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35話 【複製】

 コリンに教えてもらった畑に到着。

 エリックさんは帽子を被りながら、カブを収穫していた。


「お疲れ様です。エリックさん」

「お、アルマくん。いやぁ、凄いね! こんなにすぐ成長しちゃうなんて思わなかったよ!」


 エリックさんは嬉しそうにカブを引っこ抜いて、尻もちをついた。


「これで種を植えてから約3日で収穫出来るようになりますよ」

「み、みっかぁ!?」

「これで食糧の心配も無くなりましたし、労働力が欲しいところですよね」

「そうだね……。うん、アルマくんに魔物牧場の建設を頼もうか」

「ありがとうございます! 任せてください!」


 よし、これでかなりの労働力を確保できるぞ!

 森の魔物を従魔にする前に、森の主であるフェンリルに話を通しておかないとな。

 ……あ、いけない。

 俺は立ち去ろうとしたところで、エリックさんに渡すものを思い出した。


「エリックさん、次に植えて欲しい作物のタネをお渡ししてもいいですか?」

「ん? いいよ。でも麻袋とかに入れておきたいから、あの小屋まで移動しようか」


 そして木造の小屋に移動した。

 小屋には農具が置かれている。

 作物のタネも麻袋に入れて保管されていた。

 麻袋は結構大きくて、タネを大量に収納できそうだ。


「この麻袋にタネを入れておいてもらえるかい?」


 そう言って、エリックさんは空の麻袋を渡してきた。


「分かりました。あ、何種類かタネがあるので、種類ごとに分けましょうか」

「それは助かるよ。……あ、今は空っぽの麻袋が無いな」


 現在、他の麻袋に入っている作物のタネはもう使うことがないだろうけど、そのタネ全部出しましょう、なんて言えるはずもない。

 んー、麻袋が無いなら作るしかないか。


「すみません、ちょっとこの麻袋借りますね」

「そうだね。とりあえず今入れられる分だけ収納しておこうか」

「いえ、一気に全て収納しますよ──【複製】」


 白色の淡い光が麻袋を覆った。


「え、ええっ!?」


 何もない空間にも光が伝播した。

 淡い光は麻袋の形に変化し、濃さを増していく。

 光が消えると、そこには2つの空っぽの麻袋があった。


「えーっと種類はたまねぎ、キャベツ、トマト、じゃがいも、大根、ニンジン、とりあえずこの6種類だから、あと4つ麻袋を作ればいいのか」

「あ、アルマくん……。君はこんなことまで出来るのかい?」

「まぁこれぐらいなら……一応魔法使いなので」

「そんな魔法使い見たことないよ! でもアルマくんがいれば、本当にこの領地は急速に発展を遂げていくかもしれないなぁ。はは、なんだかとても楽しみになってきたよ!」

「勿論です。すぐに立派な領地にしてみせますよ」


 この領地が帝国にまで知れ渡るレベルで大きくなれば、かなり実家を見返すことが出来るな。

 父上達の悔しそうな表情が目に浮かぶ。

 実物を見られないのが残念だ。


「頼りにしているよ」

「はい、任せてください!」


 返事をしながら、俺は【複製】で残り4つの麻袋の作成に取り掛かる。

 この【複製】は麻袋の中身まで同じものを作れてしまうため、わざわざ空っぽの麻袋に使っていかなければならない。

 便利な魔法だが、品質が中以上ものになってくると使用出来ない。

 今回は麻袋、中身のカブのタネの品質が低なので、一緒に【複製】出来てしまうというわけだ。

 空っぽのものにしか使えないため、一気に4つは作れない。

 2つに【複製】を使い、4つに。

 4つに【複製】を使い、8つに。

 必要なのは6つだけど、2つは予備に取っておけばいいだろう。


「す、すごい! この短時間で8つの麻袋を作ってしまうなんて……!」


 ……何かするたびに褒められるのもなかなか慣れないもんだな。


「さくっとタネを入れておきますね」

「助かるよ。……でも、どこにタネを持っているんだい?」

「魔法で収納してあるんですよ。今取り出しますね──【アイテムボックス】」


 アイテム名が羅列された透明の板が出てきた。


「ほ、ほう?」


 この透明の板は、俺以外にみることが出来ないので、エリックさんは不思議そうに俺を見ている。

 透明の板を操作して、お目当てのタネを見つけた。


 [豊穣神のたまねきのタネ]

 [豊穣神のキャベツのタネ]

 [豊穣神のトマトのタネ]

 [豊穣神のじゃがいものタネ]

 [豊穣神の大根のタネ]

 [豊穣神のニンジンのタネ]


 これらを1000個ずつ取り出して、麻袋の中にそれぞれ収納した。

 分からなくなると、不便なので麻袋に収納してあるタネを表記しておこう。

 指先に魔力を集中させ、魔力痕を残す。

 たまねぎ、キャベツ、……、という風に麻袋に明るい青色で記しておいた。

 魔力の色は属性を重ねることによって変えることが出来る。

 見やすいように色は、麻袋の色と反対色にした。


「よし、これで大丈夫ですね」

「うんうん。ありがとう。もうアルマくんのやることなすことにいちいち驚いていてはキリがないなって気づいたよ」

「ははは……そうかもしれないですね」


 否定は出来なかった。


「それじゃあ、これはまた収穫が終わったら植えさせてもらうよ」

「よろしくお願いします! それじゃあ僕は、魔物の方をなんとかしておきますね」

「うん。よろしく頼むよ」


 よし、これでエリックさんの許可はもらった。

 あとは……あの森の主を何とかするだけだな。

 人目のないところに移動して、【テレポート】を使用した。

 行先はフェンリルの住む森だ。


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