表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/119

21 早いもので、もうこんな時期です

 春が来て、一つ歳をとりました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。


 春生まれの私は、14歳になりました。おめでとう、私。前世を足したら何歳かしら、なんて考えてはいけないわね、オホホホ。


 私の誕生日は、何故かドヤール家の一大イベントになっている。なんと、お客様をお迎えしての夜会形式だ。お祖父様やお父様の誕生日は、ちょっと豪華な夕食になるぐらいの、ささやかなものだったのに。私の誕生日は、屋敷中を花で飾り付け、いつもは使わない大広間にパーティー会場を作り、厨房はフル回転で料理を準備。それでは飽き足らず、パーティー会場に面した広いお庭は幻想的にライトアップ(アルト商会の新商品『魔法灯』好評発売中ですわ!)され、そこにも沢山の花、料理、お酒etc。夜のガーデンパーティも素敵ねぇ。間違いなく売れるわ、魔法灯。じゃなくて。


 何故こんなに大掛かりなの?と文句を言う間も無く、朝からお母様、伯母様、侍女さん達に拉致られた私は、入浴、マッサージ、髪と肌の手入れと怒涛のスペシャルコース。豪華絢爛なドレスを着せられ、複雑な形に髪を結われ……。まぁ、どこのお姫様かってぐらい、飾り立てられましたよ。


「おぉ、サラナ!ワシの贈ったドレスがよく似合うなぁ!」


 ようやく解放されて、パーティー会場とやらに向かえば、ニッコニコのお祖父様が上機嫌で出迎えてくれた。この絹やら宝石やらで彩られたドレスは、お祖父様が贈ってくれた物だ。質実剛健な家風に合わせ、派手ではない上品な仕上がり。すごくお高いと思うの。さすがお祖父様です。私の趣味にもとても合います、けどね。


「お、お祖父様。当主である伯父様ではなく、私の誕生日なのに、何故こんなに大掛かりなんですか?」


 いくら孫バカのお祖父様でも、直系跡取りでもない孫娘の私に対して、お金をかけ過ぎだと思うの。このままではお客様に、お祖父様の孫バカっぷりがバレてしまうのではないのかしら。伝説の騎士なのに、孫バカ。英雄のイメージダウンよっ!


「うん?可愛い孫娘の誕生日だから、豪勢に祝うのではないか。三十を超えたオッサンの誕生日など、食卓に赤ワイン一本追加すればそれで良い」


 豪快に笑うお祖父様に、当の伯父様は苦笑い。まぁ確かに、御当主とはいえ、伯父様のお年で豪華な誕生会は恥ずかしいかも。生国ではよく、何とか侯爵の誕生会とかに誘われたけどね。前世の感覚からしたら、オッサンの誕生会って、イェーイ系の社長とかぐらいしかやってなかったし。私も前世では友人と、美味しいものを食べに行くぐらいだったなぁ。年をとると、誕生日はお祝いというより、通過点になっていくのよね、物悲しいわぁ。


「まぁ、お前は今年、デビュタントを控えているだろう?その前祝いと言うヤツだ。デビュタントの時は、もっと凄いぞ。どこの娘よりも、豪華に仕立ててやるからな」


 ニッコニコのお祖父様の爆弾発言。

 デビュタントッ!忘れてましたっ!私、十四歳ってことは、今年、社交デビューしなくてはいけないじゃないですかっ!


 貴族は十五歳で成人。その前の年に、社交デビューを迎えるのが常だ。お城で開催される、成人を祝う宴。そこに参加して、初めて貴族の一員と認められるのだけど。


 どこの貴族家も、張り切って一年以上前からデビュタントを彩る準備を始める。娘が少しでも良縁を掴める様に、それはもう本腰入れて準備するのだ。その縁繋ぎも兼ねて、デビュー前の数年間は、誕生日などの祝い事は大掛かりにやるのよねー。


「お、お祖父様。私、お嫁には行きませんわ。だから、デビュタントは慎ましく質素に……」


「何を言う!可愛いサラナを飾り立てる絶好の機会ではないかっ!豪勢に行くぞ、豪勢にっ!」


 力を込めて断言するお祖父様に、ウンウンと力強く頷く伯父様。


「で、でもお祖父様。そんな事をしたら、万が一お断り出来ない様な縁談が来てしまうかも……」


 自惚れているわけではないですよ。ドヤール家は有力な辺境伯家。最近は領地経営にも力を入れて、色々注目を浴びちゃっているから、縁を結びたい貴族家は多いでしょう。その手段として、縁談は最も手っ取り早いのだ。デビュタントで私が目立ったせいで『息子がお嬢さんに一目惚れしてー』なんて口実使われたら、断りにくいじゃない。


「はっ!サラナに群がる害虫どもは、ワシが切り捨ててやるわ!」


 やめて下さいっ!なんですか、その、撒き餌をしておいて、寄ってきた魚を蹴散らすみたいなやり方。最初から地味に目立たなくしていればイイじゃない。


「ふふふ。サラナを奪おうなどと身の程知らずが。その愚かさを、全身に刻んでやりましょう」


 伯父様まで、魔王みたいなセリフ、吐かないで下さい。


「バッシュ様、ジーク様。サラナが怖がっていますよ」


 お父様の声に、私は咄嗟に表情を繕う。怯えた様に見えるかしら。


「な、何っ?」


「サラナ?」


 お祖父様と伯父様が慌てて剣呑な笑いを引っ込め、私を恐る恐る覗き込む。


「お祖父様、伯父様。乱暴な事は、なさらないで……」


 くすん、と泣き真似をすれば、お祖父様と伯父様が大慌てで、冗談だよと、言い訳をしています。いえいえ、貴方達、本気だったでしょ?

