頑張ってお母さんみたいに強くなってね」
『ふははは、もちろんだ!』
よしよし、これで魔物の二つ名の付与は終わったな。
そう思ったとき、俺はふらっ、とよろけてしまった。
……あ、あれ?
目眩がする。
これは魔力が枯渇したときの症状だ。
魔力を回復せずにこんなに魔法を使うべきじゃなかったな。
平和ボケして気が抜けていたか……。
そして俺の視界は暗くなり、意識を失った。
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