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END2「遠い人」

 次の日、部屋へやってきた王子へ「一緒に逃げよう」と告げた。


「……逃げる?」

「そう、七日後――いえ、もう六日後ね。この城が襲撃されるの。だから……一緒に逃げよう……?」

罪を告げる罪人のような気持ちだった。


「誰に襲撃されるか、聞いても良い?」

「私たち平民に。……『革命』を起こすの。王族を殺して、この国を根本的に変えるためよ。王は……恨みを買いすぎたの。私服を肥やすこと以外に目を向けるべきだったわ」

王族と言いかけてやめた。リュシアンは違うと、彼なら私たちに寄り添ってくれると思ったから。


「つまり、国民の総意?」

「最近、生活が苦しかったもの……」

彼は悲しそうに目を伏せた。あなたのせいじゃないと言おうとすると、彼は「もっと知るべきだったな」と自嘲した。


「逃げるのはいつにする? できるだけ早い方が――」

「逃げない」

「え?」

思考が止まった。彼はもう一度、はっきりと言った。


「逃げないから」

「なんでよ! ねえ! 命が、惜しくないの……!?」

「死ぬのは怖いよ。当たり前でしょ?」

「どうして……!」

「これが僕の責任だから」

当事者のはずなのに、彼はひどく落ち着いた声で「王族の暮らしって、お金がかかるんだよ」と言った。


「僕たちの役目は国を治めること。国民が健やかに暮らせるように国を作ることだ。豪華な暮らしはその対価だ」

彼は「対価を払えなければ?」と問いかけた。


「えっと……」

「なら、借金を返せなければ?」

彼は贅沢という借金の担保が自分の命であると言った。国を治めることでそれを返せないのならばそうやって支払うべきだ、と。


「暗い話になったね。今日は帰るよ。おやすみ」

彼は指で私の目元を拭った。私は「おやすみ」と消え入りそうな声で返すことしかできなかった。


 彼がもっと早く生まれてくれれば。そう思わずにはいられなかった。



「リュシアン……考え直さない?」

「やめて。……心が揺らいでしまう」

彼は泣きそうな顔を手で隠して言った。


「君は……泣かないで」

彼は俯く私の顔を掴み、上を向かせた。そして塞がれる口。彼は優しく私を抱きしめた。


「リュシアン……」

「今夜だよね? 少し我慢して」

彼を信じてじっと待つ。彼は私の腕に何かをしていた。


「何を……。って腕が……! どうして……!」

「口に布でも当てて……衣装部屋にでも入れておくか」

彼は有言実行して、私は衣装部屋に転がされた。彼は扉を閉じる寸前、「ごめん」と誰に聞かせるでもなく言った。



「ここは……誰かいるか!?」

長い時間が経った後、扉の向こうから声が聞こえた。「扉を壊すから離れてくれ」と聞こえたため転がって離れる。私を部屋から出してくれたのは父だった。窓から日差している――朝になっていた。


「お父様! ねえリュシアン――王子はどこ、どこなの!」

「辛かったな。もう大丈夫だ。遅くなってすまなかったな」

久しぶりの父はホッとしたような悲しそうな顔をしていた。手を縛っていた縄を解く間に父は状況を話してくれた。


「彼らは今――処刑されるところだ」

父はひどく優しげに言った。


 父が幸福だったのは私の後ろに居たことだ。きっと私は人に見せられないような顔をしていたから。

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