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「この子、僕が貰っていい?」
初めてその男と会った時、彼は私を見下ろしてそう言った。
「ふざけるな」と叫びたかった。「誰がお前なんかに」と拒否したかった。でもプライドより命が大切だった私は何も言えなかった。
この国はクソだ。ほんの少ししかいない王侯貴族のために、なぜ我々平民が搾取されなければならないのだろう? なぜ見ず知らずの人のために汗水垂らして働いた結果得た物を渡さなければならないのだろう?
四年前から大飢饉が発生し、幾つもの村が壊滅的な被害を受けた。その影響は村だけでなく都市まで広がり、私が住む王都でも餓死する人が現れてしまうほどだった。町には騎士が居て取り締まっているのにも関わらず盗賊は増える一方で、昼間でさえ安心して出歩けなかった。
王侯貴族は暴利を貪り、遠方から珍しい品物を取り寄せ、肥える一方だと聞く。それは後に豚のような貴族を見て確信に変わった。
元々「王子が一人しか生まれないのは国民のせいだ」と責任転嫁し重税を課していたのもあって人々の不満は限界を超えていた。
そんな中、誰かが言った。「我々のための政府を作ろう」と。少数のために多数が犠牲になるなんて間違っていると。
一年ほど前には収穫量は元に戻り、餓死の心配は無くなっていた。命の危険がなくなると、不満は別のところ――貴族階級優遇の社会へと向かった。こんな社会でなければ飢餓にならなかったはずだと私たちは闘志を燃やした。
その声は瞬く間に広がり、平民議会を勝手に立ち上げ国王に直訴したり、騎士が関与できない平民だけの世界を作ったりと活動はどんどん広がった。子供だった私もできる限り協力した。
けれど、その動きは突発的なものばかりで、順番に鎮圧されていき、私も騎士に捕まり、牢屋に放り込まれてしまったのだ。
私を貰った男はこの国唯一の王子だった。彼は良くも悪くも浮世離れしていた。
彼の太陽のように輝く美しい髪には艶があり、儚げのある顔立ちをしている。白く細い体は選ばれた人間の証のようだった。
何が嬉しいのか笑みを浮かべる彼の後ろを、私は囚人のように――実際に罪を犯しているのだが――歩いた。
「こんにちは、美しい人。僕はリュシアン。君は?」
彼はこの国の次期王。そんな人物と話したくなかった。そもそも、私は美人と言われるような顔立ちでもないし、彼の前では無表情どころか嫌悪感を露わにしていて、むしろ不細工のはずだ。彼は平民を揶揄って遊んでいるだけだろう。何も反応がないと分かれば殺すなり解放するなりするだろう。
「僕は君のことが知りたい。明日も来るから話したくなったら話してね」
彼はそう言い残して部屋から出て行った。彼の護衛や召使いが全員退出してから、ガシャリと鍵が閉まる音がした。
王子はその後も毎日部屋に来た。しかし彼は私に何かをしたりさせたりすることはなく、ただ一方的に話して、ほんの少しだけ期待をして、そして去っていた。
三日ほど経ったある日のこと。彼はいつも通りの時間に来なかった。不安になってしまうのは気のせいだと思い込み、追い出されても良いよう、夕食後は体力温存のため早めに寝ることにした。
寝ようとした時、ノック音が聞こえ、控えめに扉が開いた。この開き方はおそらく王子。夜に訪ねてきたということはそういうことだろう。油断していた。窓から降りようにも、綱もなく暗い中では降りられない。
「こんばんは。あれ? もう寝てる?」
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