 呆れたが、お祖父様と伯父様の必死な様子が面白くて、笑ってしまった。あからさまに、ホッとするお祖父様と伯父様。


 お父様は私の泣き真似なんてお見通しである。お父様は、普段から私をお祖父様と伯父様の抑止力として、上手に利用されているのだ。策士だからね。

 

「私は、デビュタントでお祖父様や伯父様やお父様と踊れたら、それで満足ですわ。どうか、目立つ様な事は、おやめ下さいな」


 ドレスや宝石にお金を掛けるより、事業投資をしましょうよ、そうしましょう。


 ニコニコとアレもやりたいなー、コレもやりたいなーと脳内でお金勘定をしていたら、お父様が苦笑された。


「いけないよ、サラナ。そのような、目先の事ばかりに囚われていては」


 お父様の穏やかな声に、背筋が伸びる。この声は、教育的指導仕様だわ。それにしても、はて?目先の事とは?


「いいかい?いくらドヤール家の事業としていても、目端の利く者には、君が数々の事業に関わっている事はお見通しだ。下手に隠しても、どうせ公になるだろうから、私達も真の権利者を偽装まではしていないからね」


 サラリとお父様は仰るけど、偽装しようと思えば出来るんですね。初耳です。でも、商業ギルドへの偽りの報告は、処罰よりも信頼が地に落ちるという、ある意味、商人的には致命的な罰が下るので、やりたくは無いわね。商売に信用、信頼は第一よ。


「そこでだ、サラナ。そんなお前が、装飾品に拘らず、髪を振り乱して事業ばかりにかまけていたら、どう思われる?商人にとっては信頼が第一だが、貴族として、余裕のなさは致命的だ。我らが侮られ、他から蹴落とされれば、領地や民を守るどころではない」


 うぅ。ど正論です。王子の婚約者をやっている時は、どんなに辛くても、内情が苦しくても、余裕をかました笑顔で乗り切ってきたのだもの。商売をするにしても、貴族という身分は忘れてはいけないのだ。


「はい……。申し訳ありません。私が浅はかでしたわ」


 心の底から反省し、項垂れていると、お父様がクスリと笑われた。


「というのは建前でね。私も、ただ、サラナを着飾りたいんだよ。私の可愛い娘の、大事な晴れ舞台だからね。あぁ、サラナ。なんて美しいんだ。私の娘は、まるで地上に舞い降りた天の遣いの様だ」


 お父様は私の手を取って、恭しく口付けた。


「小さな私の宝物。君が生まれた事は、私の人生で一番の喜びだ」


「お父様……」


 いつもは物静かで控えめなお父様が、溢れんばかりの笑顔を浮かべている。私は胸が熱くなって、目が潤むのを感じた。


「私も。お父様の娘で、本当に幸せです」


 嬉しくて誇らしくて、お父様にそっと抱きつく。大きくて温かくて。いつだって私を信じて、一番の味方になってくれる人だ。


「私。お父様のお嫁さんになりたいわ」


 私が9割本気でそう言うと、お父様は声を上げて笑われた。


「君もいつか出会うよ。私などよりも、命をかけても惜しくないぐらい、愛しい存在にね。それまでは、私の可愛いサラナでいておくれ」


 ギュッと抱きしめ返され、頭を撫でられる。んもう。お母様が羨ましいわ。こんなに素敵な旦那様がいて。


「……サラナや。ワシの事も忘れんでくれ」


 お祖父様がしょぼんとした顔で手を広げる。その後ろに、伯父様がお行儀よく並んでいた。


「お祖父様も伯父様も、大好きですわ」


 クスクス笑ってお祖父様と伯父様と抱擁を交わす。素敵な家族に囲まれた誕生会。そう思う事にして、規模が大き過ぎる事からは、意識を逸らす事にした。久しぶりの社交になりそうだけど、仕方ないわ。面倒だけどね。








書籍化作品


「追放聖女の勝ち上がりライフ」も連載しております。ご一緒にいかがでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミック発売中 転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います①~③

html>
アース・スター ルナより発売中
転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います①~④~


html>
― 新着の感想 ―
[一言] デビュタントをやらなきゃ望み通り社交もしなくて良いしひきこもれると思うんだ
[一言] デビュタントは、(お見合いをのぞき)嫁ぎ先探し開始だから、学園卒業(教育終了)後でも、よかったのではないだろたうか?
[一言] 強烈な個性の能筋な祖父様と伯父様に囲まれて、唯一血が繋がらない文系の父様は肩身が狭いと思います。 でもやるときはやるぞ!の精神大好き、応援しています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