28話 賢くなった魔物を披露
翌日。
俺は魔物の小屋の前にルナの両親であるエリックさんとメイベルさん、そして領民達を呼んだ。
ラウル、ルナ、サーニャも一緒に見学している。
みんなの前に俺が立つと、自然に視線が集まった。
俺の後ろにはウルフとボアが行儀よくお座りをしている。
「早速ですが、本題から入らせてもらいます。これから皆さんのお仕事をこの魔物達にお手伝いしてもらおうと考えています」
そう言うと、領民達がざわついた。
想定通りの反応だ。
「農作業や開拓作業は結構な力仕事です。人手はいくらあっても困らないはずです。しかし、魔物に手伝ってもらうのは危険なんじゃないのか? と、皆さんが思うのは百も承知です。なので今日は、僕が従えた魔物がとても利口であることを皆さんにお見せしたくて集まってもらいました」
「おいおい、新しく領地にやって来た分際で調子に乗ってんじゃねーぞ!」
俺の物言いを快く思わない人が出てくることも想定内だ。
俺は農作業も開拓作業も何一つやっていない。
領地にやってきたのもつい先日なうえに、いきなり小屋なんか建てている。
不快に思われても仕方ないのだ。
今の俺はマイナスの意味で注目されている。
だが、それは裏を返せばチャンスであることを意味している。
俺という存在が領地にとってかなり有益であることを示せば評価は逆転するだろう。
「そうだそうだ! お前のせいで誰かが怪我をしたらどうしてくれるんだ!」
「回復薬や回復魔法なんてのは高価なんだぞ!」
ほう。
これは良い機会だな。
回復魔法を使えることをみんなに見せれば、説得しやすくなる。
「回復魔法なら使えますよ」
「なっ……! ハッタリ言ってんじゃねぇ!」
「では実演しましょう。誰かこの中に負傷している人はいませんか?」
「……あ、はい。俺、開拓作業中に右腕を骨折しました」
「ちょっと前に出て来てもらっても良いですか?」
そう言うと、手を上げた青年がみんなの前に出てきてくれた。
「な、なぁ……アンタ本当に回復魔法を使えるのかよ」
「それに関しては安心してくれ。俺は実際にアルマから回復魔法をかけてもらったことがあるからな」
話を割り込むようにラウルが自慢げに言った。
「アンタもよそものだろ」
「ぐぬぬ……!」
ラウルは何も言い返せなくなって悔しそうに歯を噛み締めていた。
「ま、まぁすぐにその右腕を治しますから」
「ほんとかよ……」
「エアリ」
俺は回復魔法の【エアリ】を使用した。
「……え? い、痛みがおさまったぞ!?」
青年はそのまま固定していた包帯を取って、ゆっくりと右腕を動かした。
「な、治ってる! す、すげえ! 本当に治ってるぞ! アンタ、疑って悪かった! 治してくれてありがとよ!」
「いえいえ、どういたしまして。僕も回復魔法を実演できて助かりました」
「ま、マジかよ……本当に使えるのかよ」
「で、でもこれで怪我しても心配いらなくなったんじゃねえか?」
「確かにそうだな……! 魔物が2匹でも手伝ってくれるのは大助かりだ……!」
お、回復魔法を見せただけでかなり反応が変わったな。
やっぱりみんな怪我が怖いんだろう。
「みんな待ちなさい。判断を決めるのは魔物が利口であることを見せてもらってからでも遅くないだろう」
領主であるエリックさんがみんなを静めた。
「ではアルマくん、成長した魔物の姿を実際に見せてもらえるかな? ……僕的には、アルマくんの後ろで魔物がじっとお座りをしているところを見ただけで満足ではあるんだけど」
「ははは、ありがとうございます。これぐらいは仕込めば、どうにでもなります。仕事を手伝ってもらうには人間の言語を完璧に理解していることを証明しなくてはなりません。今からこの魔物達に指示をしてみますので、それを見てからご判断ください。──ウルフ、ボア、あそこにある木材を持ってきてくれ」
「ガル!」
「ボワ!」
俺が指をむけたところには、事前に用意していた木材が置かれている。
木材の大きさは口でくわえられるような大きさではないため、これを運ぶには賢くなければならない。
ウルフとボアは木材に向かって一直線で走って行く。
そして、器用に身体を使い、背中に木材を乗せた。
「「「おおー!!」」」
領民達は感心した様子だ。
ウルフとボアは木材を俺のもとまで運んできて、地面におろした。
「よし、よくやったな」
「ガルゥ〜」
「ボワァ〜」
二匹の頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。
「これは凄いな……! 一つ質問があるのだけど、アルマ以外の人間の言うことも聞いてくれるのか?」
「はい。大丈夫ですよ。ある程度状況を理解して行動できるので」
「で、では……ごほんっ……ウルフ、ボア、その木材を僕のもとまで持ってきてくれ」
エリックさんがそう言うと、ウルフとボアは同じように木材を運んで行った。
「すげえ!」
「これなら仕事の手伝いも任せられそうだな!」
領民達はその光景を見て、興奮しているようだった。
「ありがとう。ウルフ、ボア」
俺と同じようにエリックさんもウルフとボアの頭を撫でてあげた。
「エリックさん、どうでしょう。魔物達に仕事を任せることを認めてくれませんか?」
「もちろんだとも! 大助かりさ!」
「では、魔物の牧場を作る件も?」
「うーん……そうだね。それは食糧的に厳しいような気もするんだよね」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。僕がとっておきの作物を用意しますから」
「……ははは、アルマくんって一体何者だい……? それで食糧問題が解決したらアルマくんは我が領地の救世主だよ……」
「ふふ、期待しておいてください!」
何者か? と聞かれて、転生者と答えるわけにもいかないよね。
これについては、さりげなくスルーさせてもらった。
そして、俺はこの一件から領民から絶大な支持を得られることになったのだった。
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