36話 フェンリルとの戦闘
【重要なお知らせ】
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景色が一変した。
木陰で視界が少しだけ暗くなり、畑のにおいから森のにおいに変わった。
さて、フェンリルを探そう。
「【サーチモンスター】」
【サーチモンスター】は索敵魔法の1種で特定の魔物の居場所を見つけ出すことが出来る。
これは以前使用した【サーチアイ】の同系統の魔法だ。
【サーチモンスター】も同様に周囲の視覚情報を得ることが出来る。
だが、森の中では視覚情報を得ても場所を特定しづらい。
なので周囲のマップ上にフェンリルの居場所を表示させよう。
索敵対象をフェンリルにして……っと。
マップ上にフェンリルの居場所が赤い点で表示された。
ここは洞窟の中になっているな。
そうか、フェンリルは洞窟を住処にしていたわけか。
「【テレポート】」
俺は【テレポート】を使用して、フェンリルのもとへ移動した。
空間魔法と索敵魔法はこういう使い方も出来たりするから非常に相性が良い。
『お主、どこからやってきおった……』
移動すると、フェンリル親子は肉にかぶりついていた。
どうやら食事中だったようだ。
「ちょっとフェンリルに用事があってさ」
『おー! アルマー!』
フェンリルの子供は食事をやめて、俺に飛びついてきた。
俺はそれを受け止めて、抱っこする。
モフモフだ!
やっぱりかわいいなぁ!
「約束通り遊びにきたよ」
『やったー!』
『ふむ、めちゃくちゃに懐いておるな。しかし、お主が森に入っていたとは我でも気付かなかったぞ』
「短時間で【テレポート】を二回使ったからね」
【テレポート】も【サーチモンスター】も対象の距離が遠くなればなるほど、魔力の消費が激しくなる。
このように何回かに分けて使った方が魔力の節約になるってわけだ。
『【テレポート】か。本当にお主は色んな魔法が使えるな』
「それほどでもないよ。悪いけど、早速本題に移らせてもらってもいいかな?」
『構わんぞ』
「──この森、俺の支配下に置かせてもらってもいいかな?」
森の魔物を従わせて、フランドル領で働いてもらうのなら、この森全てを俺の支配下に置いてしまうのが一番手っ取り早い。
そうすれば、フェンリルも使役することが出来るようになる。
フェンリルの子供とロックが仲良く遊ぶ未来も遠くないな。
『なかなか好戦的な話だな。お主、我を甘くみておるのか?』
「フェンリルには一つ俺に借りがあるだろ? それを今回、返してもらえたらなーとか思ったり」
フェンリルの息子に会っただけなんだけどね。
でも、それで快く承諾してくれたらかなり楽だ。
『ふっ、それは随分と大きな借りだな。……まぁよかろう。しかし、条件がある』
「条件?」
『我と戦って勝てば、この森の主の座はお主に渡そうではないか』
「ありがとう、フェンリル」
『礼を言うのはまだ早いだろう?』
そう言ってからすぐに、フェンリルは風を纏って突進をしてきた。
い、いきなりかよ!?
常人ならば、まず反応出来ない速度だ。
……でも、悪いな。
フェンリル、お前が相手にしているのは世界最強の魔法使いなんだ。
──自動魔法【反応魔壁】
フェンリルの突進攻撃を受ける前に、自動で全身に魔力の障壁が張り巡らされた。
それによって、俺はダメージを受けずに済んだ。
これは自動魔法【反射魔壁】の効果で、張り巡らされた魔力の障壁がダメージを無くしているのだ。
自動魔法は俺が編み出した魔法で、予め設定していた条件になると、自動で発動してくれる便利な魔法だ。
【反射魔壁】の発動条件は、自分が攻撃を受けるときだ。
更に、受けるダメージも事前に算出され、それを防ぐだけの強度を持った魔力の障壁が作成される。
だから、よっぽどのことがない限り、俺は不意打ちをくらわない。
その代わり、魔力の消費は激しいという欠点はある。
しかし、俺の魔力は文字通り桁が違う。
使用する魔力量は全体で見ると僅かだ。
それでも俺が普段から魔力を節約しようとするのは、考えなしに使う習慣をつけないためだ。
……まあ前世からの癖だな。
さて、【反射魔壁】はダメージを無にすることは出来るが、衝撃を無にすることは出来ない。
身体へのダメージを無くすための障壁なのだ。
なので、突進をもろにくらった俺は吹き飛ばされてしまった。
身体が何本もの木の幹を貫いていくが、【反射魔壁】によってダメージはゼロだ。
重力魔法を応用して、身体を大きく一回転。
そして、勢いを殺してから木の幹に着地。
『──ふむ、無傷か。やはりお主相手は一筋縄ではいかないようだな』
着地したと思えば、目の前には既にフェンリルがいた。
「さすがフェンリル。移動は速いな」
『お主、あまり調子に乗るなよ。勢い余って殺してしまうぞ』
「そのつもりで構わないよ。そうじゃないと負けを認めないかもしれないだろ?」
『クックック……面白い。ならば死んでから後悔するのだな』
突如として、俺を中心に竜巻が発生した。
大きな竜巻で、木を切り裂きながら、規模はどんどん大きくなっていく。
森の主が森を破壊するとはな……。
竜巻の中でも俺は魔力の障壁が張られているおかげでダメージは無い。
しかし、このような戦い方は本来の俺とは大きくかけ離れている。
簡単に言えば、受け身すぎるのだ。
でも、実力の差を見せつけるにはこれぐらい攻撃を貰う方が丁度いいのかもしれない。
見下しているつもりはないけどね。
これは俺にとって戦いというよりも説得という意味合いの方が強いから。
あまり長引かせると、森がとんでもないことになりそうだ。
そろそろ終わりにしようか。
竜巻の外からフェンリルが飛びかかってきた。
フェンリルは風を纏い、竜巻の影響を何一つ受けていないようだった。
進行方向を逆算すると、フェンリルは俺の喉元を噛みちぎるのが狙いのようだ。
フェンリルは本気も本気みたいだな。
一撃で戦いを決めようとしてきた。
このスピードでは詠唱が間に合わない。
無詠唱で魔法を使用する。
──【虚空】。
【虚空】は空間に発生した魔法と逆の魔法効果を持つ魔法だ。
つまり、魔法を打ち消す役割がある。
魔法には攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、……、と様々な種類が存在する。
明らかになっている魔法の種類、全てを扱えるからこそ出来る芸当だ。
【虚空】により、竜巻が消えた。
あとはフェンリルをなんとかするだけだ。
右手を前にかざす。
そして、魔法を発動する。
──【静止の波動】。
フェンリルの毛が逆立ち、宙に浮いたまま動きが止まった。
『……恐ろしい男だ。我が本気で挑んでも尚、底が見えぬとはな』
「これで俺が勝ったってことにするのはどう?」
『それでよい。これからはお主がこの森の主だ』
「森の主はこれまで通りフェンリルがやってくれないかな。俺がしたいことは森の魔物に手伝ってもらったりするぐらいだから。もちろん酷いこととかはさせるつもりはないしさ」
『それならそうと先に言わんかいっ!』
「た、確かに……説明が足りていなかったような気もするなぁ」
でも、これで一件落着かな。
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